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2ndプロジェクト 殺人詐欺の怪奇談
26.感情の種類は喜怒哀楽……?
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「って嘘を暴くって……そうすると何かあるんだよな……東堂さん。それでだんまりを決め込まれてしまったらどうするんですか? それにぼくだけじゃ、少し不安ですね……」
これらの疑問が勢いを打ち消してしまった。もう一度、その勢いを灯すように東堂さんは古月さんを引っ張り出して、明るい口調でこう言った。
「ユニちゃんはあの警部にも信用あるから安心しなさい! 彼女が本当のことを言えば、彼もその周りにいる人も納得しちゃうんじゃない?」
「絵里利? すると、御影の最初の疑問が解決していないように思うんだけど。まあ……無理もないか。そのときは、そのときね」
「……嘘ついてるってことは、さあ」
古月さんの言葉に笑顔の花を咲かせて、喋る東堂さん。この局面を何とか、前向きに乗り越えていこうとする彼女の気持ちに勇気を貰った。
それだけではない。
「嘘は理想……誰かが理想を現実にするため、努力することだってある……だったら、その努力をしようとした理由を考えていけば相手の目的が分かるんじゃないかな。嘘をついた理由をね。夫人が黙っても大丈夫。嘘を暴いてどんな、様子になるか観察してきて。ねっ! ユニちゃん! 陽介君!」
「そうだね」
更に持つだけでも覚悟が必要なほど熱いものを授かったような気がする。
自分が嘘を暴く探偵になるなんて、数時間前までは微塵も考えていなかった。だけど真相に向き合おうとすると、誰かが応援してくれているという不思議な感覚になる。
「行くよ! 古月さんがいてくれれば、心強いと思う!」
「あーら。誉め言葉なのかしら、それは」
「そうそう。陽介君。嘘が理想なら『君が好き!』って嘘はどうなるのかな……あれ? 顔が真っ赤だけど、どうした?」
どうやら頬が熱くなっているのに関係しているらしい。からかうのはやめてください……
そんな様子に見かねた古月さんは、ぼくを引きずるように家は入っていく。
「何、デレデレしちゃってるの?」
「い、いや。何でもないよ」
「そうなの? けど、ここは事件現場なんだから。もう少し緊張感を持った方がいいわね。感情を押し出すのもありかもしれない」
「……なんだろう」
湯治さんの取り調べはリビングの向かいにある客間で行われているらしい。その声を聞きながら、小さな声で古月さんに拭い去れない悩みを打ち明けた。
「なんか。実感が湧かないんだよ。人が亡くなったっていうのに……分かんないんだよ」
「それで?」
ぼくは髪の毛を毟りながら、一つ一つ不器用に言葉を重ねていく。彼女は腕を組んで頷いていた。
「さっき、容疑者の言葉を聞いたときだって、確かに怒りを覚えた。だけど、その感情は……たった一瞬だったんだ! ぼくは、人の死を素直に悲しめないのかな……」
「アタシも同じ」
「えっ?」
彼女の意外な言葉にぼくは煙のようにはっきりしない感情を吹き飛ばしてしまった。何もない頭を使って冷静な彼女の話を聴き入る。
「アタシだって、何が起こったのか。分からなかったわよ。けど、刑事や名探偵がさあ、前回亡くなった人の話をする?」
「そ、それはアニメだからでしょ?」
「鈴岡警部はどうなの? アニメなの? 違うでしょ。彼だって目の前で亡くなっていた人にどんな感情を持っているのかは知らない。けど、一件一件……やってったら心が潰れるわよ! 彼はある一種の意思によって動いてるのよ!」
「どういうことなんだ?」
彼女の言葉が心に突き刺さるのか、優しく覆っているのかは分からなかった。彼女の言葉は強烈で忘れることは今後、できないかもしれない。
「彼は残された誰かを幸せにしたい。亡くなったの冥福を祈る。来世で幸せな人生を送れるように。そのためにも普通の感情を切り捨てて戦っているんじゃないかしら。怒りでもない、悲しみでもない。感情を持ってね。もしかしたら、貴方はその中間地点にいるんじゃないの? 亡くなった人を悲しんであげたい。そのために普通の感情を忘れて、本気で亡くなった人の思いを知りたいって気持ちに!」
「……そう……だね」
一歩一歩、前は突き進む。感情の種類は喜怒哀楽に限らないのかもしれない。まあ、何処かで怨みや憎しみも感情に入るとは耳にしたことはあるが、それは置いといて……
尚子夫人がいた家の奥にある台所へ。たぶん、考察するに彼が亡くなった理由を知ることができるかもしれない!
「尚子さん! 貴方は嘘をついている! 貴方は家にいた湯治さんを見ていない。事件当時もね!」
「証人はアタシ! 貴方、駅にいましたよね……アタシが証人です!」
ぼくも古月さんも目を瞑って言葉を放つ。この方が威圧感がある。目を開けると、雰囲気と現場の様子に怖気づいてしまうだろう。
「い、いきなり何?」
目を開ける。彼女の近くで話を聞いていた警官はぼくたちに「勝手に入ってきて」と顔を真っ赤にして叱ろうとしていたが、こちらの言葉で青色に変わった。何せ、追い出そうとした人物が事件に重要な人物だったのだから。尚子さんの表情もだいたい同じである。
「そう言えば、古月さんはさっき、尚子夫人に会ったって言ってたね。で、何かもっと……不思議な話があったような気がするんだけど」
疑問が頭から離れず、ぼくは彼女たちの前で掌に腕をつけて考え事を始めた。
これらの疑問が勢いを打ち消してしまった。もう一度、その勢いを灯すように東堂さんは古月さんを引っ張り出して、明るい口調でこう言った。
「ユニちゃんはあの警部にも信用あるから安心しなさい! 彼女が本当のことを言えば、彼もその周りにいる人も納得しちゃうんじゃない?」
「絵里利? すると、御影の最初の疑問が解決していないように思うんだけど。まあ……無理もないか。そのときは、そのときね」
「……嘘ついてるってことは、さあ」
古月さんの言葉に笑顔の花を咲かせて、喋る東堂さん。この局面を何とか、前向きに乗り越えていこうとする彼女の気持ちに勇気を貰った。
それだけではない。
「嘘は理想……誰かが理想を現実にするため、努力することだってある……だったら、その努力をしようとした理由を考えていけば相手の目的が分かるんじゃないかな。嘘をついた理由をね。夫人が黙っても大丈夫。嘘を暴いてどんな、様子になるか観察してきて。ねっ! ユニちゃん! 陽介君!」
「そうだね」
更に持つだけでも覚悟が必要なほど熱いものを授かったような気がする。
自分が嘘を暴く探偵になるなんて、数時間前までは微塵も考えていなかった。だけど真相に向き合おうとすると、誰かが応援してくれているという不思議な感覚になる。
「行くよ! 古月さんがいてくれれば、心強いと思う!」
「あーら。誉め言葉なのかしら、それは」
「そうそう。陽介君。嘘が理想なら『君が好き!』って嘘はどうなるのかな……あれ? 顔が真っ赤だけど、どうした?」
どうやら頬が熱くなっているのに関係しているらしい。からかうのはやめてください……
そんな様子に見かねた古月さんは、ぼくを引きずるように家は入っていく。
「何、デレデレしちゃってるの?」
「い、いや。何でもないよ」
「そうなの? けど、ここは事件現場なんだから。もう少し緊張感を持った方がいいわね。感情を押し出すのもありかもしれない」
「……なんだろう」
湯治さんの取り調べはリビングの向かいにある客間で行われているらしい。その声を聞きながら、小さな声で古月さんに拭い去れない悩みを打ち明けた。
「なんか。実感が湧かないんだよ。人が亡くなったっていうのに……分かんないんだよ」
「それで?」
ぼくは髪の毛を毟りながら、一つ一つ不器用に言葉を重ねていく。彼女は腕を組んで頷いていた。
「さっき、容疑者の言葉を聞いたときだって、確かに怒りを覚えた。だけど、その感情は……たった一瞬だったんだ! ぼくは、人の死を素直に悲しめないのかな……」
「アタシも同じ」
「えっ?」
彼女の意外な言葉にぼくは煙のようにはっきりしない感情を吹き飛ばしてしまった。何もない頭を使って冷静な彼女の話を聴き入る。
「アタシだって、何が起こったのか。分からなかったわよ。けど、刑事や名探偵がさあ、前回亡くなった人の話をする?」
「そ、それはアニメだからでしょ?」
「鈴岡警部はどうなの? アニメなの? 違うでしょ。彼だって目の前で亡くなっていた人にどんな感情を持っているのかは知らない。けど、一件一件……やってったら心が潰れるわよ! 彼はある一種の意思によって動いてるのよ!」
「どういうことなんだ?」
彼女の言葉が心に突き刺さるのか、優しく覆っているのかは分からなかった。彼女の言葉は強烈で忘れることは今後、できないかもしれない。
「彼は残された誰かを幸せにしたい。亡くなったの冥福を祈る。来世で幸せな人生を送れるように。そのためにも普通の感情を切り捨てて戦っているんじゃないかしら。怒りでもない、悲しみでもない。感情を持ってね。もしかしたら、貴方はその中間地点にいるんじゃないの? 亡くなった人を悲しんであげたい。そのために普通の感情を忘れて、本気で亡くなった人の思いを知りたいって気持ちに!」
「……そう……だね」
一歩一歩、前は突き進む。感情の種類は喜怒哀楽に限らないのかもしれない。まあ、何処かで怨みや憎しみも感情に入るとは耳にしたことはあるが、それは置いといて……
尚子夫人がいた家の奥にある台所へ。たぶん、考察するに彼が亡くなった理由を知ることができるかもしれない!
「尚子さん! 貴方は嘘をついている! 貴方は家にいた湯治さんを見ていない。事件当時もね!」
「証人はアタシ! 貴方、駅にいましたよね……アタシが証人です!」
ぼくも古月さんも目を瞑って言葉を放つ。この方が威圧感がある。目を開けると、雰囲気と現場の様子に怖気づいてしまうだろう。
「い、いきなり何?」
目を開ける。彼女の近くで話を聞いていた警官はぼくたちに「勝手に入ってきて」と顔を真っ赤にして叱ろうとしていたが、こちらの言葉で青色に変わった。何せ、追い出そうとした人物が事件に重要な人物だったのだから。尚子さんの表情もだいたい同じである。
「そう言えば、古月さんはさっき、尚子夫人に会ったって言ってたね。で、何かもっと……不思議な話があったような気がするんだけど」
疑問が頭から離れず、ぼくは彼女たちの前で掌に腕をつけて考え事を始めた。
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