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2ndプロジェクト 殺人詐欺の怪奇談
27.古月 結二の推論は少々乱暴であるのだが
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「真珠よ。アタシが駅で夫人を見かけたときにつけていた真珠が取れているのよね」
「……え?」
古月さんの観察眼からは何者も逃れることはできないらしい。この少女も敵に回したくはないものだ。彼女はそのまま、いつもの人を蔑み笑うような……愛らしくも憎らしい表情で嘘を暴かれた尚子夫人のもとへ歩いていた。
夫人は声も出なかったのか、警官と共に黙って彼女の質問を聞いている。
「真珠は、貴方が帰宅する前にリビングの倒れたタンスの中に入っていました。……さて、駅から二十分位かかるこの自宅に車やタクシーを使って戻ってきたんでしょう? そして、何かの理由で真珠をタンスの中に置かなければならなかったのよ! この行動の意味、貴方自身でやったことなんだから、分かるでしょう?」
「そうか」
ぼくは彼女の質問に納得した。彼女がここに戻ってきて真珠を置いていった。その行動を取ったのなら、どうしても死体に遭遇しなければならない事態が存在するのだ。しかし夫人は死体と会ったにも関わらず、容疑者となって呼ばれたときに再度、のうのうと戻ってきたのである。
……これなら、彼女が犯人なのかも!その思考が先回りし謎や筋道を考えずに、古月さんが発する次の言葉を待っていた。
「古月さん! もしかして! 彼女が!」
「ええ! 尚子夫人、どうなんですか?」
無言……驚いているのか。それとも、黙っていれば安心だとでも思っているのか。
それはないな、とぼくは嘲笑ってしまった。隣に警官がいるのだから、ここでぼくたちが真実を究明してしまえば……間違いなく夫人は殺人犯として、逮捕される!
「ふふふ……何も喋らなくても分かります。たぶん、貴方は荒らされたリビングに入って来たんだわ。そこで……ええと」
彼女が推理に詰まり始めた。仕方ない。彼女が鼻を長くしているところ申しわけないのだが、ぼくも推理に参加させてもらおう。
荒らされたリビングの中で真珠だけをタンスに戻す理由。理解できない。
……唾を飲み込み、考える。
手を伸ばして遠くの物を乱暴に取ろうとすると、近くにある物が邪魔をする。謎だって同じはずだ。今より遠くにある謎を考えるより近くにある謎から取り掛かろう。焦っている古月さんにそう耳打ちをした。
「わ、分かってるわよ! いちいちアンタに言われなくても分かってるつうーの! さっさと悩んでることをアタシに教えて謎解きは任せなさい! そ、その方が推理ショーみたいでいいでしょ!」
彼女らしい反応。あくまで自分は分かっているつもりらしい。気持ちを尊重させてあげるために謎を教えるしかないか……謎を見つけるのも謎解きの醍醐味だとは思うんだけど、彼女は気づいていないみたいだ。
ぼくは鼻から大きく息を出した後、彼女に向かって謎を囁いた。
「今、気になってるのはリビングが散らかった理由だよ」
「そうなの。なんだと思う?」
「し、知らないわよ! ……違う違う! だいたい分かるけど、アンタの意見を聞きたいだけよ!」
「……どう考えても、ぼくの意見を使うと思うんだけど……」
そんなやり取りをしていると、彼女は体を少し下げて頼み込んできた。いつもの顔を維持しつつ、こちらを敬うような形で……
「分かったわよ。お願い……します! 教えてください……」
「うん。じゃあ、一緒に考えようよ。完全犯罪を計画するみたいに……その方が犯罪する人の気持ちが分かるかもしれないから……まあ、いいや。もし古月さんが犯人だったら……被害者を殺害した後に何をする?」
こういうことを考えることは少しためらいもあるが、致し方ない。今は善の考え方など、空高くにでも吹き飛ばして、悪である完全犯罪をテーマに推理してみよう。ぼくは唇を噛みながら、想像してみた……なんだろうか。
「完全犯罪か……絵里利に借りを作るみたいで癪だけど、今はそんなこと言ってられないわね。……犯人だったら? 勿論、偽装工作をするでしょ? 夫人が犯人なら……そうか!」
彼女は不意に明るい顔に元通り。得意気になって、警官に質問をしていた。
「ちょっといいですか? 聞きたいことがあるんですが。被害者の家の資産、無くなってましたよね……」
クエスチョンマークがぼくの思考に浮かび上がる。
警官は嫌な顔を見せていると思っていたら、ハッと、目覚めたような表情になって彼女に返答していた。図星だったのかとぼくまで目を丸くしてしまう。
「よく分かったな……そう言えば、さっき家の中に入って探偵ごっこをやってたみたいだが、その時に?」
「いえ。違います。このトリックは尚子夫人がやるのならば、自分を疑いの外に出さなければならないと考えまして。そこから、強盗の仕業に見せかければ、自分が疑われないようにできる……という考えにたどり着きまして。情報提供、ありがとうございます」
彼女はそう言うと、警官に向かって気品よく敬礼をしていた。彼女に似つかないお嬢様行動にぼくは噴き出す。
「ちょっと……」
「え? で、でさ! 古月さん! 強盗の仕業に見せかけるため、部屋を荒らしたんですよね。そこから……どうして真珠を?」
彼女に小さく睨みつけられたような気がして慄いたぼくはつい、大きな声を出して疑問提示を
してしまった。
その言葉に焦る古月さん。隣に何も言わず立っている女の口が少しだけ横に動いているのが見えた……
「……え?」
古月さんの観察眼からは何者も逃れることはできないらしい。この少女も敵に回したくはないものだ。彼女はそのまま、いつもの人を蔑み笑うような……愛らしくも憎らしい表情で嘘を暴かれた尚子夫人のもとへ歩いていた。
夫人は声も出なかったのか、警官と共に黙って彼女の質問を聞いている。
「真珠は、貴方が帰宅する前にリビングの倒れたタンスの中に入っていました。……さて、駅から二十分位かかるこの自宅に車やタクシーを使って戻ってきたんでしょう? そして、何かの理由で真珠をタンスの中に置かなければならなかったのよ! この行動の意味、貴方自身でやったことなんだから、分かるでしょう?」
「そうか」
ぼくは彼女の質問に納得した。彼女がここに戻ってきて真珠を置いていった。その行動を取ったのなら、どうしても死体に遭遇しなければならない事態が存在するのだ。しかし夫人は死体と会ったにも関わらず、容疑者となって呼ばれたときに再度、のうのうと戻ってきたのである。
……これなら、彼女が犯人なのかも!その思考が先回りし謎や筋道を考えずに、古月さんが発する次の言葉を待っていた。
「古月さん! もしかして! 彼女が!」
「ええ! 尚子夫人、どうなんですか?」
無言……驚いているのか。それとも、黙っていれば安心だとでも思っているのか。
それはないな、とぼくは嘲笑ってしまった。隣に警官がいるのだから、ここでぼくたちが真実を究明してしまえば……間違いなく夫人は殺人犯として、逮捕される!
「ふふふ……何も喋らなくても分かります。たぶん、貴方は荒らされたリビングに入って来たんだわ。そこで……ええと」
彼女が推理に詰まり始めた。仕方ない。彼女が鼻を長くしているところ申しわけないのだが、ぼくも推理に参加させてもらおう。
荒らされたリビングの中で真珠だけをタンスに戻す理由。理解できない。
……唾を飲み込み、考える。
手を伸ばして遠くの物を乱暴に取ろうとすると、近くにある物が邪魔をする。謎だって同じはずだ。今より遠くにある謎を考えるより近くにある謎から取り掛かろう。焦っている古月さんにそう耳打ちをした。
「わ、分かってるわよ! いちいちアンタに言われなくても分かってるつうーの! さっさと悩んでることをアタシに教えて謎解きは任せなさい! そ、その方が推理ショーみたいでいいでしょ!」
彼女らしい反応。あくまで自分は分かっているつもりらしい。気持ちを尊重させてあげるために謎を教えるしかないか……謎を見つけるのも謎解きの醍醐味だとは思うんだけど、彼女は気づいていないみたいだ。
ぼくは鼻から大きく息を出した後、彼女に向かって謎を囁いた。
「今、気になってるのはリビングが散らかった理由だよ」
「そうなの。なんだと思う?」
「し、知らないわよ! ……違う違う! だいたい分かるけど、アンタの意見を聞きたいだけよ!」
「……どう考えても、ぼくの意見を使うと思うんだけど……」
そんなやり取りをしていると、彼女は体を少し下げて頼み込んできた。いつもの顔を維持しつつ、こちらを敬うような形で……
「分かったわよ。お願い……します! 教えてください……」
「うん。じゃあ、一緒に考えようよ。完全犯罪を計画するみたいに……その方が犯罪する人の気持ちが分かるかもしれないから……まあ、いいや。もし古月さんが犯人だったら……被害者を殺害した後に何をする?」
こういうことを考えることは少しためらいもあるが、致し方ない。今は善の考え方など、空高くにでも吹き飛ばして、悪である完全犯罪をテーマに推理してみよう。ぼくは唇を噛みながら、想像してみた……なんだろうか。
「完全犯罪か……絵里利に借りを作るみたいで癪だけど、今はそんなこと言ってられないわね。……犯人だったら? 勿論、偽装工作をするでしょ? 夫人が犯人なら……そうか!」
彼女は不意に明るい顔に元通り。得意気になって、警官に質問をしていた。
「ちょっといいですか? 聞きたいことがあるんですが。被害者の家の資産、無くなってましたよね……」
クエスチョンマークがぼくの思考に浮かび上がる。
警官は嫌な顔を見せていると思っていたら、ハッと、目覚めたような表情になって彼女に返答していた。図星だったのかとぼくまで目を丸くしてしまう。
「よく分かったな……そう言えば、さっき家の中に入って探偵ごっこをやってたみたいだが、その時に?」
「いえ。違います。このトリックは尚子夫人がやるのならば、自分を疑いの外に出さなければならないと考えまして。そこから、強盗の仕業に見せかければ、自分が疑われないようにできる……という考えにたどり着きまして。情報提供、ありがとうございます」
彼女はそう言うと、警官に向かって気品よく敬礼をしていた。彼女に似つかないお嬢様行動にぼくは噴き出す。
「ちょっと……」
「え? で、でさ! 古月さん! 強盗の仕業に見せかけるため、部屋を荒らしたんですよね。そこから……どうして真珠を?」
彼女に小さく睨みつけられたような気がして慄いたぼくはつい、大きな声を出して疑問提示を
してしまった。
その言葉に焦る古月さん。隣に何も言わず立っている女の口が少しだけ横に動いているのが見えた……
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