完全犯罪計画部!~ご相談につきどんな完全犯罪でも創ります!~

夜野舞斗

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2ndプロジェクト 殺人詐欺の怪奇談

29.してはいけないこと&取引

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 本当にごめんなさい。
 ぼくは家が響くほど、大きな足音と扉を勢いよく閉める音を耳にした。無理もない。結局は尚子夫人を告発しようとして失敗したのだから。その原因はぼく。ぼくが古月さんに赤っ恥をかかせてしまったと言っても過言ではない。
 廊下を駆けて行った彼女は怒りと悲しみのあまり、顔全体が歪んでいた。可哀そうなことをした……
 彼女のしたかったのは、彼女の偽証を暴くことだった。それがプライドの押し圧し合いで、何故か殺人犯に告発することに変わっていた……何故だろう。
 その疑問はどうでも良いとして、彼女の偽証を暴くとするか。その決意を持って僕は、尚子夫人の顔を直視した。

「すみません。話が色々とズレてしまいました。結局僕が聞きたいのは、貴方が何故……湯治さんが犯人だと告発したのか、聞きたいだけです。貴方は真珠を失くしていたと……聞きましたが何処で、どうしてが言えなければ、そのことを証明できずに現場に真珠を置いて……死体を放っておいて偽装工作をしたと警察には思われるでしょう。犯人候補として挙がるのは、「息子が犯人だ」と嘘をついていた尚子夫人だけです」

 次に発する言葉。責任は重いが、これを使ってみてもいいかもしれない。「完全犯罪計画部」の名にかけて、犯罪を武器として使用することを!

「僕は貴方がやっていた犯行を完全なものにさせて貰います。えっと……まあ、古月さんに口を閉じてもらうことだけ……ですけど、一応、後で僕が嘘を言わせて貰います。無償ではないです。情報交換をさせてもらえないでしょうか……」

 そう宣言しておいて、何か後ろめたいものを感じた。背筋を冷たい小指で触られるようで嫌な気持ちだった。これも一種の脅迫かも……
 僕は首を振って、気を取り直す。尚子夫人は歯を噛み締めて、唸っているような表情でこちらに鋭い眼差しを向けた。心臓がそれに反応する……これから、どうなるのかと問いかけてきた。

「……分かった。情報って何の?」

 了承してくれたようだ。それを理解して、彼女に暗い声で答える。

「その湯治さんを犯人にしようとした理由。それは本当に怪しいと思っていたんですか?」
「違うわ。ワタクシは……湯治を犯人に仕立て上げ、保険金をせしめようと思ったの……」
「保険金って被害者に高額のお金でも賭けてたんですか?」

 ……ありそうな話だ。目の前にいる夫人。どう見ても、この古い家には見合わない煌びやかな服装をしている。ルビーやら、サファイアが光っているらしいが、電気をつけても暗い部屋の中ではみすぼらしいだけだ。
 そんな彼女はきっと、金遣いが荒いに決まっている。どう考えても借金やら負債やらで困っているに違いない。それなら、息子にいなくなってもらい自分が保険金の全額を受け取ろうとしていたらしい。
 その話を聞いて、どんな顔をすれば良いのか分からなかった。夫が死んだら、保険金?息子を逮捕して、残されたものはすべて自分の物?
 悍ましくて、こんな言葉しか出すことができなかった。

「貴方は……最低な……妻、母親ですね」
「ええ。その部分、自分でも理解してますわ」
「そうですか。では……」

 僕は後ろを向き、台所から出ようとした。

「待ってくださる?」

 尚子夫人に呼び止められてしまった。……こういう時だけ、影が濃いと思うのは気のせいか。

「何ですか?」
「だけど、あの人。亡くなった次郎だって借金を作っていますわ。自分でね。別にワタクシだけじゃあないんですのよ。さっきいた男もそうですけど、ほとんどが借金取りみたいに……最近はそういう人たちに追いかけられているような気もしますわ」

 依頼で受けた被害者の何十万の損失以外にも、借金を作っていたのか。
 再び、この家の構造を見る。蜘蛛の巣が張って、床はいまにも穴が開きそうで、自業自得とは正にこのことを言うのだろうな。
 それに呆れて彼女の言葉に何も返答をせず、台所を後にする。引き留めようとする彼女は、半分ずつの悔しさと虚しさを抱いていたような……とても苦い顔をしていた。

「あっ! 君……真珠のことなんだけど……」
「すみません。あれ、勘違いでした!」
「……そう? まあ、本物だったってことは伝えておくよ」
「ありがとうございました」
「ああ……それとね

 廊下を歩いていた時に、鑑定を頼んだ警官と出会った。そこで、嘘をつく。しかし、何故か彼の長話を聞くことになってしまった。嘘をついたことの代償だと思い、無心状態で彼の言葉を受け入れる。宝石の話ばかりでちっとも関心を抱けなかったのだが。

「しかし……本物だとは。そうそう……リビングにあるあれについて、湯治さんから……」
「そろそろ……尚子夫人の取り調べに戻らなくていいんですか?」
「あっ! そうだ!」

 彼は口を大きく開けて、台所にすっ飛んでいった。客間から誰かが目を光らせていたが、ぼくが気にすることではないだろう。

「……次は、湯治さん。けど」

 やはり、一人きりで捜査をするのは心細い。庭にいる東堂さんたちに声をかけてみよう。

「えっと……」
「もう。陽介君……」

 彼女たちに歩み寄ろうとすると、いきなり東堂さんが額にコツンと拳をぶつけてきた。さほど、痛くはなかったのだが。
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