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歌わない合唱部員と放送規制!
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「どうしたら、いいんだ? 保健室に連れてった方がいいのか?」
「俺に任しとけ。担架を持ってきてやる! 俺に感謝――ぐぇ!?」
拳の背中が誰かの素早い飛び蹴りによって、飛ばされた。彼はそのまま音楽室の奥にある棚に顔をぶつけて、倒れ伏せた。ああ、犠牲者が二人になったか。
「これでいいかしら。彼が倒れてる彼女に痴漢か何か、したってことでいいのよね」
汗をかいて、息を荒げている下原さん。とんでもない誤解をしたくれたみたいだ。
次の瞬間、彼女は僕からスマートフォンを取り上げて大袈裟に呟いた。
「ええ!? 大変! 何で、こんなことが起きてるの!?」
僕は彼女の声質に驚いた。仰天するほど、棒読みだったのだ。
ここまで犯人が分かりやすい事件はない。僕達――やっとのことで起き上がった赤城さんと拳――は彼女に顔を向けた。
その時、黒板の前にあるピアノの音が音楽室の中で鳴り響く。僕達を静止するような高い音。ド、鍵盤で一番右にある音かな。
ピアノの陰から、ひょこっと美吉野さんが現れた。
「あ、あの……何でそんなことになってるんでしょうか」
真剣な彼女はただただ真面目に音を取っていただけ。ピアノから目を離した彼女は惨状を知り、慌てて辺りを見渡した。
僕は落ち着いて、彼女に送られてきたメールを見せようとしたところ、赤城さんに背負い投げを食らわされる。
「いてえ!? 何で?」
「何、人の秘密を勝手にばらそうとしてるのよ!」
怒る彼女をなだめようと僕は背中を擦りながら、事件の内容を口にした。
「た、確かにすっぴんの写真を公開されたときは驚いたし、本当は目に何も出来ていないのに、眼帯をしたのは目立ちたい――」
立ち上がった僕は彼女に腕を掴まれ、足払いをされた後、二度目の背負い投げを食らわされた。音楽室の床、意外と硬い!
「デリカシーもないのね! 秘密なんだから、喋らないのが常識ってもんでしょ」
「相手を投げるのは常――」
途中で彼女に舌打ちをされたので、口を閉じた。
そこで拳が分かりやすく包み隠さず、美吉野さんに事情を説明してくれた。僕が投げられた理由が分からなかったのだろうか。本当に何も隠してなかったために赤城さんに頭突きをされ、彼は地面に倒れた。
「誰か……この馬鹿二人をどぶ川に遺棄してきて……」
「お気持ちお察しします……亜野ちゃん。赤城さん。そんな事件が起きたのですか……」
「犯人はもう分かってるの。下原。あんたでしょ!」
「だから、違うって!」
否定する下原さんの目が笑っていた。まるで、事件の犯人にはならない理由でもあるかのように。
僕はすぐさま、その真意を崩してやろうと彼女に問いかける。
「アリバイでもあるのか? 余裕ぶった顔からすれば。そうとしか思えないんだけど」
「分かった。分かった。そうよ。正解。そのメールが届いた頃、私は職員室で先生に勉強で分からないことを質問してきました。これでいい?」
その余裕ぶりに反感を覚えた。だが、逆にそれだけの根拠があるのか。
赤城さんはハッタリだと考えていたそうだ。
「信用ならないわね。ちょっと、遠藤(拳の苗字)! 事実を聞きに行ってきなさい! こっちは、携帯の安否を確かめるから!」
「あっ、はい」間違いなく断ることが不可能な状態。彼は彼女の命令に素直に従った。
拳は赤城さんに顎で使われ、アリバイ調査に走っていった。僕達は彼女のスマートフォンが置いてあるはずの部室へと向かう。
既に先客がドアを押していた。鍵を持って、困惑している。その行動に僕も悩まされた。
「あれ……開かないじゃん」
「どうしよ……部室の中にカメラがあるし、活動が」
二人の女子生徒。写真部の二人のはず。部室は隣のはずだと、僕達は首を傾げた。彼女達は僕や赤城さんではなく、下原さんがいたことに気づき声を掛けてくる。
「あれ。亜野ちゃんじゃん。どうしたの?」
「どうしたのってここは合唱部の部室なんだけど、鍵穴弄くり回して壊さないようにして……ね」
優しい口調で語り掛ける下原さんに納得し、慌てた二人の女子はこちらに頭を下げ、そそくさと立ち去っていった。彼女達は写真部のドアに鍵を使っている。
この高校は年ごとの功績によって部室を変えているのだが、それを知らずに合唱部の部室を写真部の部室(僕達が入学した直後までは部室が逆だった)だと勘違いする人がいるらしい。部活名も扉に書いていないので、間違えても仕方がない。
今でも間違える人はいるんだな……そんなことを考えながら、僕は扉を引いた。あれ? 開かない?
「何やってるのよ! 嘘、開かない?」
今日、鍵当番を務める赤城さんは懐から、鍵を取り出しねじ込んだ。……開いた。これは俗にいう密室?
僕は辺りを見回した。彼女のスマートフォンは持ち出されたはずだ。事件が起こってから、直ぐに走ってきた下原さんは元の場所に戻しておく余裕があったのだろうか。
赤城さんは自分の鞄に入れておいたはずなのに、見当たらないと焦っている。鞄を逆さまにしても出てこない彼女は涙目で「ない! ない! 何処にもない! どうしよう!」と叫んでいた。
「あ、あ……発見しました」
窓のヘリの隅にスマートフォンが置いてあるのを通りかかった美吉野さんが見つけた。
赤口さんがスマートフォンを抱きしめて「良かったぁ」と安堵の声を漏らすと、僕達の視線はたちまち下原さんに集まっていた。
「……ちょっと待ってよ。秘密が公開されたのは、こ、コンピューターウイルスとか、そういう部類なんじゃないの?」
下原さんが笑って誤魔化しているが、そうはいかない。遠隔操作やコンピューターウイルスはその機器そのものを動かすことはできない。念力能力なら話は別だか、そんなことは絶対に信じない。
犯人は下原さんだ。
何時も、このヘリで読書をしているのを僕達は知っているのだ。彼女が何時もいる場所に置いてあった犯行の証拠。間違いなく、彼女はクロ。
歌わない合唱部員のが入部してきた目的。それは、赤城さんとトラブルがあり、その報復のためではないだろうか。
「ないわよ」ぼそりと赤城さんが囁いたことに対して、僕と美吉野さんは目を丸くした。
「そうそう。別に変なことなんてしてないし。トラブルなんて、起きてないし。特に入部前なんか、彼女と関わりすらしてないのに」
「そうよねえ……?」自分の言っていることが下原さんの無実を証明しているような気がしているのか、赤城さんは眉をひそめている。
「おい! ちゃんとアリバイがあるみたいだ。えっと、送信時間は五時二十五分で間違いないんだろうな?」
恐ろしいことを口にしているかのように、拳の声は震えていた。
「ええ……その時間にあたしの秘密が発信させられてる……」
拳の話によると、下原さんは数学の教師に質問を終えるときに時間を尋ねたらしい。しかも、それが犯行時刻と一致していた。アリバイを疑われることを見据えていたみたいだ。実に怪しい。
だが、あの校則があるから職員室でこそこそとメールをするなんて、できっこない。直ぐにバレてしまう。
では、スマートフォンの時刻を狂わせたのではないのか。赤城さんは「この高性能なスマホでそれはないわ」とその疑問を打ち消した。僕達は悩みこみ、辺り一帯が静かになる。
その沈黙を破ったのが拳の恐ろしい言葉。赤城さんと僕達の背筋が凍るような会話を始めた。
「ちょっとおかしい。コンピューターウイルスか遠隔操作……」
「それはさっき話したけど、無理。あたしは鞄の外にスマホを出していなかったのよ!」
「赤城。聞いてくれ。それに加えて、スマホの電源がついてたのに気づいた先公が隠してくれたんじゃないか?」
「……け、けど電源なんてついて……遠隔操作なら、電源を入れることも可能だわ。音を鳴らすことだって、可能だから……」
「それに気づいた先公がこの部屋を密室し、さらにスマホを……きっと見つからない場所に置いて……庇ってくれたんだろうな」
この高校。校内で電話は使用禁止なのだ。外で親と連絡を取るためにと、持ち込みは許可されているが、電源を入れることは許されていない。
つまり、僕達合唱部が秘密でスマートフォンを使っていることがバレてしまっている可能性が高い。このまま、犯人の調査何かしていたら、それが庇ってくれた教師以外の教員にも知れ渡り、電話の持ち込みさえも禁止されてしまうかも。
非情にまずい……非常にまずい……ネット依存症の僕にとって、禁断の事態だ……。
「今日の話は、ここまでにしときましょ……」
被害者である赤城さんが青い顔をして、合唱部の活動終了を告げた。……歌、一曲も歌えなかったのは残念だな。
紅色に染まった部室から退出し、もやもやした気持ちで帰宅することになった。
普通、教師がスマートフォンを隠すのなら電源を切って、鞄に入れればいい話なのだが。
下原さんが怪しいにしても、彼女は何故、密室にする必要があったのか……?
「……やべえ……何で、俺のお気に入りのグラドルとかの写真が公開されてるんだよ!」
「俺に任しとけ。担架を持ってきてやる! 俺に感謝――ぐぇ!?」
拳の背中が誰かの素早い飛び蹴りによって、飛ばされた。彼はそのまま音楽室の奥にある棚に顔をぶつけて、倒れ伏せた。ああ、犠牲者が二人になったか。
「これでいいかしら。彼が倒れてる彼女に痴漢か何か、したってことでいいのよね」
汗をかいて、息を荒げている下原さん。とんでもない誤解をしたくれたみたいだ。
次の瞬間、彼女は僕からスマートフォンを取り上げて大袈裟に呟いた。
「ええ!? 大変! 何で、こんなことが起きてるの!?」
僕は彼女の声質に驚いた。仰天するほど、棒読みだったのだ。
ここまで犯人が分かりやすい事件はない。僕達――やっとのことで起き上がった赤城さんと拳――は彼女に顔を向けた。
その時、黒板の前にあるピアノの音が音楽室の中で鳴り響く。僕達を静止するような高い音。ド、鍵盤で一番右にある音かな。
ピアノの陰から、ひょこっと美吉野さんが現れた。
「あ、あの……何でそんなことになってるんでしょうか」
真剣な彼女はただただ真面目に音を取っていただけ。ピアノから目を離した彼女は惨状を知り、慌てて辺りを見渡した。
僕は落ち着いて、彼女に送られてきたメールを見せようとしたところ、赤城さんに背負い投げを食らわされる。
「いてえ!? 何で?」
「何、人の秘密を勝手にばらそうとしてるのよ!」
怒る彼女をなだめようと僕は背中を擦りながら、事件の内容を口にした。
「た、確かにすっぴんの写真を公開されたときは驚いたし、本当は目に何も出来ていないのに、眼帯をしたのは目立ちたい――」
立ち上がった僕は彼女に腕を掴まれ、足払いをされた後、二度目の背負い投げを食らわされた。音楽室の床、意外と硬い!
「デリカシーもないのね! 秘密なんだから、喋らないのが常識ってもんでしょ」
「相手を投げるのは常――」
途中で彼女に舌打ちをされたので、口を閉じた。
そこで拳が分かりやすく包み隠さず、美吉野さんに事情を説明してくれた。僕が投げられた理由が分からなかったのだろうか。本当に何も隠してなかったために赤城さんに頭突きをされ、彼は地面に倒れた。
「誰か……この馬鹿二人をどぶ川に遺棄してきて……」
「お気持ちお察しします……亜野ちゃん。赤城さん。そんな事件が起きたのですか……」
「犯人はもう分かってるの。下原。あんたでしょ!」
「だから、違うって!」
否定する下原さんの目が笑っていた。まるで、事件の犯人にはならない理由でもあるかのように。
僕はすぐさま、その真意を崩してやろうと彼女に問いかける。
「アリバイでもあるのか? 余裕ぶった顔からすれば。そうとしか思えないんだけど」
「分かった。分かった。そうよ。正解。そのメールが届いた頃、私は職員室で先生に勉強で分からないことを質問してきました。これでいい?」
その余裕ぶりに反感を覚えた。だが、逆にそれだけの根拠があるのか。
赤城さんはハッタリだと考えていたそうだ。
「信用ならないわね。ちょっと、遠藤(拳の苗字)! 事実を聞きに行ってきなさい! こっちは、携帯の安否を確かめるから!」
「あっ、はい」間違いなく断ることが不可能な状態。彼は彼女の命令に素直に従った。
拳は赤城さんに顎で使われ、アリバイ調査に走っていった。僕達は彼女のスマートフォンが置いてあるはずの部室へと向かう。
既に先客がドアを押していた。鍵を持って、困惑している。その行動に僕も悩まされた。
「あれ……開かないじゃん」
「どうしよ……部室の中にカメラがあるし、活動が」
二人の女子生徒。写真部の二人のはず。部室は隣のはずだと、僕達は首を傾げた。彼女達は僕や赤城さんではなく、下原さんがいたことに気づき声を掛けてくる。
「あれ。亜野ちゃんじゃん。どうしたの?」
「どうしたのってここは合唱部の部室なんだけど、鍵穴弄くり回して壊さないようにして……ね」
優しい口調で語り掛ける下原さんに納得し、慌てた二人の女子はこちらに頭を下げ、そそくさと立ち去っていった。彼女達は写真部のドアに鍵を使っている。
この高校は年ごとの功績によって部室を変えているのだが、それを知らずに合唱部の部室を写真部の部室(僕達が入学した直後までは部室が逆だった)だと勘違いする人がいるらしい。部活名も扉に書いていないので、間違えても仕方がない。
今でも間違える人はいるんだな……そんなことを考えながら、僕は扉を引いた。あれ? 開かない?
「何やってるのよ! 嘘、開かない?」
今日、鍵当番を務める赤城さんは懐から、鍵を取り出しねじ込んだ。……開いた。これは俗にいう密室?
僕は辺りを見回した。彼女のスマートフォンは持ち出されたはずだ。事件が起こってから、直ぐに走ってきた下原さんは元の場所に戻しておく余裕があったのだろうか。
赤城さんは自分の鞄に入れておいたはずなのに、見当たらないと焦っている。鞄を逆さまにしても出てこない彼女は涙目で「ない! ない! 何処にもない! どうしよう!」と叫んでいた。
「あ、あ……発見しました」
窓のヘリの隅にスマートフォンが置いてあるのを通りかかった美吉野さんが見つけた。
赤口さんがスマートフォンを抱きしめて「良かったぁ」と安堵の声を漏らすと、僕達の視線はたちまち下原さんに集まっていた。
「……ちょっと待ってよ。秘密が公開されたのは、こ、コンピューターウイルスとか、そういう部類なんじゃないの?」
下原さんが笑って誤魔化しているが、そうはいかない。遠隔操作やコンピューターウイルスはその機器そのものを動かすことはできない。念力能力なら話は別だか、そんなことは絶対に信じない。
犯人は下原さんだ。
何時も、このヘリで読書をしているのを僕達は知っているのだ。彼女が何時もいる場所に置いてあった犯行の証拠。間違いなく、彼女はクロ。
歌わない合唱部員のが入部してきた目的。それは、赤城さんとトラブルがあり、その報復のためではないだろうか。
「ないわよ」ぼそりと赤城さんが囁いたことに対して、僕と美吉野さんは目を丸くした。
「そうそう。別に変なことなんてしてないし。トラブルなんて、起きてないし。特に入部前なんか、彼女と関わりすらしてないのに」
「そうよねえ……?」自分の言っていることが下原さんの無実を証明しているような気がしているのか、赤城さんは眉をひそめている。
「おい! ちゃんとアリバイがあるみたいだ。えっと、送信時間は五時二十五分で間違いないんだろうな?」
恐ろしいことを口にしているかのように、拳の声は震えていた。
「ええ……その時間にあたしの秘密が発信させられてる……」
拳の話によると、下原さんは数学の教師に質問を終えるときに時間を尋ねたらしい。しかも、それが犯行時刻と一致していた。アリバイを疑われることを見据えていたみたいだ。実に怪しい。
だが、あの校則があるから職員室でこそこそとメールをするなんて、できっこない。直ぐにバレてしまう。
では、スマートフォンの時刻を狂わせたのではないのか。赤城さんは「この高性能なスマホでそれはないわ」とその疑問を打ち消した。僕達は悩みこみ、辺り一帯が静かになる。
その沈黙を破ったのが拳の恐ろしい言葉。赤城さんと僕達の背筋が凍るような会話を始めた。
「ちょっとおかしい。コンピューターウイルスか遠隔操作……」
「それはさっき話したけど、無理。あたしは鞄の外にスマホを出していなかったのよ!」
「赤城。聞いてくれ。それに加えて、スマホの電源がついてたのに気づいた先公が隠してくれたんじゃないか?」
「……け、けど電源なんてついて……遠隔操作なら、電源を入れることも可能だわ。音を鳴らすことだって、可能だから……」
「それに気づいた先公がこの部屋を密室し、さらにスマホを……きっと見つからない場所に置いて……庇ってくれたんだろうな」
この高校。校内で電話は使用禁止なのだ。外で親と連絡を取るためにと、持ち込みは許可されているが、電源を入れることは許されていない。
つまり、僕達合唱部が秘密でスマートフォンを使っていることがバレてしまっている可能性が高い。このまま、犯人の調査何かしていたら、それが庇ってくれた教師以外の教員にも知れ渡り、電話の持ち込みさえも禁止されてしまうかも。
非情にまずい……非常にまずい……ネット依存症の僕にとって、禁断の事態だ……。
「今日の話は、ここまでにしときましょ……」
被害者である赤城さんが青い顔をして、合唱部の活動終了を告げた。……歌、一曲も歌えなかったのは残念だな。
紅色に染まった部室から退出し、もやもやした気持ちで帰宅することになった。
普通、教師がスマートフォンを隠すのなら電源を切って、鞄に入れればいい話なのだが。
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