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3.俺らはモンスターになった
電脳を漁る
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前澤の苦しみと、図書部員の見解を総合すれば、犯人は誰であれ、石田拓朗の行方をはっきりさせなれけば何も始まらないという結論に落ち着いた。
今までの石田拓朗とのやり取りを最初から辿れば、素直な後輩から調子に乗った異世界冒険者への変わりようが読み取れたものの、それ以上のものはなかった。結局はLINEの中から見えるのは彼の姿ばかりで、彼を支配する扉の影は見えないのである。
石田の足跡を調べるためには拓朗の部屋を捜索しなければならない。高畑がその結論に達するのは簡単だった。石田拓朗が境界の扉について調べた内容、取材した記録を確かめなければならなかった。
石田孝之の許しを得て高畑は柏の葉キャンパスに降り立った。拓朗の部屋にたどり着くまでの間、頭の中ではすでに家宅捜索が始まっていた。
クローゼットや本棚には興味がなかった。
関心があるのはデスク周りだけだった。最初に高畑が取り組む必要があるのはデスク周りの乱雑さを整理することだった。もちろん何が書かれているのかを確かめながら。
デスク周りの整理をすれば作業場所が確保できる。それから先はある意味高畑の本領である。何とかして拓朗のパソコンの中身を暴こうと考えていた。墓暴きに使えそうな道具を一通り携えた。ドライバー、データ複製ツールに複製先ハードディスク。
「試験勉強の間に調べてはみたんだが、外に散らかっている情報はどうにも要領を得ないんだ」
拓朗の部屋に高畑を通しつつも孝之が言葉をこぼした。
「多分ちょっとしたメモ書きなんだろう。どこかに取材ノートがあってもいいんだが、まだ見つけられてない」
「机の周りとか端末の中は調べましたか」
「机の上は見た。ただパソコンの方はロックしてあるみたいで入れない。IDはすでに入った状態で出てきたのだが、パスワードはどうしても分からなかった」
「使いそうな言葉とかは」
「思いつく限りは試してみた」
高畑は椅子に腰かけて机と相対した。孝之が言っていた通り捜索をしたのだろう、机の上に散らかっていたメモの山は複数の山にまとめられていて、机の天面が見えるようになっていた。
高畑は手前の山を手にして、トランプをめくるようにそれぞれの紙を確かめていく。ほとんどぐちゃぐちゃの線といった様子ばかりで、文字として読めるものは多くなかった。辛うじて読めるかと思えば意味のない言葉の羅列のように読めて結局はぐちゃぐちゃだった。
読めるレベルのメモは数える程度しかなかった。どれも断片的、それ単体では何となくの想像しかできない言葉のかけら。
『扉』『条件』『複数』。境界の扉に関する条件をメモしているようだが、肝心の条件はどこにも書かれていない。ただ複数という言葉を並べただけで、複数の条件があるのは残っているけれども、何が条件なのかは読み取れない。
『S30×』『S31×』『S32×』。はてさて、これが意味するものは何か。エスと数字の組み合わせとなれば、キーワードとして浮かぶものといえばサイズ。しかしそうだとすれば数字の意味が分からない。バツ印は何だろう。サイズが合わなかったということか。
『もっと昔の部誌』。四角いメモ全面にでかでかと刻まれた文字。これだけは一目見ただけで日本語だと分かった。部誌、図書部の部誌。石田が過去の文献を探し求めていた。気持ちの強さというか、書いた本人が抱えている思いの丈が殴りつけられていた。ずっと前から境界の扉のヒントを求めていたのを思い返す。
昔の部誌を求める思いを読んだ後になると、『S30×』の意味がようやく理解できた。昭和三十年、バツ。昭和三十年発行の部誌には何も書かれていなかった、ということか。昭和中期までの部誌を読み返した執念はすさまじいが、しかしそこまで遡っても手がかりがないということか。
『どこにある?』。場所を問いかける石田拓朗のメモ。判別できるメモを切り貼りすれば求めているのは部誌なのは明らか。あらかた見ることのできる号まで確かめてしまったということか。それでもなお境界の扉の姿をあぶり出すことに失敗しているわけだ。
眺め終えたメモ書きを石田孝之が整理したよりも端に追いやって机を空ける。いよいよ高畑はデスクトップパソコンの本体に手をかけた。背面に刺さったいくつものケーブルを引き抜いて横倒しにすれば、石田孝之がすぐ隣にやってきた。
「何をやろうと」
「データを回収します。システムとして起動ができないのであればデータだけ回収して、外からアクセスします」
「そんなことができるのか」
「ハードディスクの中身を全部コピーします。専用の機械を持ってきたのでそれを使います。暗号化してなければいいのですが」
「暗号化? されていたらどうするつもりだ」
「ログインするパスワードを見つけないとですね。見つからなかったらこの中身は見れません」
持ち込んだバッグから道具一式を机の上にばらまいた。ドライバーで筐体のネジを外せば次にパネルを取り外す。ほこりにまみれた中身があらわになれば、高畑は出来る限り息を吸い込んで、そうしてから口をとがらせて吹き飛ばすのだ。一面に飛び散るほこり。反射的に顔を背けた。
今までの石田拓朗とのやり取りを最初から辿れば、素直な後輩から調子に乗った異世界冒険者への変わりようが読み取れたものの、それ以上のものはなかった。結局はLINEの中から見えるのは彼の姿ばかりで、彼を支配する扉の影は見えないのである。
石田の足跡を調べるためには拓朗の部屋を捜索しなければならない。高畑がその結論に達するのは簡単だった。石田拓朗が境界の扉について調べた内容、取材した記録を確かめなければならなかった。
石田孝之の許しを得て高畑は柏の葉キャンパスに降り立った。拓朗の部屋にたどり着くまでの間、頭の中ではすでに家宅捜索が始まっていた。
クローゼットや本棚には興味がなかった。
関心があるのはデスク周りだけだった。最初に高畑が取り組む必要があるのはデスク周りの乱雑さを整理することだった。もちろん何が書かれているのかを確かめながら。
デスク周りの整理をすれば作業場所が確保できる。それから先はある意味高畑の本領である。何とかして拓朗のパソコンの中身を暴こうと考えていた。墓暴きに使えそうな道具を一通り携えた。ドライバー、データ複製ツールに複製先ハードディスク。
「試験勉強の間に調べてはみたんだが、外に散らかっている情報はどうにも要領を得ないんだ」
拓朗の部屋に高畑を通しつつも孝之が言葉をこぼした。
「多分ちょっとしたメモ書きなんだろう。どこかに取材ノートがあってもいいんだが、まだ見つけられてない」
「机の周りとか端末の中は調べましたか」
「机の上は見た。ただパソコンの方はロックしてあるみたいで入れない。IDはすでに入った状態で出てきたのだが、パスワードはどうしても分からなかった」
「使いそうな言葉とかは」
「思いつく限りは試してみた」
高畑は椅子に腰かけて机と相対した。孝之が言っていた通り捜索をしたのだろう、机の上に散らかっていたメモの山は複数の山にまとめられていて、机の天面が見えるようになっていた。
高畑は手前の山を手にして、トランプをめくるようにそれぞれの紙を確かめていく。ほとんどぐちゃぐちゃの線といった様子ばかりで、文字として読めるものは多くなかった。辛うじて読めるかと思えば意味のない言葉の羅列のように読めて結局はぐちゃぐちゃだった。
読めるレベルのメモは数える程度しかなかった。どれも断片的、それ単体では何となくの想像しかできない言葉のかけら。
『扉』『条件』『複数』。境界の扉に関する条件をメモしているようだが、肝心の条件はどこにも書かれていない。ただ複数という言葉を並べただけで、複数の条件があるのは残っているけれども、何が条件なのかは読み取れない。
『S30×』『S31×』『S32×』。はてさて、これが意味するものは何か。エスと数字の組み合わせとなれば、キーワードとして浮かぶものといえばサイズ。しかしそうだとすれば数字の意味が分からない。バツ印は何だろう。サイズが合わなかったということか。
『もっと昔の部誌』。四角いメモ全面にでかでかと刻まれた文字。これだけは一目見ただけで日本語だと分かった。部誌、図書部の部誌。石田が過去の文献を探し求めていた。気持ちの強さというか、書いた本人が抱えている思いの丈が殴りつけられていた。ずっと前から境界の扉のヒントを求めていたのを思い返す。
昔の部誌を求める思いを読んだ後になると、『S30×』の意味がようやく理解できた。昭和三十年、バツ。昭和三十年発行の部誌には何も書かれていなかった、ということか。昭和中期までの部誌を読み返した執念はすさまじいが、しかしそこまで遡っても手がかりがないということか。
『どこにある?』。場所を問いかける石田拓朗のメモ。判別できるメモを切り貼りすれば求めているのは部誌なのは明らか。あらかた見ることのできる号まで確かめてしまったということか。それでもなお境界の扉の姿をあぶり出すことに失敗しているわけだ。
眺め終えたメモ書きを石田孝之が整理したよりも端に追いやって机を空ける。いよいよ高畑はデスクトップパソコンの本体に手をかけた。背面に刺さったいくつものケーブルを引き抜いて横倒しにすれば、石田孝之がすぐ隣にやってきた。
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