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第二章『猫神学園に入学だ』
遅刻は遅刻
しおりを挟むギリギリセーフ。間に合った。
「おはようございます」
教室の扉を開き、首を傾げた。
んっ、あれ。なに、この視線。皆の目が怖い。なに、なに、なによ。そんな目で見ないでよ。もしかして、やっぱり遅刻。
「君は心寧ちゃんかな」
「あっ、はい」
「初日から遅刻だね」
「あの、その」
おかしい。なんで遅刻なの。
時計の針は八時……、えっと、えっと三十分か。六のところに長い針があるから間違いない。確か一時間目は四十分からのはず。なんで、なんで。遅刻じゃないでしょ。それともなにか勘違いしているのだろうか。
「十分、遅刻ですね。寝坊かな」
十分。なんで、どうして。首を傾げて考える。わからない。いくら考えてもわからない。なんだか首の後ろに虫がはいずり回っているような気がしてきた。
かゆい、かゆい、かゆいじゃないか。
ああ、我慢できない。ガシガシガシ。
「心寧ちゃん」
「あの、その、ち、違う、違うの。遅刻じゃないの。だって、だってまだ八時三十分でしょ」
「あれ、一時間目の前に読書の時間があるのを忘れていたのかな」
「えっとえっと」
なにそれ。読書の時間ってなに。
「ほらこれ」
先生が黒板横にある時間割表を指差した。
あっ、本当だ。一時間目の前に読書の時間と書かれていた。しまった。やっちゃった。ムムタに時間割のこと教えてもらっていたのに。最の最の最最最悪だ。草むらがあったら隠れたい。
「あの、先生。あのね」
「んっ、なんだい。あっ、そうそう先生はマネキです。覚えておいてね」
マネキ先生っていうのか。招き猫ってこと。確かに見た感じ招き猫だ。おもしろい。あっ、そんなこと今はどうでもいい。ちゃんと話さなきゃ。
「心寧ちゃん、聞いているのかな」
「はい、マネキ先生。よろしくお願いします。そうじゃなくって、わたし泣いている女の子の相談にのっていたの。乙葉ちゃんっていうんだけどね。だから遅れちゃって」
「そうなのか。なるほど」
マネキ先生は顎に手を置き頷いていた。
「先生、そんなのウソっぱちだよ。聞かなくていいからさ。続き、早く」
な、なによ。ウソっぱちって。そんなこと言うのは誰。
「ウソじゃないもん」
「寝坊だろう。ウソつくなって」
「なによ、何も知らないくせにウソだって決めつけないで」
「まあまあ、言い争わないで。ミヤビくんも心寧ちゃんも仲良くしなきゃね」
「だって、先生」
マネキ先生は時計をチラッと見遣り「じゃ読書の時間はこれまで。一時間目をはじめます。心寧ちゃんも席に座りなさい。窓側の二番目の席だからね」と背中を軽く押された。
ああ、なんだかむしゃくしゃする。ウソっぱちだなんて。本当のことなのに信じてくれないの。あいつ猫パンチしてやりたい。先生も先生だ。もっと話を聞いてくれてもいいのに。もう、もう、もう。暴れてやろうか。
あっ、ダメダメ。猫神様になるならどんなことにも穏やかでいなきゃ。怒りん坊さんになっちゃダメダメ。
「先生、その本の続きもっと読んでよ」
「ミヤビくん、続きは明日ね」
「ええーーー」
「そこ、うるさいですよ。ルールを守れない猫は猫神様になれませんよ」
「なんだよ、細かいこと言うなよ。えっと」
「コマチです。さっき自己紹介したばかりでしょ。名前を覚えられないようじゃそれこそ猫神様になんてなれませんよ」
ミヤビは舌打ちをして黙り込んでしまった。
なんだかあの子、厳しい。けど、言っていることは正しいか。ミヤビって子を黙らせるだなんてすごい。なんだかちょっとだけスッキリした。
「そうそう、そこの遅刻して来た子。心寧ちゃんでしたっけ。どんな理由があったとしても遅刻は遅刻ですからね」
心寧はシュンとして下を向く。そうか。そうだよね。遅刻はやっぱりダメだ。
ちゃんとしなきゃ。遅刻は遅刻だし反省しなきゃ。
心寧は溜め息を漏らして皆の顔を見遣った。そういえば、皆の名前ってなんだろう。嫌みな奴はミヤビであの厳しめの子はコマチか。自己紹介はもうしたみたいだけど。皆のこと知りたい。
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