時守家の秘密

景綱

文字の大きさ
45 / 53
第六話「怪しき茶壷と筆」

舟雲の策略

しおりを挟む

「いったい何の用なのさ」

 アキコは筆の舟雲に向けて文句をぶつけた。
 もう朝早くから叩き起こすなんて何様のつもり。眠くて仕方がないのに。依頼だったら自分じゃなく彰俊に話してほしいのに。

「静かに、静かに。おまえじゃなきゃダメなんだ。彰俊のためになることだ。な、俺様について来てくれ」

 彰俊のためになる。そうなの。本当だろうか。アキコは考え込んだすえに眠気に負けてそのまま目を閉じた。

「ぼ、ぼく行かない」
「おい、アキは出てくるな。アキコに用があるんだ。アキコはどうした」
「アキコは寝た。そんなことよりなんかおまえ企んでいる。違うか」
「まさか、そんなことはないさ。これは時守家に関わる重大な任務だぞ。アキコにしかできないことだ。だから、アキはちょっと眠っていてくれ」

 アキは舟雲を疑った。なぜかはわからないが嫌な予感がしていた。

「アキコ、ほら、出てきておくれ」
「もうあたいは眠いの」

 アキコはそう呟くと大欠伸をした。
 舟雲はホッとしたのか表情が和らいだ。

「いいか、よく聞くんだぞ。おまえは彰俊のこと好いているのだろう。だがその思いは通じぬ。沙紀がおるからな」
「そんな話だったら聞きたくない」
「待て、待て。俺様はおまえの思いを成就させてやろうって思っているんだ」
「成就。なんであんたが」
「実はな、沙紀は時守家にとって疫病神だとわかったんだ。沙紀と関わることで時守家は断絶してしまうとわかったんだ」

 断絶。沙紀は疫病神。

「それ本当なの。あんたにそんなことわかるの」
「ああ、本当だ。まあ、それを教えてくれたのは瑞穂という茶壷だがな。あいつは未来を見ることができるんだ」

 そうなのか。それなら沙紀を彰俊に近づけたらダメだ。そうよ、彰俊を守ってあげなきゃ。

「それであたいは何をすればいいの」
「簡単なことだ。沙紀と彰俊を引き離せばいいだけのこと。おまえと彰俊はいい仲だと知らしめてやればよい。沙紀が入り込む余地がないと思わせればよい」

 いい仲か。
 信じるだろうか。

「それはきっとダメね。沙紀は勘が鋭いところあるから嘘だとバレちゃうわ」
「そうか、それなら正直に話してみるか。沙紀が彰俊とともにいると不幸が訪れるから近づくなって」

 アキコは空を見ながら考え込んだ。確かにそっちのほうがいいのかも。本当のことなんだから。嘘じゃない。けど、本当に嘘じゃないの。この舟雲とかいう奴を信じてもいいの。わからない。もしも嘘だとしたら、沙紀と彰俊を引き裂くことはいいことではない。彰俊が他の人と恋仲になることは面白くない。けど、自分は人じゃない。それどころか女でもない。わかっている。身体は男。自分は、自分は……。本当はいなくていい人格。
 邪魔なのはきっと自分。

「おい、どうした。時守家断絶となってもいいのか。彰俊は死ぬのだぞ。二度と逢えなくなってもいいのか。沙紀を彰俊から遠ざければ回避できるのだぞ」
「本当に」
「ああ、本当だとも。そうすればアキコ、おまえは彰俊とずっと一緒にいられる」

 ずっと一緒にか。

「わかった。やってみる」
「これでいい、これですべてうまくいく。馬鹿な奴だ」
「えっ、何。今、あたいのこと馬鹿だって言った」
「おいおい、俺様は何も言っていないぞ。空耳だろう」

 おかしい。確かに聞こえたのに。けど舟雲の声じゃなかったかもしれない。それじゃ誰の声。空耳だったのだろうか。

しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

白苑後宮の薬膳女官

絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。 ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。 薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。 静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―

島崎 紗都子
キャラ文芸
父の手伝いで薬を売るかたわら 生まれ持った霊能力で占いをしながら日々の生活費を稼ぐ蓮花。ある日 突然襲ってきた賊に両親を殺され 自分も命を狙われそうになったところを 景安国の将軍 一颯に助けられ成り行きで後宮の女官に! 持ち前の明るさと霊能力で 後宮の事件を解決していくうちに 蓮花は母の秘密を知ることに――。

処理中です...