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第六話「怪しき茶壷と筆」
ここで命運が尽きるのか
しおりを挟む「おい、アキコ。返事をしろ」
「ふん、馬鹿な奴だ。無駄死にしおって。我はそんなことでは死なぬ」
無駄死に……。そんな馬鹿な。アキコが死んだっていうのか。それならアキも死んだのか。あいつらは同体。そんなことがあってたまるか。
「アキコ、返事をしろ。アキでもいい。返事をしろ」
「うるさいぞ。あいつは死んだ。返事なんかできるわけがなかろう」
目の前で髭をさすりニヤリとする死神に怒りを覚えた。
「おまえは許さない」
「許さない。ならどうする。我を殺すか。馬鹿馬鹿しい。人間如きに死神を葬ることなどできぬ。だが我にはおまえを殺すことができるぞ」
死神は徐にノートを取り出すと空白のページを開き、舟雲を引き寄せ掴み取ると『時守彰俊』と記した。
「これで完璧だ。おまえは死ぬ運命となった。今度こそ息の根をとめてやる」
な、なに。
うぅっ、な、なんだ。急に胸が苦しくなってきた。心臓が、心臓が……。
「お、おまえ……」
ニヤリとする死神がゆっくりと近づいて来る。
「『心筋梗塞により死す』と明記してやった。それと地獄行きともな」
死ぬのか。なんで、どうして。嫌だ、死にたくない。
彰俊は眉間に皺をよせ胸を押させて跪く。
「アキ、アキコ……」
ピクリとも動かずに倒れている座敷童子猫の姿が目に映る。
どうやら自分は死ぬようだ。今回ばかりは回避できないだろう。そう思えた。
「沙紀ちゃん……」
沙紀の姿も目に留まる。沙紀も死んでしまったのだろうか。そういえば確認していない。もしも沙紀も亡くなっているのなら生きている意味はないのかもしれない。
時守家、断絶。いや、違う。父も母もいるじゃないか。霊力がなくたってなんとかなるはずだ。もしもどうにもならないとしたって時守家が断絶するわけじゃない。秘密で行っていた仕事ができなくなるだけだ。それでもいいじゃないか。
ここで自分は死ぬ。仕方がない。諦めるしかない。栄三郎と瑞穂の過ちの責任は自分が取ろう。ああ、でもやっぱり死にたくない。何か、何か策はないのか。
「ダメ、彰俊はダメ。死んじゃダメ」
アキ、アキか。
「あたいの分まで生きて。お願い」
アキコ。
彰俊は倒れている座敷童子猫をじっと見遣るが動く気配はない。空耳だったのだろうか。
そうだ、きっと空耳だ。
苦しい、ダメだ。もう……。額から脂汗が滴り落ちる。
沙紀とアキ&アキコへ手を伸ばす。どう考えても手が届きそうにない。せめて手を繋いで逝きたかった。残念だ。彰俊は「うっ」と呻き声をあげそのまま瞼を閉じた。
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