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おまけ「座敷童子猫の心の痛み」
僕、頑張る
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アキは武を思い涙した。
責任を感じていた。自分が洞穴を抜け出さなければ武は……。
溜め息を漏らして項垂れる。ダメだ、ダメだ。武の分まで生きて幸せになるんだ。彰俊に心配させるのもよくない。
そういえば栄三郎と出逢ったのはそのあとだった。
武の遺体の横で寄り添い寝ていたときに栄三郎に抱き上げられて優しく声をかけてくれた。栄三郎は安全な田舎街まで連れて行ってくれた。疎開とか言うらしいとあとで知った。けど田舎でもあの恐ろしい大きな鳥と出逢うことはあった。どこに行っても怖い思いはついてくるものだ。
人とは恐ろしい生き物だと思ったのもその頃だ。ただ全員がそうじゃないと知ったのもその頃だった。武や栄三郎との出逢いがなければ、そんなことは思わなかったかもしれない。
そう、あれは戦争というものだ。
なぜ人はそんな恐ろしいことを行うのだろうか。なぜ殺し合うのだろうか。食べるために鼠や鳥を殺すことはあるけれど、人はそうじゃない。ただ殺し合っているだけだ。そんな人なのに思いやりもある。人ってよくわからない。
戦争というものが人を恐ろしい者に変えてしまったのだろうか。そうだとしたら恐ろしいのは戦争だ。
武……。
ぼんやりと空を眺めてまた溜め息を吐く。
あっ、飛行機だ。今だったら大きな鳥だなんて思わない。
大きな鳥か。ふいに襲われる武の姿を思い出して顔を伏せた。
二度とあんな思いはしたくはない。
町のあちこちで灰のような遺体が転がり、敵国の爆撃や艦載機の攻撃から逃げ惑う日々が再びやってこないことを祈る。ときどきテレビのニュースで似たような光景を目にすることがあるが今でも戦争というものを行っているところがあるのだろうか。
アキはブルッと身体を震わせてかぶりを振った。
嫌だ、嫌だ。
『彰俊は僕を置いていったりしないよね。いや、いつの日か彰俊も旅立ってしまうだろう』
人の寿命は長くはない。まだ先のことだとしても、いずれはひとりぼっちになってしまうのかもしれない。自分は物の怪だもの。人より早くあの世に逝くことはない。栄三郎や彰俊みたいないい人が現れてくれたらいいけど。今はそんなこと考えなくてもいいか。
今は楽しいから、それでいい。
あのころは変化もできないただの猫だったけど、今は栄三郎の蔵にいる付喪神のおかげでいろんな能力を身につけられた。猫としての寿命は尽きても物の怪として復活した。そのときの栄三郎の嬉しそうな顔が蘇ってくる。
そう役に立ててよかった。
彰俊の役にも立ちたい。優しくしてくれる彰俊のためにも。
ほら、また心配そうな顔をして彰俊が近づいてきた。
「アキ、本当に大丈夫なのか」
「大丈夫」
「そうか、ならいいけどな。あまり悩むんじゃないぞ。もしかしてアキコのこと考えていたのか」
えっ、アキコのこと。そうか彰俊はそんなこと考えていたのか。
「ううん、違う。本当に、大丈夫だから」
アキコか。そういえばアキコが現れたのは武が亡くなったときだった。ショックのあまりアキコという人格を生んでしまったのだろう。けど……今は。
「わかった。もし何かあったら俺に言えよ。相談にのるからな」
『彰俊、ありがとう』
そう口にしようとしたが言葉に詰まってしまった。そのかわりほろりと涙が頬を伝った。
「ああ、アキを泣かしやがって。阿呆、唐変木、ひとでなし」
「おまえは黙っていろ、トキヒズミ」
「そうだ黙れ、トキヒズミ」
「はいはい、黙りますよ。まったくアキにまでそんなこと言われたら黙るしかないじゃないか」
トキヒズミはすごすごと奥の部屋へと引き上げて行った。
「アキ、泣きたいときは泣けばいいさ」
やっぱり優しいな彰俊は。思い出したくはない悲しい思い出だけど、武のことは忘れるわけにいかない。時が来たら彰俊にも武の話をしてあげよう。今はまだ胸が痛むから無理だけど。
あ、トキヒズミに悪いこと言ってしまったかも。口は悪いけど良い付喪神なんだ、トキヒズミも。
アキは小さく息を吐き外へと目を向けた。
こういうときにアキコだったらどうするだろう。
死神ヨムに立ち向かったとき以来、アキコの気配は感じられない。アキコの人格は消えてしまったのだろうか。それとも眠っているだけなのだろうか。そのうちけろっとした顔をして「あたいはここにいるよ」なんて出てきてくれるだろう。そう信じたい。
ちょっと寂しいけどアキコがいなくてもひとりで頑張らなきゃ。あっ、ひとりじゃないか。彰俊もいるし、トキヒズミもいる。幽霊だけど栄三郎もいる。
『ぼくはひとりじゃない。そうでしょ、アキコ。そして、武』
***
(おまけ・完)
***
責任を感じていた。自分が洞穴を抜け出さなければ武は……。
溜め息を漏らして項垂れる。ダメだ、ダメだ。武の分まで生きて幸せになるんだ。彰俊に心配させるのもよくない。
そういえば栄三郎と出逢ったのはそのあとだった。
武の遺体の横で寄り添い寝ていたときに栄三郎に抱き上げられて優しく声をかけてくれた。栄三郎は安全な田舎街まで連れて行ってくれた。疎開とか言うらしいとあとで知った。けど田舎でもあの恐ろしい大きな鳥と出逢うことはあった。どこに行っても怖い思いはついてくるものだ。
人とは恐ろしい生き物だと思ったのもその頃だ。ただ全員がそうじゃないと知ったのもその頃だった。武や栄三郎との出逢いがなければ、そんなことは思わなかったかもしれない。
そう、あれは戦争というものだ。
なぜ人はそんな恐ろしいことを行うのだろうか。なぜ殺し合うのだろうか。食べるために鼠や鳥を殺すことはあるけれど、人はそうじゃない。ただ殺し合っているだけだ。そんな人なのに思いやりもある。人ってよくわからない。
戦争というものが人を恐ろしい者に変えてしまったのだろうか。そうだとしたら恐ろしいのは戦争だ。
武……。
ぼんやりと空を眺めてまた溜め息を吐く。
あっ、飛行機だ。今だったら大きな鳥だなんて思わない。
大きな鳥か。ふいに襲われる武の姿を思い出して顔を伏せた。
二度とあんな思いはしたくはない。
町のあちこちで灰のような遺体が転がり、敵国の爆撃や艦載機の攻撃から逃げ惑う日々が再びやってこないことを祈る。ときどきテレビのニュースで似たような光景を目にすることがあるが今でも戦争というものを行っているところがあるのだろうか。
アキはブルッと身体を震わせてかぶりを振った。
嫌だ、嫌だ。
『彰俊は僕を置いていったりしないよね。いや、いつの日か彰俊も旅立ってしまうだろう』
人の寿命は長くはない。まだ先のことだとしても、いずれはひとりぼっちになってしまうのかもしれない。自分は物の怪だもの。人より早くあの世に逝くことはない。栄三郎や彰俊みたいないい人が現れてくれたらいいけど。今はそんなこと考えなくてもいいか。
今は楽しいから、それでいい。
あのころは変化もできないただの猫だったけど、今は栄三郎の蔵にいる付喪神のおかげでいろんな能力を身につけられた。猫としての寿命は尽きても物の怪として復活した。そのときの栄三郎の嬉しそうな顔が蘇ってくる。
そう役に立ててよかった。
彰俊の役にも立ちたい。優しくしてくれる彰俊のためにも。
ほら、また心配そうな顔をして彰俊が近づいてきた。
「アキ、本当に大丈夫なのか」
「大丈夫」
「そうか、ならいいけどな。あまり悩むんじゃないぞ。もしかしてアキコのこと考えていたのか」
えっ、アキコのこと。そうか彰俊はそんなこと考えていたのか。
「ううん、違う。本当に、大丈夫だから」
アキコか。そういえばアキコが現れたのは武が亡くなったときだった。ショックのあまりアキコという人格を生んでしまったのだろう。けど……今は。
「わかった。もし何かあったら俺に言えよ。相談にのるからな」
『彰俊、ありがとう』
そう口にしようとしたが言葉に詰まってしまった。そのかわりほろりと涙が頬を伝った。
「ああ、アキを泣かしやがって。阿呆、唐変木、ひとでなし」
「おまえは黙っていろ、トキヒズミ」
「そうだ黙れ、トキヒズミ」
「はいはい、黙りますよ。まったくアキにまでそんなこと言われたら黙るしかないじゃないか」
トキヒズミはすごすごと奥の部屋へと引き上げて行った。
「アキ、泣きたいときは泣けばいいさ」
やっぱり優しいな彰俊は。思い出したくはない悲しい思い出だけど、武のことは忘れるわけにいかない。時が来たら彰俊にも武の話をしてあげよう。今はまだ胸が痛むから無理だけど。
あ、トキヒズミに悪いこと言ってしまったかも。口は悪いけど良い付喪神なんだ、トキヒズミも。
アキは小さく息を吐き外へと目を向けた。
こういうときにアキコだったらどうするだろう。
死神ヨムに立ち向かったとき以来、アキコの気配は感じられない。アキコの人格は消えてしまったのだろうか。それとも眠っているだけなのだろうか。そのうちけろっとした顔をして「あたいはここにいるよ」なんて出てきてくれるだろう。そう信じたい。
ちょっと寂しいけどアキコがいなくてもひとりで頑張らなきゃ。あっ、ひとりじゃないか。彰俊もいるし、トキヒズミもいる。幽霊だけど栄三郎もいる。
『ぼくはひとりじゃない。そうでしょ、アキコ。そして、武』
***
(おまけ・完)
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退会済ユーザのコメントです
ありがとうございます。
そうですね、アキには幸せであってほしいですね。
最後までお付き合いしていただき嬉しいです。(=^・^=)