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第四章 ネムと真一、そして神再び
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しおりを挟む真一の足元に顔を擦り付け「にゃ」とスサが鳴く。母の目を気にしているのかスサはただの猫に成りすましている。
「どうした?」としゃがみ込みスサに耳を傾けると小声で「ネムが来た」と告げた。ネムの名を聞いたとたん真一は玄関へと足を向けた。が、スサに裾を噛り付かれて止められる。スサの力は見かけによらず強くて、前のめりになり倒れそうになるのを何とか踏ん張り堪えた。
やはり只者ではない。スサは虎のような姿に変化(へんげ)できるのだから、力はおそらく虎と同等かそれ以上の力があるのだろう。今は、可愛い猫の姿だから油断していた。
スサは真一の母がいないことを確認して手招きをした。なんだとスサに顔を近づけると、「庭だ」とだけスサは耳元で囁いた。
すると、背後から母の甲高い声が飛んで来た。
「あら、眠多猫ちゃん。ああ、もう居たんじゃない。もしかして、真一のサプライズだったのかしら」
サプライズではない。だが、母の歓喜の声を聞いてしまっては今更否定するのも面倒だ。サプライズだということにしちまおうか。
奥の部屋から母がネムを抱っこして微笑んできた。ネムは勘弁してくれというように、目で訴えていた。母はまったく気づいていない。
「母さん、ネムが苦しそうだよ。下ろしてやって」
「えっ、そう。ごめんね、眠多猫ちゃん。嬉し過ぎて強く抱きしめちゃったわね」
そう言いながらネムに頬擦りして、畳へ下ろした。ちょうどネムとスサが対面する形になり、喧嘩が始まるのではというくらいの鋭い視線のやり取りが一瞬だけ垣間見えた。言葉がなくても、何か通じるものがあるのだろうか。ネムとスサはすぐに鼻先を合わせるようにして、何かを確認していた。大丈夫だろうか。ネムはきっとスサを誤解しているはずだ。そう思って様子を窺っていたら、母が唐突に「はい、仲良くしましょうね」と間に割り込んだ。
ネムもスサもそんな母に苦笑いを浮かべている。そう見えただけかもしれないが、真一には苦笑いをしたように映った。母がいるところでは、話しは出来ない。猫が話し出したら、母はきっと気絶する。しなかったとしても、ショックが大き過ぎるだろう。帰ってきたばかりだが、散歩でも行ってここは三者会談を開いたほうがよさそうだ。
「母さん、ちょっと散歩してくるからさ」
「え、そうなの。なら、猫ちゃんたちと遊んでいようかしら」
「あ、ネムもスサも一緒に連れて行くから」
「なんでよ」
ちょっと納得していないようだが、ネムとスサがすでに玄関で早く扉開けてくれと無言の訴えをしていた。母もその眼差しに猫たちと遊ぶのを諦めたようだ。
真一はそそくさと扉を開けて外へ出た。
話すなら、やはり神社が一番だと二匹の猫を引き連れて歩みを進める。運よく誰ともすれ違うことなく神社に着くことが出来た。もし、誰か知り合いにでも出逢ってしまったら面倒だ。猫好きの人だったら、もっと面倒だ。
『お利口さんね』『あら、この猫ちゃんは三毛猫の雄じゃない』『猫と散歩だなんてすごい』『写真撮ってもいいですか?』などなど考えられる言葉はいくらでもある。一番厄介なことは、やっぱり三毛猫の雄だとわかってしまうことかもしれない。いや今は、おそらくもっと厄介なことに首を突っ込んでしまっているのだろうな。よくわからないが、ネムとスサたちのいざこざは根深い物があるのかもしれないから。
真一は社の方へ先陣を切って歩いて行く猫二匹の姿を見つつ、小さく息を吐く。
神社は静まり返って厳かな雰囲気が漂っている。この感じは好きだ。それにしても、ここはいつ来ても誰もいない。なんでだろうな。もしかしたら霊的な者がいるのかもしれない。ネムたちは感じているのだろうか。いや、神社に霊的な者はいないか。
念のため社の裏側に回り込み、そこで話をすることにした。誰も来ないとは言い切れないからな。
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