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第一話 謎の鍵が示す先
【二十二】謎めいた地下室へ
しおりを挟むスマホの明かりで扉の鍵穴を照らしてポケットに手を入れる。
あれ、ない。鍵はどうしたっけ。
「遼哉、どうしたの」
「いや、鍵がみつからなくてさ」
「おやおや、鍵がなくては開かないねぇ」
「本当にそうよ。お祖母ちゃんの言う通り。もしかして、部屋に置き忘れてきたんじゃないの」
「そうかも」
「もう、そういうところどうにかしなさいよね」
ハルが笑いを堪えているのが背中越しに伝わってきた。
「悪いけど、小海。ちょっと部屋を見てきてくれないか」
「しょうがないんだから」
引き返していく小海の背中に「ごめん」と謝った。
小海は振り返らずに手を振って階段を上がっていく。
「遼哉さん、ちょっとうるさいところはあるけど、あの子はいい子ですからね。仲良くしてやってください」
「はい」
ハルに笑みを浮かべて頷いた。
小海とは長い付き合いだから、わかっている。ちょっとの間は離れてはいたけど、そんなこと感じさせないところが小海の凄いところかもしれない。
口には出さなかったけど心の中では『ハルさん、大丈夫です。小海のこと大事にしますから』と呟いていた。単に恥ずかしくて言えなかっただけだ。
ふと階段の上を見上げると、小海とグレンの姿があった。部屋からの光がスポットライトみたいで輝いて見える。可愛い奴だ。
あっ、デレッとした顔をしていなかっただろうか。ハルに目を向けて、大丈夫かと安堵する。暗くて顔がはっきりしない。きっと自分の顔もきちんと見えていなかっただろう。
それはそうと、もう鍵をみつけたのか。早いな。
「遼哉、あったわよ。テーブルの下に落ちているのをグレンがみつけてくれたわ。まったく大事なものを落とさないでよね」
「気をつけます」
またしてもハルは笑いを堪えているようだった。
「なんだか、夫婦喧嘩みたいで楽しいねぇ」
「もう、お祖母ちゃんたら」
こういう雰囲気は好きかも。足元からはグレンの鳴き声とともに扉を引っ掻く音がした。
「グレン、今開けるからな」と遼哉は声をかけると、小海に渡された鍵を鍵穴に差し込み回す。
カチリと音がした。妙な昂揚感が湧いてくる。
この扉の先にはいったい何が待っているのだろう。
軋む音を耳にしながら扉を開いていく。やっと源じぃの思いを叶えてあげられる。
あれ、源じぃの思いってなんだろう。よく考えてみたら、そんな話は一度もしていない。まあいいか。きっと、この扉の先に源じぃの思いが伝わる何かがあるのだろう。『頼む』と言われたのだから。
本当に夢の国があるのだろうかと妄想する。
期待で胸を膨らませて開いた扉の先は、闇だった。
何も見えやしない。
ふいに灰色猫が踊る場面が脳裏に蘇る。
あれは夢だ。そんなことありえない。あの夢の猫はグレンに似ていた。だからって、いきなりグレンが踊り出すなんてことはないだろう。いや、あるのだろうか。
まさか。
そうだ、三人の小人が話し出すってことは。
待て、待て。期待するな。
ただ、ここに小人の人形が置かれている可能性はある。源じぃの原稿にあった人形の話が頭の中で合致した。
何も見えない部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、ブルッと身体が震えた。寒さで震えたわけじゃない、武者震いだ。
なんだろう。この感じ。心の中で何者かが騒ぎ立てている。
何かが始まる。そんな予感がしてきていた。
さぁ、来い。なんでもいいから、来い。いや、自分から行こう。
もう一歩踏み出したとたん、パッと電気が点いて眩しさに顔を背けて目を細めた。
「電気くらいつけなさいよね」
なんだ小海がつけたのか。ネコダンスが始まるのかと一瞬期待したのに。
「おや、懐かしいねぇ。樹実渡は、ここにいたんだねぇ。それなら……まさかと思うけど、おまえはあのときの猫なのかい。そんなことあるはずがないよねぇ」
心なしかハルの声音が高く感じた。ハルはしゃがみ込みグレンの頭を撫でている。そのグレンの口には黄色い服の人形が銜えられていた。あれは……。
灰色猫と水干姿の小人の夢が鮮明に蘇る。
なんだ、この感覚は。もしかして、あいつ。動き出すかも。急に話し始めるかも。人形を凝視したのだが、いくら待っても動き出す気配はない。それでも遼哉はじっとみつめていしまう。
ピクリとも動かない。そりゃそうだ。あれは夢だ。現実にそんなことが起こるはずがない。
そうだとしても、黄色の水干姿の人形がいるのなら、赤色の巫女姿の人形と青色の水干姿の人形もいるのではないか。源じぃの原稿にはなんて書いてあっただろうか。
思い出せない。
この部屋のどこかに置かれているのだろうか。
あたりを見回してハッとする。
「源じぃ」
嘘だろう。生きていたのか。
遼哉は源じぃと目が合い、一歩後退る。まさか、そんなはずは……。一瞬、そう思ったが額縁に目が留まり、絵だと気づきフゥーと息を吐く。
リアル過ぎて、心臓に悪い。
源じぃの名前が絵の中に記されている。それにしても本物みたいだ。今にもニコリと微笑みそうだ。写真かとも思えたが絵に間違いないようだ。
改めてよく見ると、源じぃは若かった。昔描かれたものなのだろう。
絵を眺めていると、背後から小海とハルの会話が耳に届いた。
「お祖母ちゃん、知っているの、この子のこと」
「ああ、知っているよ。この人形は三体あってねぇ。私の家には緋色の巫女姿の火乃花がいるんだよ。けど、どこへやっただろうねぇ。押入れだったか……。もう一体は伴治さんのところにあるはずだねぇ。藍色の水干水干姿の流瀧が。そして、この子が山吹色の水干姿の樹実渡。この猫ちゃんが、あのときの生まれ変わりだったら勢ぞろいなんだけどねぇ」
気づけば、ハルは頬を濡らしていた。ハルの背中を撫でて、小海もまた瞳を潤ませている。
この地下室には思い出が詰まっているようだ。源じぃたちの青春時代がここにあると言っても過言じゃないのかもしれない。
それにしても、どうして本がないのだろう。本棚がたくさんあるのに一冊もない。
そんなことよりも、ハルの話は興味深い。夢に登場した小人たちと重なる。あれは予知夢みたいなものだったのだろうか。
この部屋でのことをもっと詳しく知りたい。源じぃはこの部屋で何をしていたのか。
「あのハルさん、ここの部屋で何があったのかを詳しく知りたいんですけど」
「そうかい、それなら話そうかねぇ」
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