本の御魂が舞い降りる

景綱

文字の大きさ
22 / 161
第一話 謎の鍵が示す先

【二十二】謎めいた地下室へ

しおりを挟む

 スマホの明かりで扉の鍵穴を照らしてポケットに手を入れる。
 あれ、ない。鍵はどうしたっけ。

「遼哉、どうしたの」
「いや、鍵がみつからなくてさ」
「おやおや、鍵がなくては開かないねぇ」
「本当にそうよ。お祖母ちゃんの言う通り。もしかして、部屋に置き忘れてきたんじゃないの」
「そうかも」
「もう、そういうところどうにかしなさいよね」

 ハルが笑いを堪えているのが背中越しに伝わってきた。

「悪いけど、小海。ちょっと部屋を見てきてくれないか」
「しょうがないんだから」

 引き返していく小海の背中に「ごめん」と謝った。
 小海は振り返らずに手を振って階段を上がっていく。

「遼哉さん、ちょっとうるさいところはあるけど、あの子はいい子ですからね。仲良くしてやってください」
「はい」

 ハルに笑みを浮かべて頷いた。
 小海とは長い付き合いだから、わかっている。ちょっとの間は離れてはいたけど、そんなこと感じさせないところが小海の凄いところかもしれない。
 口には出さなかったけど心の中では『ハルさん、大丈夫です。小海のこと大事にしますから』と呟いていた。単に恥ずかしくて言えなかっただけだ。

 ふと階段の上を見上げると、小海とグレンの姿があった。部屋からの光がスポットライトみたいで輝いて見える。可愛い奴だ。
 あっ、デレッとした顔をしていなかっただろうか。ハルに目を向けて、大丈夫かと安堵あんどする。暗くて顔がはっきりしない。きっと自分の顔もきちんと見えていなかっただろう。

 それはそうと、もう鍵をみつけたのか。早いな。

「遼哉、あったわよ。テーブルの下に落ちているのをグレンがみつけてくれたわ。まったく大事なものを落とさないでよね」
「気をつけます」

 またしてもハルは笑いを堪えているようだった。

「なんだか、夫婦喧嘩みたいで楽しいねぇ」
「もう、お祖母ちゃんたら」

 こういう雰囲気は好きかも。足元からはグレンの鳴き声とともに扉を引っ掻く音がした。

「グレン、今開けるからな」と遼哉は声をかけると、小海に渡された鍵を鍵穴に差し込み回す。

 カチリと音がした。妙な昂揚感が湧いてくる。
 この扉の先にはいったい何が待っているのだろう。
 きしむ音を耳にしながら扉を開いていく。やっと源じぃの思いを叶えてあげられる。

 あれ、源じぃの思いってなんだろう。よく考えてみたら、そんな話は一度もしていない。まあいいか。きっと、この扉の先に源じぃの思いが伝わる何かがあるのだろう。『頼む』と言われたのだから。

 本当に夢の国があるのだろうかと妄想する。
 期待で胸を膨らませて開いた扉の先は、闇だった。
 何も見えやしない。

 ふいに灰色猫が踊る場面が脳裏に蘇る。
 あれは夢だ。そんなことありえない。あの夢の猫はグレンに似ていた。だからって、いきなりグレンが踊り出すなんてことはないだろう。いや、あるのだろうか。
 まさか。

 そうだ、三人の小人が話し出すってことは。
 待て、待て。期待するな。
 ただ、ここに小人の人形が置かれている可能性はある。源じぃの原稿にあった人形の話が頭の中で合致した。

 何も見えない部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、ブルッと身体が震えた。寒さで震えたわけじゃない、武者震いだ。
 なんだろう。この感じ。心の中で何者かが騒ぎ立てている。
 何かが始まる。そんな予感がしてきていた。
 さぁ、来い。なんでもいいから、来い。いや、自分から行こう。
 もう一歩踏み出したとたん、パッと電気が点いて眩しさに顔を背けて目を細めた。

「電気くらいつけなさいよね」

 なんだ小海がつけたのか。ネコダンスが始まるのかと一瞬期待したのに。

「おや、懐かしいねぇ。樹実渡きみとは、ここにいたんだねぇ。それなら……まさかと思うけど、おまえはあのときの猫なのかい。そんなことあるはずがないよねぇ」

 心なしかハルの声音が高く感じた。ハルはしゃがみ込みグレンの頭を撫でている。そのグレンの口には黄色い服の人形がくわえられていた。あれは……。

 灰色猫と水干姿の小人の夢が鮮明に蘇る。
 なんだ、この感覚は。もしかして、あいつ。動き出すかも。急に話し始めるかも。人形を凝視したのだが、いくら待っても動き出す気配はない。それでも遼哉はじっとみつめていしまう。

 ピクリとも動かない。そりゃそうだ。あれは夢だ。現実にそんなことが起こるはずがない。
 そうだとしても、黄色の水干姿の人形がいるのなら、赤色の巫女姿の人形と青色の水干姿の人形もいるのではないか。源じぃの原稿にはなんて書いてあっただろうか。

 思い出せない。
 この部屋のどこかに置かれているのだろうか。
 あたりを見回してハッとする。

「源じぃ」

 嘘だろう。生きていたのか。
 遼哉は源じぃと目が合い、一歩後退る。まさか、そんなはずは……。一瞬、そう思ったが額縁に目が留まり、絵だと気づきフゥーと息を吐く。

 リアル過ぎて、心臓に悪い。
 源じぃの名前が絵の中に記されている。それにしても本物みたいだ。今にもニコリと微笑みそうだ。写真かとも思えたが絵に間違いないようだ。
 改めてよく見ると、源じぃは若かった。昔描かれたものなのだろう。
 絵を眺めていると、背後から小海とハルの会話が耳に届いた。

「お祖母ちゃん、知っているの、この子のこと」
「ああ、知っているよ。この人形は三体あってねぇ。私の家には色の巫女みこ姿の火乃花ほのかがいるんだよ。けど、どこへやっただろうねぇ。押入れだったか……。もう一体は伴治さんのところにあるはずだねぇ。藍色の水干すいかん水干姿の流瀧るたきが。そして、この子が山吹やまぶき色の水干姿の樹実渡。この猫ちゃんが、あのときの生まれ変わりだったら勢ぞろいなんだけどねぇ」

 気づけば、ハルは頬を濡らしていた。ハルの背中を撫でて、小海もまた瞳を潤ませている。

 この地下室には思い出が詰まっているようだ。源じぃたちの青春時代がここにあると言っても過言じゃないのかもしれない。
 それにしても、どうして本がないのだろう。本棚がたくさんあるのに一冊もない。
 そんなことよりも、ハルの話は興味深い。夢に登場した小人たちと重なる。あれは予知夢みたいなものだったのだろうか。
 この部屋でのことをもっと詳しく知りたい。源じぃはこの部屋で何をしていたのか。

「あのハルさん、ここの部屋で何があったのかを詳しく知りたいんですけど」
「そうかい、それなら話そうかねぇ」

しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。

秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。 「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」 第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。 着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。 「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。 行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。 「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」 「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」 氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。 一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。 慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。 しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。 「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」 これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

孤児が皇后陛下と呼ばれるまで

香月みまり
ファンタジー
母を亡くして天涯孤独となり、王都へ向かう苓。 目的のために王都へ向かう孤児の青年、周と陸 3人の出会いは世界を巻き込む波乱の序章だった。 「後宮の棘」のスピンオフですが、読んだことのない方でも楽しんでいただけるように書かせていただいております。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

え?私、悪役令嬢だったんですか?まったく知りませんでした。

ゆずこしょう
恋愛
貴族院を歩いていると最近、遠くからひそひそ話す声が聞こえる。 ーーー「あの方が、まさか教科書を隠すなんて...」 ーーー「あの方が、ドロシー様のドレスを切り裂いたそうよ。」 ーーー「あの方が、足を引っかけたんですって。」 聞こえてくる声は今日もあの方のお話。 「あの方は今日も暇なのねぇ」そう思いながら今日も勉学、執務をこなすパトリシア・ジェード(16) 自分が噂のネタになっているなんてことは全く気付かず今日もいつも通りの生活をおくる。

退屈令嬢のフィクサーな日々

ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。 直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。

【完結】冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~

深山きらら
恋愛
名門貴族フォンティーヌ家の長女エリアナは、継母と美しい義妹リリアーナに虐げられ、自分の価値を見失っていた。ある日、「悪魔公爵」と恐れられるアレクシス・ヴァルモントとの縁談が持ち込まれる。厄介者を押し付けたい家族の思惑により、エリアナは北の城へ嫁ぐことに。 灰色だった薔薇が、愛によって真紅に咲く物語。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

処理中です...