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第三話 溜め息を漏らす本たち
【二十】きらめく宝文堂
しおりを挟む「見て、見て。あの子よ。インスタにあった写真そのまま」
「猫ちゃんも黄色いお人形さんも、本当にかわいい」
すごい人気だ。狭い空間が熱気でいっぱいだ。樹実渡は抱き上げられても、動くことなく人形に成りすましている。頑張っている。
遼哉は周りに気づかれないように、樹実渡に目で『偉いぞ』と伝えた。きっと伝わっただろう。
今日は、最高の一日だ。右を見ても左を見ても客、客、客だ。
「わっ、すごい」
火乃花が帰って来るなり、そう呟き慌てて口を閉ざしていた。
相変わらずだ。
普段だったら、人形がしゃべったと大騒ぎになるだろう。そうならなかったのも、この混雑のせいだ。誰も気づいていない。
小さな町の本屋がこんなにも盛況になるとは誰が予想しただろう。
グレンも白猫も愛嬌振り撒いて可愛がられている。しかも、猫関連本の傍に行きじっとみつめたりしていた。その効果は抜群で猫関連本を手にする人が増えていた。
正直、あまりない状況にきちんと対応できているか不安だった。
『猫ちゃんの肉球印を押して欲しい』なんて人が出て来たときは困った。けど、グレンは嫌がりもせず肉球印を押してくれて助かった。
肉球印を押すたびに「ニャ」との声をあげて、お客さんに「可愛い」との声を貰っていた。白猫のほうはさすがに手を持たれることが嫌だったのかレジ裏に隠れてしまった。
猫にもいろんな性格があるから、仕方がない。
「わぁっ」
突然、歓声があたっがかと思ったら、入り口に茶トラ猫に跨った流瀧が登場した。
「かわいい」との声と「かっこいい」との声が入り混じっている。
チラッと様子を見ると、流瀧は人形を演じてぴくりとも動かないでいる。やっぱり流瀧はすごい。流石だ。火乃花はというと本当は動き出したいのだろうが、頑張ってくれている。もちろん樹実渡も頑張ってくれている。じっと見ていると、動いたかもと思えるところはあるが気のせいだと思ってくれるだろう。あとで褒めてあげなくてはいけない。
今日はご馳走を振舞ってあげよう。
ふと保立親子に目を向けるとふたりとも涙していた。こんな光景を見られるとは思っていなかったのだろう。信じていなかった達哉もこの光景には胸を打たれるものがあったのだろう。
達哉は幹夫に何か話しているようだ。涙目になりながらも、いい笑顔をしている。なんだかんだ言って息子の達哉も宝文堂のことを大切な場所だとは思ってくれていたのかもしれない。
***
閉店間際まで来店者は途切れなかった。
最後の客を見送って店を閉めたあと、達哉が思わぬ言葉を幹夫に呟いていた。
「宝文堂のことちょっと妻にも相談してみるよ」
驚きだ。御魂三人衆のおかげだ。達哉の心も変えてしまうなんて。
良い答えが聞けることを祈ろう。
本当に今日は大成功だった。
明日も明後日もずっと続くといいのだが、どうなるだろうか。
今日のような混雑にならなくてもある程度の客が見込められればいい。しばらくはグレンに看板猫として頑張ってもらおう。きっと固定客が出来るはずだ。あとは宝文堂でしか買えない本や特典を何かしら考え続けることが鍵になるだろう。
そうだ、本の御魂三人衆と猫たちの写真集を作るのはどうだろうか。父に相談してみよう。きっと売れるに違いない。
「遼哉、おいら腹減ったよ。昼飯ぬきだったからな。晩飯は、うな重にしてくれよ」
遼哉は思わず笑ってしまった。
「ああ、うな重にしよう。もうハルさんに話してあるから大丈夫だ」
「おお、そうか。なら、早く行こう」
「そうだな。ある程度片付いたし。保立さん、一緒に晩御飯食べに行きませんか」
「私もかい」
「もちろんです。小海も行くぞ。流瀧、火乃花もな」
「ニャ―」
「あっ、グレンもいたよな。それにグレンの友達もな。何か猫用に作ってもらうか」
猫たちにそう話すとなんとなく嬉しそうに見えた。
「あっ、みんな今の声聞こえたか。本たちが『ありがとう』って言っているぞ」
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