わが家のもふもふ様

景綱

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第三章 仲間は多いほうがいい

3 チナの退院(1)

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 チナが退院すると聞き、僕は病院へと向かうことにした。行く前に母に花束を買いたいからと小遣いを強請ねだったらあっさりとくれた。五千円もくれた。僕にとって大金だ。しかも「応援しているからね」なんて声をかけられてしまった。

「あっ、エマには内緒にしてね。ひとりで行きたいからさ」
「わかったわよ」

 僕はエマが二階にいることを確認してこっそり出掛けようとしたところでもふもふ様が頭の上に乗ってきた。

「おい、どこへ行くんだ。おいらも連れていけ」

 ああ、しまった。もふもふ様にみつかってしまった。もふもふ様にみつからずにこっそり出掛けるのは無理だったか。

「つかまえた。エマを置いていったらダメなんだからね。ねぇ、もふもふ様」
「そういうことだ」

 しかたがない、一緒に行くしかない。奥から「エマ、邪魔しちゃダメだからね。わかっているわよね」との母の声が飛んできた。

「はーい。お兄ちゃんとチナちゃんラブラブだもんね。邪魔しないよぉ」

 僕は溜め息を漏らすとはしゃいでいるエマとニヤニヤ顔のもふもふ様とともに出掛けた。

「エマ、花を買ってからいくからな」
「お花、お花、お花をあげたらチュッチュクチュー」
「エマ、その歌はなんだ」
「えへへ、チュッチュクチュ―の歌だよ」

 まさかチュッチュクチュ―ってキスのことか。きっとそうだ。

「やっぱり、エマは家に帰れ」
「えええ、エマ、行く。絶対、行くの」
「なら、変な歌はナシだからね」
「はーい」

 きっと、ずいぶん素直じゃないか。いや油断禁物だ。返事だけでまた変な歌を歌うはずだ。だからって強引に帰せないだろう。僕はやっぱりエマに甘い。

「あっ、花屋さん見えた。チュ……。じゃなくてチナちゃんが喜ぶ花を買おうね」

 エマの奴、言いかけて僕の顔を見た。まあ、今のはセーフだ。

「エマ、どんな花がいいと思う」
「えっとね、えっとね。やっぱりバラかな」

 バラか。
 花屋に入っていろいろと見回してみると、やっぱりバラが一番目につく。花のことはよくわからない。エマはバラだって言うけど、ここは店員に相談しよう。
 チナのことと退院祝いだと話すと店員にアニマルオーナメント付きのアレンジメントを勧められた。

「アニマルオーナメントはネコちゃんとクマちゃんがあるんだけど、どっちにしますか」

 ネコとクマか。どっちがいいだろう。

「ネコちゃんがいい。ぜったい、ぜったい、ネコちゃんだよ」

 エマの一言でネコに決めた。きっと、チナも気に入ってくれるだろう。
 これで準備OK。早いところ病院に行かなきゃ。

「お兄ちゃんとチナちゃんがアッチッチ。あっ」

 またエマが歌い出したかと思ったら、僕の顔を見てギュッと口をつぐんだ。
 エマの顔を見て僕は吹き出しそうにった。

「怒らないよ」
「えへへ、またやっちった」

 まったくしかたがない奴だ。けど、エマの笑顔を見るとつい許してしまう。
 病院へは電車に乗って三つ目の駅で降りればすぐだ。エマは電車に乗るだけではしゃいでしまう。乗る前にきちんとおとなしくするように話してある。それでも、小声でなにか歌を歌っていた。聞こえるか聞こえないくらいの声だし電車は空いていたからきっと迷惑にはなっていないだろう。
 目的の駅に着くとたい焼きのいい匂いがしてきた。

「うわぁ、たい焼きだ。エマ、食べたい」
「おいらは油あげがいいな。けど、たい焼きも美味そうだ」
「あれ、もふもふ様も食べるのか。食べているの見たことないけど」
「ふん、おいらはこっそり盗み食いしているんだよ」
「えええ、もふもふ様、それはダメだよぉ」

 エマの言う通り、それはダメだ。そうかそれでこないだ母が『厚揚げ買ったはずなのにどこいっちゃったんだろう』って言っていたのか。

「お兄ちゃん、たい焼き、たい焼き」
「わかったよ、たい焼き買おう。花を買ったときのお釣りがあるからな」

 たい焼きは三つしか買えなかった。
 エマと僕ともふもふ様のぶんで三つだけど、チナにも持っていきたかった。しかたがない。お金が足りなかったから。
 僕のたい焼きをチナにあげよう。それがいい。
 歩きながらもぐもぐたい焼きを食べるエマの顔は満面の笑みだ。そんなに美味しいのだろうか。もふもふ様はというと、たい焼きを一口で全部食べてしまった。すごいとしか言いようがない。食べたというよりも丸呑みだ。

「なんだ、おいらの顔になにかついているか」
「いや、なにも」
「そうか、ところで侑真は食べないのか」
「ああ、チナにあげようかと思って」
「そうか、そうか」
「お兄ちゃん、やっぱりチュッチュクチュ―になちゃうね。きっと」
「ならないよ」

 きっと僕の顔は赤くなっているのだろう。エマがまた歌い出しそうになって僕がチラッと目を向けたら口をギュッと閉じたから間違いない。
 他愛もない話をしつつ歩いていたらあっという間に病院に着いてしまった。

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