25 / 39
第三章 仲間は多いほうがいい
3 チナの退院(1)
しおりを挟むチナが退院すると聞き、僕は病院へと向かうことにした。行く前に母に花束を買いたいからと小遣いを強請ったらあっさりとくれた。五千円もくれた。僕にとって大金だ。しかも「応援しているからね」なんて声をかけられてしまった。
「あっ、エマには内緒にしてね。ひとりで行きたいからさ」
「わかったわよ」
僕はエマが二階にいることを確認してこっそり出掛けようとしたところでもふもふ様が頭の上に乗ってきた。
「おい、どこへ行くんだ。おいらも連れていけ」
ああ、しまった。もふもふ様にみつかってしまった。もふもふ様にみつからずにこっそり出掛けるのは無理だったか。
「つかまえた。エマを置いていったらダメなんだからね。ねぇ、もふもふ様」
「そういうことだ」
しかたがない、一緒に行くしかない。奥から「エマ、邪魔しちゃダメだからね。わかっているわよね」との母の声が飛んできた。
「はーい。お兄ちゃんとチナちゃんラブラブだもんね。邪魔しないよぉ」
僕は溜め息を漏らすとはしゃいでいるエマとニヤニヤ顔のもふもふ様とともに出掛けた。
「エマ、花を買ってからいくからな」
「お花、お花、お花をあげたらチュッチュクチュー」
「エマ、その歌はなんだ」
「えへへ、チュッチュクチュ―の歌だよ」
まさかチュッチュクチュ―ってキスのことか。きっとそうだ。
「やっぱり、エマは家に帰れ」
「えええ、エマ、行く。絶対、行くの」
「なら、変な歌はナシだからね」
「はーい」
きっと、ずいぶん素直じゃないか。いや油断禁物だ。返事だけでまた変な歌を歌うはずだ。だからって強引に帰せないだろう。僕はやっぱりエマに甘い。
「あっ、花屋さん見えた。チュ……。じゃなくてチナちゃんが喜ぶ花を買おうね」
エマの奴、言いかけて僕の顔を見た。まあ、今のはセーフだ。
「エマ、どんな花がいいと思う」
「えっとね、えっとね。やっぱりバラかな」
バラか。
花屋に入っていろいろと見回してみると、やっぱりバラが一番目につく。花のことはよくわからない。エマはバラだって言うけど、ここは店員に相談しよう。
チナのことと退院祝いだと話すと店員にアニマルオーナメント付きのアレンジメントを勧められた。
「アニマルオーナメントはネコちゃんとクマちゃんがあるんだけど、どっちにしますか」
ネコとクマか。どっちがいいだろう。
「ネコちゃんがいい。ぜったい、ぜったい、ネコちゃんだよ」
エマの一言でネコに決めた。きっと、チナも気に入ってくれるだろう。
これで準備OK。早いところ病院に行かなきゃ。
「お兄ちゃんとチナちゃんがアッチッチ。あっ」
またエマが歌い出したかと思ったら、僕の顔を見てギュッと口を噤んだ。
エマの顔を見て僕は吹き出しそうにった。
「怒らないよ」
「えへへ、またやっちった」
まったくしかたがない奴だ。けど、エマの笑顔を見るとつい許してしまう。
病院へは電車に乗って三つ目の駅で降りればすぐだ。エマは電車に乗るだけではしゃいでしまう。乗る前にきちんとおとなしくするように話してある。それでも、小声でなにか歌を歌っていた。聞こえるか聞こえないくらいの声だし電車は空いていたからきっと迷惑にはなっていないだろう。
目的の駅に着くとたい焼きのいい匂いがしてきた。
「うわぁ、たい焼きだ。エマ、食べたい」
「おいらは油あげがいいな。けど、たい焼きも美味そうだ」
「あれ、もふもふ様も食べるのか。食べているの見たことないけど」
「ふん、おいらはこっそり盗み食いしているんだよ」
「えええ、もふもふ様、それはダメだよぉ」
エマの言う通り、それはダメだ。そうかそれでこないだ母が『厚揚げ買ったはずなのにどこいっちゃったんだろう』って言っていたのか。
「お兄ちゃん、たい焼き、たい焼き」
「わかったよ、たい焼き買おう。花を買ったときのお釣りがあるからな」
たい焼きは三つしか買えなかった。
エマと僕ともふもふ様のぶんで三つだけど、チナにも持っていきたかった。しかたがない。お金が足りなかったから。
僕のたい焼きをチナにあげよう。それがいい。
歩きながらもぐもぐたい焼きを食べるエマの顔は満面の笑みだ。そんなに美味しいのだろうか。もふもふ様はというと、たい焼きを一口で全部食べてしまった。すごいとしか言いようがない。食べたというよりも丸呑みだ。
「なんだ、おいらの顔になにかついているか」
「いや、なにも」
「そうか、ところで侑真は食べないのか」
「ああ、チナにあげようかと思って」
「そうか、そうか」
「お兄ちゃん、やっぱりチュッチュクチュ―になちゃうね。きっと」
「ならないよ」
きっと僕の顔は赤くなっているのだろう。エマがまた歌い出しそうになって僕がチラッと目を向けたら口をギュッと閉じたから間違いない。
他愛もない話をしつつ歩いていたらあっという間に病院に着いてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる