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6章 錦秋
4 いちばん近付いて※
しおりを挟むふたりが喫茶店を出る頃には日は沈みかけていた。夕焼けの下、ぱらぱらと降る通り雨の中を宿までの道を軽やかに走る。
明日、学会最終日の見物のため、もう一泊取っておいてよかった――そう優人は思った。
ホテルに戻り部屋の鍵を預って、ふたりは須藤の部屋へと向かった。
中へ入って扉を閉めた――その直後だった。入口のすぐそこで抱き合うと、ふたりは熱い口付けを交わし始めた。
ずっと抑えていた互いへの愛しさが込み上げ、静かに爆発するように。次々と貪るように唇を重ね合わせる。
優人の内で燃え上がり始めた劣情は、あのゼミ合宿の晩を彷彿とさせた。ただあの夜と違ったのは、ふたりの気持ちが同じ方向を向いているという確信だった。
――なんてたまらないんだろう。
あの日、淡々と自分の愛を受け入れるだけだった須藤が、自ら求めてくれている。
自分の好きな人が自分に好意を向けている――それだけのことがこんなにも嬉しいだなんて、優人は想像もしていなかった。
そう身体に広がる熱に浮かされていると、不意に須藤と目が合った。
「何か……気になることがあるのか?」
彼に言われ、優人は自分の気持ちが顔に出てることに気付き恥ずかしくなる。しかしここぞとばかりに口を開いた。
「いや、その……嬉しくて。前は俺が求めるばかりだったんで」
すると須藤はくすりと笑ったあとで、恐る恐る言った。
「……僕もあのときは驚いていてそれどころじゃなかったから。君は……その………そっちなのか?」
「いや……そういう訳では。前に付き合ってたのは同級生の女子ですし。……須藤さんは特別というか、俺もよく分からないんです」
「そうか。なら同じだな」
そうしてふたりは合図もなしにベッドの上になだれ込んだ。
優人が上になり、キスをしながら須藤の服を脱がせていく。シャツ、スラックス、そして靴下を脱がせて下着一枚にした後で、自分もと服を一気に脱ぎ、上裸になった。
それを見ていた須藤は不意にぽつりと言った。
「君は……格好いいな」
「え?」
そう言って優人の腹に手を添えるので、思わぬ刺激にぴくりと身体は反応する。須藤はそんなことなどお構いなしに、優人の腹筋をさすった。
「……前も思ったんだが、鍛えてるのか?」
「一応、体型は気をつけてて。とりあえず走ってます」
「そうか……僕は、恥ずかしいな」
「え?」
優人が思わずそう返すと、須藤は下を向きながら申し訳なさそうに言った。
「萎えないのか?こんな四十すぎの男の……しかも汚い身体で――うわっ」
気付けば優人は須藤を押し倒し、静かに声を荒らげていた。
「次に同じ事を言ったら、俺怒りますからね」
その言葉に須藤はぽかんとした後で、軽やかに笑った。
「ははは。わかった。ごめん。二度と言わない――んっ」
そうして優人は須藤の身体を優しく愛撫し始めた。
――そんなこと言わせないくらい、愛してあげなければ。
頭ではそう思いながらも、次第に汗の匂いに混ざるいやらしい香りに脳が侵されていく。
舌は首から胸、乳首、腹――そして気付けば腰まで来ていた。
「まだっ……身体も、洗ってないのに……うっ」
そうしていつもより高い嬌声を上げて喜ぶ姿が、優人にとってたまらなかった。
普段冷静な須藤の顔が快感に歪む姿は、事実が明らかになった今、自分だけのものだったから。
気付けば、優人の手は須藤の下着の中へ伸びていた。
「な、中谷く――っ」
「わ、須藤さん……びんびんじゃないですか……」
「そりゃあ、これだけ丁寧に愛されたら誰だって……ああっ」
優人は微笑みながら須藤のそそり立つものをしごき、上下に動かしながら思った。
――今日は、どこまでできるのだろう。
狭いシングルベッドの上でふたり重なり合って、こうして愛撫するだけでも十分に心は満たされた。
しかし、自分のものはすでに痛いほどに立ち上がって、勝手に淡い期待を抱いていた。まるで愛しい人のなかに入りたいと言うように。
そのときだった。優人のしごく手は突然手でぱしりと止められてしまった。
「……えっ」
止めたのは須藤で、さらにそれは待ってというように優人の身体を押したので、渋々須藤の上から退くことにした。すると何故か須藤は無言でシャワールームへと向かったのだった。
――……まさか。
お湯の流れる音があって、少し時間が経って。
扉が開いたと思えば、湯気とともにバスタオルを被った須藤が現れた。もちろん、一糸まとわぬ裸体で――。
「……須藤さん?――わっ」
突然ベッドに押し倒され何かと思っているうちに、優人のものは須藤の手の中にあった。そしてヌルヌルとした手で擦り始めたので、電撃のような直接的な快楽が優人を襲う。
「す、須藤さんっ……何を……」
「……君は、委ねてくれればいいから」
「え?…………っ」
気付けば優人の意識は強い快感に乗っ取られ、視界は真っ白になった。
まるで魂をもっていかれるような強い刺激に、反射的に目を閉じて身体を仰け反らせてしまう。
ややあってから必死に目を開けると、目の前には馬乗りになる須藤の姿があった。
まるで騎乗位のようにこちらを向いて座り込むその尻の間には、優人の肉棒がずっぽりと飲み込まれていた。
――……まさか。
「す、須藤さん……これは……」
すると須藤は息切れしながらも、白い顔に微笑みを浮かべて弱々しく言った。
「……僕には、これくらいしか……してあげられないだろう?」
「え、でも――」
「……以前君に、触れられたとき。悪くなかったというか、君に求められて、その……単純に嬉しかったんだ。だから……もしまた君が求めてくれたら、全てを知って受け入れてくれるのなら――そう思って……その、準備を」
須藤はそう言うと、ぎこちなく腰を動かし始めた。途端に強い快感が襲い、それに支配されそうになりながらも優人は不意に思う。
――確かにそうだけど……でも欲しいものは、もう少し――。
そうして無意識に手を伸ばし、須藤の腕を掴んだ。
「……え?」
腰の動きが止まったのをいいことに、優人は上半身を起こすと須藤の身体を包むように抱きしめ、こう言った。
「須藤さん……近くに」
「……そうか。こうだな」
そうして須藤の腕が背中に回された。
優人は全身で彼を感じながら自分の一部を彼の身体の中に挿れて。いちばん近付いてようやく完全に満たされた気がした。
腕に、身体に、愛しい人の体温を感じながら、穏やかに笑う彼の顔を見つめ、優人は思う。
ああ、自分は心の底からこの人が好きで、全身でこの人を求めているのだ、と。
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