21 / 32
5章 文化祭は波乱万丈 side.新汰
3 文化祭当日
しおりを挟む必死に準備に取り組んでいると、あれよあれよという間に当日だった。
三組の出し物の準備はほぼ終わっている。会場にはそれぞれ催し物の用意がされ、あとは当日の役割分担だけだった。
俺に与えられた仕事は校内での呼び込みだった。どうやらコンテストの準備があるからと言って、当日の負担を減らしてくれたらしい。
正直、ありがたいけれどそんなに期待されても困る。俺は柳と理久の言葉を信じて、本当にステージの上に突っ立っているだけのつもりなのだから。
浴衣姿で看板を持って歩くだけでいいから――そう俺に言ってくれたのは牧田だった。牧田も一緒に呼び込みをしてくれるらしく、声掛けやチラシ配りは牧田が担当してくれるらしい。
「うわ……かっこいい~!」
早速、浴衣に着替えさせられた俺を見た牧田はそう唸るように言った。
確かに、深い紺の地にさまざまな太さの銀の縦ラインが入った浴衣は、男目から見てもシックで格好いい。誰が選んだかはわからないが、落ち着いていて大人っぽく見えることだろう。
「ありがとう、牧田。牧田も浴衣似合ってるよ。髪飾りと合っていてすごくいい感じだ」
淡い黄色の地に白と黄のスイセンがあしらわれた浴衣を身に着けた牧田は、学生のフレッシュな雰囲気がよく出ていた。
それに彩りを与えているのがヘアアレンジだ。アップスタイルに、さらにそこにしゃらりと揺れるかんざしが加わって、大人びた印象がプラスされている。
すると牧田はなぜか納得するように言った。
「……本当?やっぱりセンスいい人が選んでくれたただけあるね。さ、気を取り直して私たちも頑張ろっか!」
すでに文化祭は始まっていて、校内には外部からたくさんの人たちが出入りをしていた。学生や保護者に加え、ほかの学校の生徒や地元の人たちの姿も見える。
そんな学校全体が盛り上がる様子を前に、俺は少し憂鬱になっていた。
文化祭の大トリである例のコンテストは、玄関前に作られたメインステージで行われる。
これだけ人が多い中で晒し者にされるというわけだ。それを思えば、誰が同じ状況でも心配になるだろう。
正直、コンテストで何をするかもわかっていないので、俺はまったく準備をしていない。クラスメイトたちもそれで大丈夫と言うから、俺はそれを信じることにしたのだが。直前になって不安は少しずつ大きくなっていく。
同時に思い浮かんだのは理久のことだった。
文化祭が始める前、俺に策があると理久は言っていた。けれど結局コンテスト名簿に名前は見つからなかった。
また最近忙しさから少しも会えてもおらず、理久が何をしようとしているのかもわからない。
「本当に……大丈夫か?」
俺の心配は勝手に口から漏れて独り言になっていた。
隣りで呼び込みをしていた牧田がそれに気付き、なぜか神妙な面持ちになる。
「西脇くん……ごめんね」
「……え、突然何?」
「それはもう、例のコンテストの話」
「あ、ああ。それか」
どうやら強引に誘った牧田も牧田で、悪いことをしている自覚はあったらしい。
それにしても、人にお願いされたりしない限り強引に事をなすことのない牧田がどうして――。
そうして俺は気付いてしまった。もしかしたら、牧田と例のジンクスには繋がりがあるのかもしれない、と。
「……私、とある子に頼まれちゃって。本当は断るつもりだったんだけど、私もドレスアップした西脇君見てみたいし、そういう人ほかにもいっぱいいるから。それに私はぴったりだと思うの。西脇くんよりかっこいい男子なんてほかにこの学校にいないよ!」
そう言われ、褒められる耐性のない俺は思わず赤くなる。
「牧田、褒めすぎ」
「……だって。体育祭のときもそうだったけど、私が困ったときいつも助けてくれるし。すごく頼りになるから」
「……ありがとう」
牧田は柔らかく微笑んだ。そしてなぜか悔しそうに言う。
「あーあ。私も西脇くんの勇姿見たいんだけど、新体操部のステージ発表の後片付けがあるから見れないんだよね。本当、頑張ってね!」
「……ああ。何を頑張ったらいいかはわからないけど、できる限り堂々とやってみるよ」
もうやるしかない――そう意気込んだときだった。牧田が突然こんなことを言った。
「大丈夫。相川君にもお願いしてあるから!」
「え……なんで今、相川?」
俺の後ろの席でいつも眠たそうにしている天然男の相川。
なぜ今相川の名前が出てくるんだろう。
そんな俺の心の声を読んだのだろうか、突然牧田は声を荒らげる。
「まさか……西脇君知らないの?相川君ああ見えて美容系配信者としてネットで人気なんだよ」
「…………は?」
「実は私も最近知ったんだけどね……そうそう、この髪飾りも衣装も実は相川君チョイスなんだよ。すごくセンスあるでしょ」
そう言われるも、正直信じられなかった。
俺の知る相川はいつも眠たそうな顔をして俺の陰で眠っているような男だ。あの相川にそんな側面があったなんて――。
百聞は一見にしかず、俺は牧田に言われるがまま相川が準備しているという教室へ急いだ。
化学準備室の扉を開けると、確かにそこには相川の姿があった。
長めの前髪をクリップで止めて、普段髪に隠れていた涼やかな瞳が覗く。大きな鏡の前できびきび動く姿は、相川だとはまるで思えなかった。
相川は俺に気付いたようにこちらを向くと、待ってたと言い手招きをした。
「相川。俺……知らなかったぞ……」
「まあ、誰にも言ってないし」
相川はどうぞと手で椅子を示すので、俺はそこに腰掛ける。
「ずっと眠たそうにしてたのって、そういうことだったんだな」
「まあ案件もあるし、配信者って動画編集に追われるさだめなんだ。牧田から聞いたんだろ?そんな訳で俺に任せといて。……実はこの素材を自由にできるってわくわくしてたから」
ぎらぎらした瞳は楽しそうに輝いた。
俺は虎に狙われたうさぎさながらに恐怖を覚えたものの、少しだけ嬉しくなった。
これまですべてに興味がなさそうだった相川の素がようやくあらわになったから。
俺は思わず言ってしまう。
「相川、言ってくれればいいのに」
「……ははっ、言えるわけないだろ。ただのメイク好きって言っても信じてもらえないだろうし、そっちかって疑われるだけだろ」
背後で準備をしはじめた相川の顔は見えなかった。
ただその言い分は俺の中で腑に落ちた。
他人からの偏見が恐ろしいことは、俺も身に沁みて知っている。自分を見る他人の視線が怖くて、気持ちを言葉にできなくなってしまう――あんな思いはもうしたくはなかった。
「相川はなんで趣味を教えることにしたんだ?」
それに対して返ってきたのは軽い笑いだった。
「いや、ただ牧田にばれただけ。あいつ俺の動画ファンだったらしくて、たまたま鞄にコラボコンシーラー持ってたの見られたらしい。それから手の形をまじまじ見られて気付けば特定されたってわけ。もうそこまで来ると執念みたいだよな」
そう笑う相川に対して、俺は気の利いた言葉を返せなかった。
ただ正面に用意された鏡を見ながら、ひとり安心していた。
そこに映る相川の黒い瞳は、自分が大切にしているものに向ける、真剣そのものに見えたから。
――きっと相川にとってのメイクは、俺にとっての剣道みたいなものなんだろう。
「相川……真剣なのはいいが、ほどほどに頼む」
すると相川は楽しそうに笑った。
「それは聞けない相談だな、西脇くん。まあ、俺に身を委ねてくれればいいから。任せといて」
2
あなたにおすすめの小説
【完結】恋愛初学者の僕、完璧すぎる幼馴染に「恋」を学ぶ
鳥羽ミワ
BL
志村春希は高校二年生で、同い年の幼馴染・須藤涼太のことが大好き。その仲良しぶりといったら、お互い「リョウちゃん」「ハルくん」と呼び合うほどだ。
勉強が好きな春希には、どうしてもひとつだけ、全く理解できないことがあった。それは、恋心。学年一位の天才でもある涼太にそのもどかしさを愚痴ったら、「恋」を教えようかと提案される。
仮初の恋人になる二人だけど、春希が恋を知ったら、幼馴染の友達同士のままではいられない。慌てる春希に「パラダイムシフトを起こそうよ」と提案する涼太。手を重ねて、耳元で囁く涼太。水族館デートに誘う涼太。あまあまに迫られて、恋愛初学者の春希が陥落しないはずもなく……。
恋を知ったら友達でいられない。でもこの思いは止められない。
葛藤する春希の隣で涼太だけが、この関係は両片思いだと知っていた。
幼馴染の溺愛恋愛ケーススタディ、開幕! 最後はもちろんハッピーエンド!
※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうへ投稿しています
なぜかピアス男子に溺愛される話
光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった!
「夏希、俺のこと好きになってよ――」
突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。
ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!
幼なじみの友達に突然キスされました
光野凜
BL
『素直になれない、幼なじみの恋』
平凡な俺、浅野蒼にはイケメンでクラスの人気者な幼なじみ、佐伯瑛斗がいる。
家族ぐるみの付き合いのせいか、瑛斗は昔から距離感がおかしくて、何かと蒼にベッタリ。けれど、蒼はそれを“ただの友情”だと思っていた。
ある日、初めての告白に浮かれていると、瑛斗から突然キスされて......!?
「蒼のことが好きだ」
「お前が他の奴と付き合うのは耐えられない」
友達だと思っていた関係が一気に変わり、戸惑いながらも瑛人の一途で甘い想いに少しずつ心が揺れていく。
しかし、素直になれない蒼は最後の一歩が踏み出せずにいた。
そんなとき、ふたりの関係に”あるトラブル”が訪れて......。
じれったくて、思わず応援したくなるふたりのピュアな青春ラブストーリー。
「......蒼も、俺のこと好きになってよ」
「好きだ。好きだよ、蒼」
「俺は、蒼さえいればいい」
どんどん甘く、独占欲を隠さなくなる瑛斗に、戸惑いながらも心が揺れていく。
【一途で独占欲強めな攻め × 不器用で素直になれない受け】
殿堂入りした愛なのに
たっぷりチョコ
BL
全寮の中高一貫校に通う、鈴村駆(すずむらかける)
今日からはれて高等部に進学する。
入学式最中、眠い目をこすりながら壇上に上がる特待生を見るなり衝撃が走る。
一生想い続ける。自分に誓った小学校の頃の初恋が今、目の前にーーー。
両片思いの一途すぎる話。BLです。
勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される
八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。
蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。
リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。
ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい……
スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)
無口なきみの声を聞かせて ~地味で冴えない転校生の正体が大人気メンズアイドルであることを俺だけが知っている~
槿 資紀
BL
人と少し着眼点がズレていることが密かなコンプレックスである、真面目な高校生、白沢カイリは、クラスの誰も、不自然なくらい気にしない地味な転校生、久瀬瑞葵の正体が、大人気アイドルグループ「ラヴィ」のメインボーカル、ミズキであることに気付く。特徴的で魅力的な声を持つミズキは、頑ななほどに無口を貫いていて、カイリは度々、そんな彼が困っているところをそれとなく助ける毎日を送っていた。
ひょんなことから、そんなミズキに勉強を教えることになったカイリは、それをきっかけに、ミズキとの仲を深めていく。休日も遊びに行くような仲になるも、どうしても、地味な転校生・久瀬の正体に、自分だけは気付いていることが打ち明けられなくて――――。
幼馴染が「お願い」って言うから
尾高志咲/しさ
BL
高2の月宮蒼斗(つきみやあおと)は幼馴染に弱い。美形で何でもできる幼馴染、上橋清良(うえはしきよら)の「お願い」に弱い。
「…だからってこの真夏の暑いさなかに、ふっかふかのパンダの着ぐるみを着ろってのは無理じゃないか?」
里見高校着ぐるみ同好会にはメンバーが3人しかいない。2年生が二人、1年生が一人だ。商店街の夏祭りに参加直前、1年生が発熱して人気のパンダ役がいなくなってしまった。あせった同好会会長の清良は蒼斗にパンダの着ぐるみを着てほしいと泣きつく。清良の「お願い」にしぶしぶ頷いた蒼斗だったが…。
★上橋清良(高2)×月宮蒼斗(高2)
☆同級生の幼馴染同士が部活(?)でわちゃわちゃしながら少しずつ近づいていきます。
☆第1回青春×BL小説カップに参加。最終45位でした。応援していただきありがとうございました!
溺愛系とまではいかないけど…過保護系カレシと言った方が 良いじゃねぇ? って親友に言われる僕のカレシさん
315 サイコ
BL
潔癖症で対人恐怖症の汐織は、一目惚れした1つ上の三波 道也に告白する。
が、案の定…
対人恐怖症と潔癖症が、災いして号泣した汐織を心配して手を貸そうとした三波の手を叩いてしまう。
そんな事が、あったのにも関わらず仮の恋人から本当の恋人までなるのだが…
三波もまた、汐織の対応をどうしたらいいのか、戸惑っていた。
そこに汐織の幼馴染みで、隣に住んでいる汐織の姉と付き合っていると言う戸室 久貴が、汐織の頭をポンポンしている場面に遭遇してしまう…
表紙のイラストは、Days AIさんで作らせていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる