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2章 憶
5 身体
しおりを挟む「霧島、霧島じゃないか!きみ、俺からの連絡、絶対忘れていただろう」
花角ヨウカは顔を合わせた瞬間そう言い、笑った。
「ま、とりあえず中に入ってくれ」
小屋のなかへと案内する彼の姿は、三十台前半くらいだろうか。白い肌に茶の巻き毛を後ろに束ねている。花角が昔から好んで選ぶ素体の特徴だった。
ただ、身体は以前合ったときより厚い印象で、自然な筋肉で覆われているように見えた。また服の端など、ところどころに泥が付着していることに気付いた。
霧島がかつて本人から聞いたことには、花角ヨウカは昔、医師であったらしい。すでにこの世界に人間による治療行為はなくなって久しいが、その高い順応力ですっかりこの世界に溶け込み、余生を満喫しているのだ。
機械知性のおすすめするものを、とりあえず試してみようとする前向きな性格で、過去にX型素体であったこともあるらしい。
以前会ったときは、プラント外菜園に精を出していたが、どうやらいまもそれは続いているように見えた。
「……満喫してるな」
霧島が言うと、花角は部屋の片隅で用意していた嗜好性飲料を差し出しながら微笑んだ。
「逆に、きみは損じゃないかい?また、そのお気に入りの身体に交換したのだろう。……まあ、きみだとわかりやすくていいんだけど」
花角はそう言いながら、霧島の若返った皮をまじまじと眺めた。
「どうせ、前回も長いあいだ使ったんだろう?……確かに、こうして身体に筋肉が付くと肉体に愛着は湧くから、最近はきみのしていることもわからなくもないけどね。ただ、きみはこういう肉体労働的な趣味もないんだから、はやく替えればいいのに、なぜしないんだい?」
たくましくなった自分の上腕をさすりながら、花角は聞いた。
「……それは……」
霧島は言葉に詰まった。昨日と同じ問いだった。ただ、いまだその理由に明確な答えは出てなかった。
なぜほかの素体系統ではだめなのだろうか。
過去に機械知性から指摘を受け、ほかの系統を選ぼうとしたこともある。しかしそのとき不意に心に浮かんだのは、「それは自分の体にならない」という不信感だった。
まるで魂が、自分が自分でなくなることを許さないように、無意識下で拒絶するように。
霧島はふと思った。
この世から消えてしまいたいと言う強い想いも、自分の魂の声であるのだろうか、と。
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