婚約破棄?上等です。

華愁

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第1話『婚約破棄ですか、了解しました』

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「……この婚約、解消させていただきます」

その一言が、会場の空気を切り裂いた。

赤坂の高級ホテル。

シャンデリアが煌くバンケットホール。

橘財閥と宗方グループの婚約発表パーティは、
百人以上の招待客を集め、
華やかに幕を開けるはずだった。

けれど、主役の一人

――宗方蒼真の口から飛び出したのは、
破滅的な一言だった。

「俺には、好きな人ができたんです。

申し訳ありませんが、
橘さんとの婚約は破棄させていただきます」

一瞬、空気が止まる。

だが次の瞬間、会場全体がざわつき始める。

「えっ……今なんて……」

「婚約破棄? 冗談……じゃないよな?」

「相手って……あの子じゃない?」

誰かが指さした先、控えめな黒のワンピースに
身を包んだ若い女性が
ステージに向かって歩いてきていた。

彼女は蒼真の会社で働く秘書――

社内では「蒼真の愛人説」が
噂されていた女性だった。

けれど。

壇上に立たされた橘あやめは、
崩れなかった。

ショックを受けた様子も、
涙を浮かべる素振りも、ひとつもない。

静かにマイクを取り、口を開く。

「……婚約破棄、ですか」

彼女は一拍だけ間を置き、
そして凛とした声で続けた。

「了解しました」

その瞬間、空気が一変する。

「たしかに、私たちの婚約は家同士の取り決めでした。私もあなたにふさわしい“社長夫人”になるよう
努力してきました。でも……」

目を伏せ、わずかに笑う。

「それももう、必要ないんですね。

なら、これで本当に自由になれる」

観客の誰もが言葉を失う中、
あやめは堂々とドレスの裾を持ち、
ステージを降りる。

すれ違いざま、蒼真が思わず声をかけた。

「……あやめ、誤解しないでくれ。これは俺の――」

「ええ、大丈夫です」

あやめは微笑みながら振り返る。

「あなたの“本音”を聞けて、助かりました。

……どうぞ、幸せになってくださいね」

彼女の瞳には、一片の涙もなかった。

むしろ――解放された者の、静かな輝きがあった。
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