君を死なせない

華愁

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第一話 予感

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出張を予定していたその日の田端の天気はあいにくの雨模様だった。

僕は駅に向かう道すがらなんだか胸騒ぎがして
芥川の家に急いだ。

「芥川君!!」

僕はあたふたする文さんを気にせずに二階は芥川の書斎に向かった。

「おや、犀星……」

僕は芥川の手の中にある薬瓶を奪い取った。

「ヴェロナールなんて劇薬を一度で一瓶飲むつもりだったのかい!?」

僕は芥川君を抱き締めた。

あまりの細さに驚いた。

「それで、芥川君、理由を教えて?」

「その前に、犀星は、法律に強いかい?」

法律に関する何かを知りたいのかな?

「まぁ、これでも、十代の頃は七年も裁判所で働いてきた身だから
そこら辺の文士よりには強いけど、どうしてだい?」

僕が聞くと芥川君は手帳から一枚の借用書の写しを取り出した。

「なっ!? 芥川君、これは誰の借金だい!?」

ざっと見ただけで暴利だとわかる。

「姉の夫、つまり、義兄だよ。半年前に自害したんだ。加えて、その姉と実父からの金の無心。

芥川家の“跡取り”としての重圧……

全てが嫌になってしまったんだ……」

「いいかい、芥川君、。**『利息制限法』**というものがあってね、
これ以上の支払いは本来必要ないはずなんだ。

ざっと目を通したけど、元金は払い終えている計算だ。

法曹界の知人に連絡を取ってみるよ。

ところで、恒藤君には話せなかったのかい?」

法曹界といえば恒藤君の方が専門家だ。

僕は七年間、裁判所で書記官や給仕はしていたけど、資格は持っていない。

「恭には話せなかった……本当は犀星にも話すつもりもなかったんだ」

胸騒ぎを勘違いだと思わずに予感を信じてよかった。

「芥川君、❰僕は君を愛してゐる。……君は僕に取つては、一番善良な、又一番僕を愛してくれる友人だつた。……僕は君を愛してゐる。……❱と言ってくれたのは嘘だったのかい?

僕も芥川君を愛してゐるんだ……

だから、死に急がないでおくれ。

いっそのこと、僕の“恋人”にして組敷いたら、死に急がないでくれるのかな?」

親友だと思っていた僕の口から“組み敷く”だの“恋人”だのという言葉が出てくるとは思わなかったんだろ。

「言っておくが、僕は本気だよ。今すぐに連れて帰りたいくらいだ」

僕は抱き締めていた体を少しだけ離して口づけをした。

「これで、本気だとわかってくれたかい?

因みに、とみ子は僕が芥川君を愛していることを知っているよ。

芥川君を連れて帰ったら、朝子と朝巳はおおはしゃぎするだろうさ」

「犀……星、助けて……」

やっと芥川君の本音が聞けた。

「もちろんだとも。条件は僕の恋人になることだよ。

それとも、交換条件なんて卑怯なことを言う僕を軽蔑するかい?」

自分でも卑怯な言い方をしてる自覚はある。

「ごめん、交換条件はなしで。大丈夫、僕がちゃんと解決してあげるから」

僕はもう一度だけ、口づけをして踵を返し階段を下りようとした。

「犀星? 行かないで、僕を一人にしないで……

もしも、本当にとみ子さんが許してくれるなら、
犀星の恋人にしてほしいし、僕のこと、好きにしてくれていいよ。

今すぐ、犀星のものにして?僕の命を犀星に預けたい……

それとも、恋人にしたいというのは、僕を生かすための方便だったの?」

階段にかけていた足を止め、もう一度、芥川君の書斎に戻った。

「本当にいいんだね? 僕のものになったら、易々と死ぬなんて言えなくなるよ?」

「うん…… 僕の所有者になって?“犀星様”、僕はあなたの所有物です」

僕を煽るのが上手い。

「“犀星様”、僕をあなた様の色で塗り潰して?」

「後戻り、できなくなるよ? 覚悟はいいかい?」

僕は芥川君を畳の上に寝かせた。

「犀星の熱で、僕の不安もタナトスの誘いも焼いて……」

「わかった、髪の毛の一本だって、死神に渡さない」

僕はいささか乱暴に芥川君の着物を剥ぎ取った。

あまりにも痩せ細った身体に僕は胸が痛くなった。

あの暴利と生家からの無心を考えると、手元に残るのは僅かだ。

「“龍之介”、全部、僕が引き受けてあげるからね」

首筋から胸、腰、と順番に愛撫していき、指が秘所にたどり着くと
龍之介は小さく悲鳴を上げた。

「ひゃ!! 痛くしない?」

病院で注射をされる前の幼子のような不安そうな目で見つめてきた。

「痛くしないよ、大丈夫、丁寧に解してあげるから。

僕の熱を受け入れておくれ」

丁寧に秘所を解して僕の熱を一気に突き入れた。

「は、ぁ、!! 犀星様!!」

悲鳴と喘ぎが混ざった声で僕の名前を呼んだ。

ーー

事後、僕は龍之介君を膝の上に乗せて抱き締めた。

「これで、龍之介は僕のものだよ」

「はい、主様」

「主はよしておくれ、僕は龍之介の恋人なんだから。

少し落ち着いたら、僕の家に行こう。

とみ子に説明しなくてはね」

一時間後、僕たちは階下に降りて、文さんに龍之介は少しの間、僕の家に泊めると伝えた。
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