年下の友人に恋をした

華愁

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年下の友人に恋をした②

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芥川君に告白してから三ヶ月、
季節は秋から冬になっていた。

「街路樹もすっかり、枯れてしまったね」

あれから、僕は芥川君と会っていない。        
       
寒空の下、散歩から帰ると      
庭では朝子と朝巳が走り回っていた。    
    
「お帰りなさい、犀星さん」    
    
とみ子が出迎えてくれた。    
    
「ー街路樹の    
枯れ木に写す    
己の心かなー」  
  
相変わらず、とみ子には  
心を見透かされているみたいだ。

「ただいま、とみ子」

三ヶ月経っても芥川君への恋慕は
消えるどころか募るばかりだ……

「ー冴ゆる夜      
己の心さえも      
凍てついてー」  
  
いい加減に芥川君への恋慕は忘れなければと  
頭ではわかっていても心は忘れてくれない。  
 
「僕は家族を愛しているのに、いまだに、            
芥川君への恋慕を忘れられずにいるんだ……        
  
欲張りで強欲で本当にすまない」      
      
「人なんて、皆、強欲で身勝手な生き物よ。      
    
ー時待ちて    
それでも消えぬ    
恋の灯火ー」


「忘れる必要はないわ  
  
ー耐えられぬ  
苦しみ抱える  
冬の夜ー」

つまり、忘れずに苦しみも抱えればいいと。

ーー              
              
更に一ヶ月後、僕は久しぶりに文学仲間の集まりに参加した。            
            
主催者は相変わらず、寛君だから、当然、参加者に芥川君はいるわけで………            
            
僕は芥川君から離れた場所に座った。          
          
珈琲を注文した後は          
どことなしに、外を眺めていた。        
        
「犀星君……久しぶり」        
          
芥川君に声をかけられ心が跳ねた。    
    
名前を呼ばれるだけで    
心臓を鷲掴みされた気分になる。    
    
「そうだね……」    
    
視線を反らしたまま返事をした。  
  
今の僕には芥川君と
視線を合わせて話す勇気はない。


僕は短い返事をして違う文学仲間に話かけた。

「お待たせしました」

その時、ちょうどよく、ウェーターが
珈琲を運んできた。

「ありがとう」

ウェーターにお礼を言って  
珈琲を一口飲んだ。

口の中のに広がる苦味は、
僕の心を示しているような気がした。

芥川君は、いつものように
読書をしながら、時折
話しに交ざり、談笑している。

珈琲を飲み干した僕は  
会計をして、そっと喫茶店を出た。

外は来た時よりも幾分か
気温が下がっていて寒かった。

「犀星君!!」  
  
振り返ると芥川君がいた。  
  
「何か用かい?」  
  
あえて、突き放す言い方をした。  
  
「用がないなら、僕は帰るよ。

伝えたかっただけだから
三ヶ月前のことは、忘れてくれ。

じゃぁ、また、何時かね」

三ヶ月前と同じように僕は先に歩きだした。

これでよかったんだ。

遠くで芥川君が呼ぶ声が聞こえていたけど
振り返らずに真っ直ぐ家に帰った。

そう、この時はまだ知らなかった。

一年後半後に芥川君と
“一生”会えなくなってしまうことを。

ーー

<一年半後>    
    
芥川君の自害を知ったのは    
出張先の上野でのことだった。    
    
新聞の見出しには    
❰文豪・芥川龍之介    
自宅にて睡眠薬の過剰摂取により死亡❱  
  
細々と書かれている内容は  
全く、頭に入ってこなかった……

芥川君、なんで……

あんなに、家族を大切にしていて
僕の気持ちも知っていたはずなのに
“自害”なんて……

出張を切り上げ田端に帰った。

「ただいま……」

家に着いた途端に緊張の糸が切れた。  
  
「お帰りなさい。  
  
犀星さん、顔が真っ青よ?」  
  
僕は仕事用の鞄から  
新聞を取り出してとみ子に渡した。

「芥川さんが……

寂しいわね……」

一年半前、喫茶店の前で別れたきり
結局、一度も会えないままだった。

「僕は、芥川君から、逃げてしまったまま……」

僕はとみ子にすがりついて泣いた。

後悔先に立たずとはまさにこのことだ。

「ー後の祭りと  
後悔しても  
思い人はいないー

芥川さんはもう、いないけれど、
犀星さんの中でちゃんと生きているわ」

「まさか、あの時が、最後になるなんて思わなかったんだ……」

「ー思い出を      
抱えて眠る      
夏の夕刻ー  
  
犀星さん、泣いていいのよ」

その夜、僕は一晩中泣いた。
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