年下の友人に恋をした

華愁

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番外編 “再会”

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僕の名前は室瀬彩雅むろせさいが
十八歳の高校三年生だ。

“前世”の名前は“室生犀星”。

東京の田端で詩や小説を書いて
生計を立てていた。

当時は妻のとみ子と娘の朝子と
息子の朝巳の四人家族だったけど
僕は友人の芥川龍之介君に恋をしていた。

当時、妻のとみ子は理解してくれて、
僕の心情を俳句で表現してくれていた。

“前世”の記憶があるからか、
生まれ変わっても作家を目指している。

進路相談の後、いつものように図書室に向かった。

「“芥川君”の〔羅生門〕か……
“懐かしい”な。

“今世”に読むと、ちょっと読み難いな」

クスッと苦笑した。

僕は自分の“愛の詩集”を手に取り、
パラパラと捲る。

やっぱり、“今世”の人間には読み難いな。

「僕も結構、読み難い文体で書いていたんだな……」

一世紀前はわりと、みんな、
普通に読んでくれていたんだけどね。 

「……“犀星君”?」

その呼び方にドキッとして
隣を見ると同じ制服に同じ上履きの色の
ちょっと気だるげな目付きをした
背の高い男子生徒がいた。

「君は?」

「三年一組の芥屋龍生あくたやりゅうき
 “前世”は“芥川龍之介”だよ。

“久しぶり”だね、“犀星君”」

 僕は龍之介君改め、龍生君に抱き着いた。

「僕はずっと、君に届かないとわかっていて、
手紙を書いていたんだ……」

「それから、芥川君への恋慕を
世に出してしまってね……

それを目にした、君の奥さんの文さんに
お礼を言われて比呂志君には
君への恋慕を一瞬で見抜かれてしまったよ。

比呂志君曰く、芥川君の話をする
僕の声色が温かいからと言われたよ」

“芥川君の死後”の話を少しずつ、していった。  
   
「僕はずっと、君を愛してる。  
   
僕の気持ちは“前世”から変わっていない。 
   
因みに、“前世”で妻のとみ子は僕が芥川君を  
愛してることを理解してくれていたんだよ」

僕がそう告げると彼は驚いた顔をした。    
     
「……とみ子さんが?」  
   
「とみ子は、❲芥川さんに恋慕を抱いているのも  
犀星さんの一部だから否定できない❳と言ってくれた。

元々、小学校教師だったのもあり、
とみ子は基本的に寛容で寛大だった。

そして、とみ子は“文学仲間”でもあった」

僕が惚れた理由はとみ子の俳句に惹かれたからだった。

「普通は夫が“同性の友人”に恋慕していたら、
嫉妬するか怒るかするのに……      
       
とみ子さんが“文学仲間”というのは?」      
       
「とみ子は教師時代、教師の傍ら、地元新聞に      
随筆やら短歌やら俳句を載せていてね、      
ある日のとみ子の俳句があまりにも、僕好みで      
そこから文通を始めて 結婚したんだよ。    
     
……これは、“前世”で話したこと、なかったけど
朝子と朝巳にはもう一人、“兄”がいるはずだったんだ」  

僕は生まれてすぐに逝ってしまった
長男・豹太郎の話をした。

「結婚して三年後に男の子を授かったんだけど  
その子は翌年には逝ってしまったんだ……  
   
その二年後に娘の朝子が、
更に三年後に息子の朝巳が生まれたんだよ。

本当は“五人家族”だったんだ……」

豹太郎の死後、あんなに明るかったとみ子が
かなり落ち込んでしまった。

「僕もとみ子も、“書く”ことで悲しみを
昇華していたんだ。      
       
“芥川君”が亡くなった時も沢山の俳句で      
僕の心情を代弁してくれた……」
   
「とみ子の俳句だけで一冊できてしまうかもしれない」  
   
それくらいの数の俳句をとみ子は書いていた。

「なるほど、とみ子さんは“犀星君”にとって
奥さんで同志だったんだね」

“芥川君”のいう通り、とみ子は妻であるとともに同志だった。

「“芥川龍之介君”、“前世”で室生犀星は君を愛していた。

それから、“芥屋龍生君”、
室瀬彩雅と恋人になってください」

“前世”では芥川君の答えを聞けずに逃げた僕。

「彩雅君、本当に僕でいいのかい?

“前世”の記憶があるとはいえ、
今の君は“普通”の“令和”の高校生だ」

確かに今は一世紀後の“令和”で“普通”の家庭に生まれ、
高校生として過ごしている。

「龍生君の言いたいことはわかる。

でもね、僕は生まれ変わっても
君を愛すると決めていたんだ。

ただ、龍生君が“今世”で気になる子や
好きな人がいるなら
僕は潔く身を引くよ。  
   
僕は君が幸せになれるなら、喜んで身を引く。

恋人になれなくても、
また、友人にはなってほしいかな……」

折角、“再会”できたんだから関わりは持ちたい。

それも、結局は僕の我が儘だけど。

「彩雅君……ごめん……」

やっぱり、僕じゃ駄目なのかな……

苦笑した表情は龍生には見えていないと思う。  
   
「そっか……わかった……  
   
僕の方こそ、ごめんね……帰るよ。

龍生君が不快じゃなければ、
明日以降も話てくれると嬉しいかな……バイバイ」

今世は死別するわけじゃない。

「待って、彩雅君!!」      
       
龍生君はドアに向かおうとした僕の手首を掴んだ。  
   
「僕は、“前世”で“犀星君”を愛してた。  
   
だけど、あの頃は二人とも“妻子持ち”だったから……
   
それで、犀星君の“返事はいらない”という
言葉に便乗したんだ……」

“芥川君”が?

「さっきの“ごめん”は“前世”で君の告白に
ちゃんと返事をしなかったことと、
先に逝ってしまったことに対してだ。

僕は“犀星君”も“彩雅君”も“魂”が
君なら何度でも愛せる……

“前世”で僕は君も家族さえも置いて
卑怯にも死に逃げたから
“今世”でもう一度、君に告白されて
本当に僕でいいのか確かめたかった……」

龍生君は俯いたまま話していた。

「僕は“前世”で“芥川龍之介君”を恨んだことはないよ。    
     
君の死後、三年は筆が取れなかったのは事実だけど    
とみ子に背中を押されて、僕は君への恋慕を    
書き綴った『年下の友人に恋をした』を    
文芸誌に掲載したんだよ」

あれは、“エッセイ”だった。

「……『年下の友人に恋をした』?僕のことかい?」

僕はさっきとは違う種類の苦笑して頷いた。

「そうだよ。最初、いつもの出版社に送ったら
見送りにされてしまったんだが、一人の編集者が
違う出版社を紹介してくれて、そこで掲載してくれることになったんだ」

「やっぱり、賛否両論あった……

<家庭があるのに他の人に恋慕するなんて気持ち悪い>とか
<同性とかあり得ない>とか否定的なものから
逆に<僕も“同性”に恋をしてます。
それは“間違い”じゃないんだと勇気づけられました、
ありがとうございます>と賛同してくれるものまで
色んな意見のはがきがきたよ。

流石に高校の図書室に『年下の友人に恋をした』が
載った文芸誌は置いてないだろうけど、
少なくとも、昭和初期あの頃よりかは、
“同性愛”に偏見は    なくなりつつあるし、
そういった作品も増えたよね」

“BL”なんてジャンルもできて
“パートナーシップ制度”もできた。

「龍生君、重い話をすると
僕は君とパートナーシップを結びたいんだ」

成人が“十八歳”になり、パートナーシップも
十八歳から結べるようになった。

「僕たちは“高校生”だから  
今すぐってわけにはいかないけど、
“今世”こそ、君と結ばれたいんだ……」

「龍生君のご両親に挨拶に行っていいかい?」

“今世”の僕たちは“成人”してるとはいえ
ちゃんと両親がいる。

「今世の両親は優しいし、
僕を大事にしてくれているけど
父親は昔気質でね……

父が君に手を上げないか心配だな……」

“前世”では世間体や作家としての地位やお互いに家庭が  
あったり、“芥川君”が先に逝ってしまったりと  
色々なことが重なり、一緒に居られなかったから  
“今世”では何がなんでも結ばれたかった。

「君のパートナーになれるなら、
それくらいの覚悟はできているさ」

 ーー      
       
翌日の放課後、龍生の家にお邪魔した。    
     
「初めまして、室生彩雅むろせさいがと申します。

龍生の恋人で卒業後は    
パートナーシップを結びたいと思っております」   
   
案の定、龍生君の父親は激昂し僕を殴り飛ばした。

想定内だから別に何も思わない。

「室瀬君、大丈夫!?」

龍生君の母親は心配して駆け寄ってきてくれた。

「ありがとうございます、大丈夫です」

「彩雅君!!」

龍生君は泣きそうな顔で抱きついてきた。

「ごめん、父さんを止める間もなく……」

「想定内だから大丈夫だよ。だから、泣かないで」

龍生君の頭を撫でて落ち着かせる。

想定外のことに焦るのは“前世”から変わらないな。

「ほら、落ち着いて」

龍生君にゆっくり、深呼吸をするように促す。

「彩雅君……

結構強く、背中打ち付けてたけど大丈夫かい!?」

「大丈夫だよ。想定内って言ったじゃないか。

覚悟もできてるとも。

ただ、今日は帰るよ」

激昂している時にはどんな話も耳に入らないし
入れる気もないだろう。

玄関まで見送りにきてくれた龍生君の母親と
龍生君にお礼を言って芥屋家を後にした。
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