7 / 10
第七話 “最期”なんて言わせない⑦
しおりを挟む龍之介君のお姉さんは驚きっぱなしだ。
「えぇ、むしろ、夫が誰かの助けになっているなんて誇らしいですわ」
とみ子から嫉妬の色は全く見えない。
「そういうことですので、犀星さん」
僕は龍之介君のお姉さんの前に借金の全額にあたる
四千円を差し出した。
とみ子の貯金と僕の原稿料だ。
「犀星君!? 半額でいいって言ったじゃないか……」
「あのね、龍之介君。お金はまた稼げばいいけど
龍之介君という人間は一人しかいないんだ。
あえて嫌な言い方をするなら、
僕はこの四千円で君を“身請け”したんだよ。
君は大枚をはたいても“妻”にしたかった“遊女”だよ。
“正妻”のとみ子が龍之介君を受けているのだから
何の心配もしなくていいんだよ。
龍之介君の一生分の“身請け金”としては安い方さ」
僕はあえて嫌な例えを出した。
「“身請け”……僕は犀星君に“買われた”の?」
「そうだよ、“所有権”はお互いに預けているけど
“目に見える形”で示したのが目の前四千円さ。
まぁ、“身請け”やら“遊女”というのは言葉の揶揄だが
これで、龍之介君の憂いがなくなっただろう?」
僕は龍之介君の腰を抱き寄せ、お姉さんの前で口づけをした。
「あらあらまぁまぁ、犀星さんは相変わらずね。
龍之介さんも“女の顔”になってますよ」
とみ子の私的に龍之介君は僕の胸に顔を埋めた。
くすくすと笑うとみ子と四千円という大金を差し出された時とは
違う種類の驚きを見せた龍之介君のお姉さん。
「龍之介、あなた、他人様の、それも、旦那様となんて……」
「僕は……犀星君の腕の中にいる時だけが、安らげたんだ」
僕の胸から顔を上げず、くぐもった声で
お姉さんの質問に答えた。
「“身請け金”というのは聞こえが悪いね。
“結納金”と言い直そう。
改めて、僕の所に“嫁いで”来てくれるかい?」
龍之介君の髪を梳きながら耳元で囁いた。
「うん、犀星君の“妻”にしてください」
「言質は取ったからね。
じゃ、改めて、この四千円は龍之介君の“結納金”ということで。
借金の返済に充ててください」
「ありがとうございます……室生さん、とみ子さん」
「“妻”を助けるのは夫の務めなのでお礼は不要だ。
さて、僕たちはお暇しよう。
とみ子・龍之介君、帰るよ」
僕は“二人の妻”に声をかけ、龍之介君のお姉さんの家を後にした。
「さて、龍之介君が“正式”に“妻”になった記念に
美味しい物でも食べに行こう」
0
あなたにおすすめの小説
サラリーマン二人、酔いどれ同伴
風
BL
久しぶりの飲み会!
楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。
「……え、やった?」
「やりましたね」
「あれ、俺は受け?攻め?」
「受けでしたね」
絶望する佐万里!
しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ!
こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
偽りの聖者と泥の国
篠雨
BL
「感謝すら忘れた者たちに、明日を語る資格はない」
自らの都合で聖王セシルを追放し、異世界から新たな「勇者」を召喚したアドレアン聖王国。
しかし、その身勝手な選択が、国を、大地を、そして人々の心を根底から腐らせていく。
壊れゆく少年勇者と、彼を歪に愛した騎士。
二人の執着が交わったとき、聖王国は二度と再生不能な終焉へと突き進む。
裏切り者たちには、因果応報という名の、容赦なき報いが下る。
これは、傲慢な国が崩壊するまでの、無慈悲な記録。
-----------------------------------------
『嘘つき王と影の騎士』から引き続き読んでくださる皆様へ
この物語は、セシルを虐げた者たちが、ただただ因果応報の末路を辿るだけの物語です。
本編に救いはありません。
セシルたちのその後が気になるという方は、本編は飛ばして、最終話の後に掲載する「閑話」のみをお読みいただくことをお勧めいたします。
本作は『嘘つき王と影の騎士』の続編となりますが、前作をお読みでない方でも一つの物語としてお楽しみいただけます。
君さえ笑ってくれれば最高
大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。
(クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け)
異世界BLです。
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。
勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。
happy dead end
瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」
シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる