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第五話 “恋慕”よりも強い“想い”
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あれから二ヶ月後、
今日は寛君と芥川君と三人で集まっていた。
「そういば、犀星君は寛のことは名前で呼んでいるのに
僕のことはいつまでも名字呼びのままだよね」
「確かにそうだね。君のことは尊敬してるからね、
なかなか、名前で呼ぶ勇気がないんだよ」
僕がそういうとすかさず寛君のツッコミが入った。
「それはなにか、
犀星は俺のことは尊敬してないってことか?」
「違うよ。もちろん、寛君のことも尊敬してるけど
友情の方が勝ってるだけさ」
肩をすくめて苦笑を浮かべて答えた。
「……龍之介君」
名前で呼ぶと僕が彼の“恋人”になった気分だ。
「犀星君に名前で呼ばれると少し照れるな」
芥川君は赤くなった顔を見られたくないのか
僕と寛君から視線を反らした。
「おや、そんなに顔を赤くしてどうしたんだい?」
意地悪心が働いた僕はわざと芥川君に訊いた。
「……少し照れただけだよ」
僕はにやりと笑って芥川君の耳元でもう一度、名前を囁いた。
「〚龍之介君〛」
芥川君は耳を押さえて僕から離れた。
「お前ら、まるで恋人同士みたいだぞ」
芥川君は寛君の言葉に益々、顔を赤くした。
「僕は芥川君の生きる理由になるなら寛君に恋人同士みたいと
からかわれても構わないさ」
僕があっけらかんとそう言うと寛君は大笑いした。
「お前らを見てると夫婦漫才を見てるみたいで面白いんだよな」
「寛君、僕も芥川君も妻子持ちだよ」
僕が肩をすくめて苦笑を浮かべると寛君は益々笑った。
「わかってるが旦那にからかわれる妻のようだなと思ってな」
「寛!! まったく、君の人をからかって楽しむ癖をどうにかしたまえ」
芥川君が焦れば焦れる程、寛君は笑った。
「僕は芥川君の貴重な表情が見られて嬉しいよ。
これも芥川君が“生きている”証だからね」
先程まで寛君に怒っていた芥川君は僕の言葉で
怒りを収めてくれた。
「やっぱり、犀星君はずるい……
そんな風に言われたら逃げ場がないじゃないか……」
「芥川君が“生きて”いてくれるなら
僕は手段を選ばないさ。
危うかろうとずるかろうとね。」
「犀星、お前は芥川に“特別”な感情を抱いてるだろう?」
寛君には敵わないな。
「そうだね、名前の付けようのない
感情を抱いてるし僕にとって芥川君は“特別”だよ。
執筆の根底は芥川君だからね。」
本当はこの気持ちに名前を付けるなら
“恋慕”だとわかっているし、
多分、寛君も僕の本当の気持ちに
気付いてるんだろうけど黙っていてくれた。
「犀星……」
寛君は僕の名前を呼んだ後、
芥川君に聞こえないように耳元で囁いた。
「⟦……俺が口出しすることじゃないなが
犀星、少しくらいは自分の気持ちに素直になれよ⟧」
僕は小声で言った。
「〚寛君、叶わないってわかってるだろう。
僕も芥川君も妻子持ちで同性同士だ……
この気持ちが“恋慕”だとしても無理なものは
無理なんだよ〛」
芥川君には聞こえないように寛君が言った。
「〚“無理”だと決めつけてるのは犀星自身だろう。
隠すのは簡単だが苦しくなるのは犀星だ。〛」
核心を突かれた僕は寛君からも
芥川君からも視線わ反らした。
寛君の言う通り、隠せば隠す程、
苦しいのは自分でもわかっている。
それでも、言ってしまったら芥川君を困らせてしまう。
「〚とにかく、犀星が“完璧に壊れる”前にな〛」
やっぱり、寛君には見抜かれてる。
「犀星君?」
いつまでも自分の方を向かない僕を不思議に思ったのか
芥川君の声色には疑問が含まれていた。
「ごめん、ちょっと考えごとをしてた」
「犀星君は時々、どこか遠くを見てる……」
その言葉に僕は返す言葉がない。
“前世”の話はしたけど、
僕が芥川君に“恋慕”を抱いてるなんて言えるわけがな。
「そんなことはないさ。
できる限り、芥川君の側にいると約束したじゃないか」
寛君には呆れられるだろうけど
芥川君の側にいれるならそれだけでいい。
僕が“壊れて”しまっても芥川君を守る。
「そうだったね」
寛君は何か言いたそうに僕を見ていたが
机の端に置いてあった煙草の箱から
一本取り出し火をつけた。
「犀星、お前は芥川を守るためなら
自分は“壊れて”も構わないと思っているだろうが
“壊れ”たら守れなくなるぞ」
もう、寛君は余計なことを……
「待った、寛……それはどういう意味だ?」
「どうもこうも、言葉の意味のままだ。
犀星は芥川を“生かす”ためなら
自分を犠牲にすることも
厭わないってことだ」
全て、寛君に暴露されてしまったな
「……犀星君、本気?」
「もちろん、本気さ。君を“生かす”ためなら
僕は手段を選ばない。
それが僕自身が“壊れる”ようともね」
“自己犠牲”の先にあるものを僕も
わかっていないわけじゃない。
それでも、“恋慕”よりも強い
この“想い”が僕を支えている。
今日は寛君と芥川君と三人で集まっていた。
「そういば、犀星君は寛のことは名前で呼んでいるのに
僕のことはいつまでも名字呼びのままだよね」
「確かにそうだね。君のことは尊敬してるからね、
なかなか、名前で呼ぶ勇気がないんだよ」
僕がそういうとすかさず寛君のツッコミが入った。
「それはなにか、
犀星は俺のことは尊敬してないってことか?」
「違うよ。もちろん、寛君のことも尊敬してるけど
友情の方が勝ってるだけさ」
肩をすくめて苦笑を浮かべて答えた。
「……龍之介君」
名前で呼ぶと僕が彼の“恋人”になった気分だ。
「犀星君に名前で呼ばれると少し照れるな」
芥川君は赤くなった顔を見られたくないのか
僕と寛君から視線を反らした。
「おや、そんなに顔を赤くしてどうしたんだい?」
意地悪心が働いた僕はわざと芥川君に訊いた。
「……少し照れただけだよ」
僕はにやりと笑って芥川君の耳元でもう一度、名前を囁いた。
「〚龍之介君〛」
芥川君は耳を押さえて僕から離れた。
「お前ら、まるで恋人同士みたいだぞ」
芥川君は寛君の言葉に益々、顔を赤くした。
「僕は芥川君の生きる理由になるなら寛君に恋人同士みたいと
からかわれても構わないさ」
僕があっけらかんとそう言うと寛君は大笑いした。
「お前らを見てると夫婦漫才を見てるみたいで面白いんだよな」
「寛君、僕も芥川君も妻子持ちだよ」
僕が肩をすくめて苦笑を浮かべると寛君は益々笑った。
「わかってるが旦那にからかわれる妻のようだなと思ってな」
「寛!! まったく、君の人をからかって楽しむ癖をどうにかしたまえ」
芥川君が焦れば焦れる程、寛君は笑った。
「僕は芥川君の貴重な表情が見られて嬉しいよ。
これも芥川君が“生きている”証だからね」
先程まで寛君に怒っていた芥川君は僕の言葉で
怒りを収めてくれた。
「やっぱり、犀星君はずるい……
そんな風に言われたら逃げ場がないじゃないか……」
「芥川君が“生きて”いてくれるなら
僕は手段を選ばないさ。
危うかろうとずるかろうとね。」
「犀星、お前は芥川に“特別”な感情を抱いてるだろう?」
寛君には敵わないな。
「そうだね、名前の付けようのない
感情を抱いてるし僕にとって芥川君は“特別”だよ。
執筆の根底は芥川君だからね。」
本当はこの気持ちに名前を付けるなら
“恋慕”だとわかっているし、
多分、寛君も僕の本当の気持ちに
気付いてるんだろうけど黙っていてくれた。
「犀星……」
寛君は僕の名前を呼んだ後、
芥川君に聞こえないように耳元で囁いた。
「⟦……俺が口出しすることじゃないなが
犀星、少しくらいは自分の気持ちに素直になれよ⟧」
僕は小声で言った。
「〚寛君、叶わないってわかってるだろう。
僕も芥川君も妻子持ちで同性同士だ……
この気持ちが“恋慕”だとしても無理なものは
無理なんだよ〛」
芥川君には聞こえないように寛君が言った。
「〚“無理”だと決めつけてるのは犀星自身だろう。
隠すのは簡単だが苦しくなるのは犀星だ。〛」
核心を突かれた僕は寛君からも
芥川君からも視線わ反らした。
寛君の言う通り、隠せば隠す程、
苦しいのは自分でもわかっている。
それでも、言ってしまったら芥川君を困らせてしまう。
「〚とにかく、犀星が“完璧に壊れる”前にな〛」
やっぱり、寛君には見抜かれてる。
「犀星君?」
いつまでも自分の方を向かない僕を不思議に思ったのか
芥川君の声色には疑問が含まれていた。
「ごめん、ちょっと考えごとをしてた」
「犀星君は時々、どこか遠くを見てる……」
その言葉に僕は返す言葉がない。
“前世”の話はしたけど、
僕が芥川君に“恋慕”を抱いてるなんて言えるわけがな。
「そんなことはないさ。
できる限り、芥川君の側にいると約束したじゃないか」
寛君には呆れられるだろうけど
芥川君の側にいれるならそれだけでいい。
僕が“壊れて”しまっても芥川君を守る。
「そうだったね」
寛君は何か言いたそうに僕を見ていたが
机の端に置いてあった煙草の箱から
一本取り出し火をつけた。
「犀星、お前は芥川を守るためなら
自分は“壊れて”も構わないと思っているだろうが
“壊れ”たら守れなくなるぞ」
もう、寛君は余計なことを……
「待った、寛……それはどういう意味だ?」
「どうもこうも、言葉の意味のままだ。
犀星は芥川を“生かす”ためなら
自分を犠牲にすることも
厭わないってことだ」
全て、寛君に暴露されてしまったな
「……犀星君、本気?」
「もちろん、本気さ。君を“生かす”ためなら
僕は手段を選ばない。
それが僕自身が“壊れる”ようともね」
“自己犠牲”の先にあるものを僕も
わかっていないわけじゃない。
それでも、“恋慕”よりも強い
この“想い”が僕を支えている。
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