室生犀星の後悔

華愁

文字の大きさ
17 / 40

第十七話 才能開花と文学賞という未来への切符❬室生犀星視点❭

しおりを挟む
龍之介君の息子で僕の弟子の比呂志君が文学賞に応募していたと
知ったのは選評の段階で審査員をしていた寛君からの知らせからだった。            
            
寛君の手紙には比呂志君の作品を読んだこと、
最終選考に残ったことなどが書かれていた。          
          
その手紙を龍之介君と二人で読んで驚いた。          
          
年端もいかない比呂志君の作品が最終選考に残るのは          
ある意味奇跡に近い。        
        
寛君が手紙に同封してくれた比呂志君の作品は、        
僕の真似でも龍之介君の真似でもない、彼の物語だった。      
      
「まさか、比呂志が文学賞に応募してたとは気付かなかったな」    
    
文学賞に応募してたことに気付かなかった悔しさと、荒削りながらも、    
人を引き込む感受性の豊かさに感心している龍之介君。

僕も改めて、その文章に目を通した。    
    
そして、五日後、またもや寛君から手紙が届いた。    
    
それは比呂志君が“受賞”したという知らせだった。  
  
「比呂志が受賞!? あの年で……」  
  
僕も驚いた。  
  
「才能は受け継がれるんだね、流石、龍之介君の息子だ」


「いや、犀星君の教えがよかったのかも」  
  
僕は首をふり、龍之介君に言った。  
  
「そんなことはないさ。  
  
これは、明らかに比呂志君の実力だ。  
  
表現の仕方は荒削りでも、ちゃんと、彼の物語になっている」

僕はもう一度、比呂志君の作品に目を通す。

“僕たち”の息子は才能の塊だ。

比呂志君に受賞したことを話すと驚いた後、僕と龍之介君に抱き着いた。

「父さん・パパ、本当に俺が受賞したの!?」

「本当だ。寛が送ってくれた手紙には
審査員の感想も同封されてた。

【文章は荒削りだが幼いながらに感受性が豊かで将来が楽しみだ。

これからも傲らずに研鑽を重ねてほしい】とね」

その日の夜、龍之介君と比呂志君は
文さんと多加志君に話すと言って帰って行き
翌朝、僕のもとに龍之介君からの便りが届いた。

昨夜の芥川家は小さな祝宴となったらしい。

文さんは慌ただしく台所に立ち、普段より少し豪華な食卓を整えたそうだ。

多加志君は「兄さん、すごいな! 今度は僕も挑戦してみたい」と目を輝かせ、
比呂志君は照れながらも、受賞の喜びを噛み締めていたと書かれていた。

便りの端には、龍之介君の手による短い走り書きが添えられていた。

犀星君。君が比呂志の“第二の親”でいてくれて、本当に心強い。
これからの彼の道のりを、一緒に見守っていこう。

僕は手紙を読み終え、しばし机に頬杖をついた。
比呂志君は、もう子供ながらに「文学」という航路を歩き始めたのだ。

その道は栄光ばかりではなく、嫉妬や理不尽さにも晒されるだろう。

だからこそ、僕は彼を守り、支えたい。

“親”として、師として、同じ文学者として。

机の上の原稿用紙を広げ、僕は静かに筆を執った。

言葉は祝福のように流れ、やがて一編の詩になった。

――我らが子よ、光を恐れるな。

その筆は未来を描く切符。

いかなる嵐が来ようとも、君の物語を信じよ。――

書き終えた瞬間、僕の胸の奥には確かな決意が宿っていた。

比呂志君の才能は、もう芽吹いた。

これからは、それを守り抜く番だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

俺達の関係

すずかけあおい
BL
自分本位な攻め×攻めとの関係に悩む受けです。 〔攻め〕紘一(こういち) 〔受け〕郁也(いくや)

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

薄紅の檻、月下の契り

雪兎
BL
あらすじ 大正十年、華やかな文明開化の影で、いまだ旧き因習が色濃く残る帝都。 没落しかけた名家に生まれた“Ω(オメガ)”の青年・白鷺伊織は、家を救うため政略的な「番(つがい)」として差し出される運命にあった。 しかし縁談の相手は、冷酷無慈悲と噂される若き実業家であり“α(アルファ)”の当主・九条鷹司。 鉄道・銀行事業で財を成した九条家は、華族でもありながら成り上がりと蔑まれる存在。 一方の伊織は、旧華族の矜持を胸に秘めながらも、Ωであるがゆえに家族から疎まれてきた。 冷ややかな契約婚として始まった同居生活。 だが、伊織は次第に知ることになる。 鷹司がΩを所有物としてではなく、一人の人間として尊重しようとしていることを。 発情期を巡る制度、番契約を強制する家制度、そして帝都に広がる新思想。 伝統と自由のはざまで揺れながら、二人は「選ばされた番」から「自ら選ぶ伴侶」へと変わっていく——。 月明かりの下、交わされるのは支配ではなく、誓い。 大正浪漫薫る帝都で紡がれる、運命を超える愛の物語。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

不器用なαと素直になれないΩ

万里
BL
美術大学に通う映画監督志望の碧人(あおと)は、珍しい男性Ωであり、その整った容姿から服飾科のモデルを頼まれることが多かった。ある日、撮影で写真学科の十和(とわ)と出会う。 十和は寡黙で近寄りがたい雰囲気を持ち、撮影中もぶっきらぼうな指示を出すが、その真剣な眼差しは碧人をただの「綺麗なモデル」としてではなく、一人の人間として捉えていた。碧人はその視線に強く心を揺さぶられる。 従順で可愛げがあるとされるΩ像に反発し、自分の意思で生きようとする碧人。そんな彼の反抗的な態度を十和は「悪くない」と認め、シャッターを切る。その瞬間、碧人の胸には歓喜と焦燥が入り混じった感情が走る。 撮影後、十和は碧人に写真を見せようとするが、碧人は素直になれず「どうでもいい」と答えてしまう。しかし十和は「素直じゃねえな」と呟き、碧人の本質を見抜いているように感じさせる。そのことに碧人は動揺し、彼への特別な感情を意識し始めるのだった。

処理中です...