室生犀星の後悔

華愁

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第二十九話 新居と“家族の形”

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数ヶ月後、今日は待望の引っ越しの日。

早朝から芥川家と室生家の前にはトラックが止まっていた。

二家分の引っ越しとなるとかなり大規模だ。

二時間程で、新しい家に着いた。

母さんとママは台所、パパと父さんと俺はそれぞれの書斎。

朝子ちゃんは自分の部屋。

多加志は子ども部屋の自分の荷物を片付けることになった。

「この角部屋が比呂志君の書斎だよ」

俺は書斎の窓から入り込む春風に目を閉じた。気持ちいい。

夕方になり、ある程度の荷解きを終えて居間に行くと
母さんとママ、朝子ちゃんが机に夕飯を並べていた。

「何か手伝う?」

台所に入って魚を焼いていた母さんとお味噌汁を作っていた
ママに訊くと「座っていていい」と言われた。

俺は居間の椅子に座り、並べられた普段より豪華な夕飯に笑顔になった。

ーー

一ヶ月後、俺は自分の書斎で新しい作品を書いていた。

題名は「家族の形」。

【冒頭

ーー“僕”には二人の父親と二人の母親、
三人の弟と一人の妹がいる。ーー

中略

ーー父親二人は作家だ。

“僕”は父親二人の影響で“書く”ことが好きだ。

一つ屋根の下に皆で暮らし、書斎から
庭でり回っている弟たちを眺める。ーー

終盤

ーー今日も母親二人は台所に立ち、
美味しいご飯を作ってくれる。

妹は二人の母親の手伝いをし
父親二人は仕事の話しをしている。

上の弟は宿題をし、俺は下の弟二人に
本を読んで聞かせている。

また、今日一日が終わる。


“僕”は、温かい家族に囲まれて幸せだーー了】

俺は書き上がった作品を持って父さんの書斎に向かった。

そこにはパパもいた。

「二人に読んでほしいんだ」

持っていた原稿用紙を渡した。

「題名は……{家族の形}か。比呂志らしいな」

父さんの隣に座ったパパも一緒に読み始めた。

「比呂志君らしい、優しい文体と“日常”を題材にしているのもいい。」

「そうだね、比呂志が普段、“家族”の様子をちゃんと見ている証拠でもある」

二人に抱き締められた。

驚いたけど、その温もりに安心して、俺は二人の腕に身を委ねた。

暫く三人で静かな時間を過ごしていると朝子ちゃんが来た。

「兄さん、それ、兄さんの小説?」

父さんの書斎の机に置いてある原稿用紙を指して朝子ちゃんが訊いた。

「そうだよ」

「読みたい!! お母さんたちにも聞かせてあげようよ」

朝子ちゃんの無邪気な言葉に居間で読むことになった。

俺は{家族の形}の原稿を持って居間に向かった。

居間には既に弟たち三人と母さんとママがいた。

「ーー“僕”には二人の父親と二人の母親、
三人の弟と一人の妹がいる。ーー」

自分で書いた物だけど改めて声に出して読むと涙が出そうだった。

「ーー父親二人は作家だ。

“僕”は父親二人の影響で“書く”ことが好きだ。

一つ屋根の下に皆で暮らし、書斎から
庭でり回っている弟たちを眺める。ーー」

夕方、実際に庭を走り回っていた弟たちを思い出した。

「ーー今日も母親二人は台所に立ち、
美味しいご飯を作ってくれる。

妹は二人の母親の手伝いをし
父親二人は仕事の話しをしている。

上の弟は宿題をし、俺は下の弟二人に
本を読んで聞かせている。

また、今日一日が終わる。

“僕”は、温かい家族に囲まれて幸せだーー了」

読み終えると弟たち三人は、「もう一回!!」とせがみ、
妹の朝子ちゃんは俺に抱き着いた。

「わかった、もう一回ね」

俺たちは世間からしたら、“普通”じゃないのかもしれない。

だけど、“家族の形”はそれぞれだと思うから
二回目の読み聞かせを始めながら、
この優しくて温かい時間を大切にしていこうと誓った。
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