13 / 17
12
しおりを挟む
それから別に、氷室と話すようになったとかそういうことは一切起こらなかった。避けられたまま。
恋というものは、放っておけばそのうち忘れる。十七年間でそれくらいは学んだ。だから別にいい。
平は俺を、寂しそうだと言った。意図せず感情が外に出るなんて滅多にない人間としては、少し驚いている。
寂しい。確かに寂しい。でもこれもそのうち忘れるから。
「二人のことなんだからお前ばっかり気を使う必要は......」平がその先何とつなげる気だったのか。考えなくともわかる。
でも好きな人のことは傷つけたくない。気を使いたい。当たり前の感情だと思う。
だから俺は、何も聞かない。詮索しない。......つもりだった。
「春川君」
「え、あ、氷室?」
ちょうど今考えていた相手の声に肩が跳ねそうになった。以前より少し声が低くなった気がする。
「この間借りた本、返そうと思って」
ご丁寧に紙袋に入れられた本たちを受け取る。その際に手と手が触れ、肩が跳ねた。
俺ではなく、氷室の。
「あ、ご、ごめん。それじゃ」
「ま、待って」
咄嗟に手首を掴んでいた。氷室は一瞬動作を止め、それから勢いよく俺の手を振り払った。
「え」
「あ、ごめ......」
自分でも驚いている様子だった。
嫌われた? でも本借りに来たし。そのあとは会ってないし。いや、借りに来た時も無理を......?
「あの、ご、ごめんね。春川君のせいというか、春川君が嫌な訳じゃないの」
俺がよほどひどい顔をしていたのか、氷室はわたわたとフォローを入れ始めた。
しかしすぐに気が付いた。俺よりもおそらく氷室の方がひどい顔をしている。俺は自分の顔が見えないのにそう思った。それって相当じゃないか?
何故、そんなに苦しそうなのか。それが知りたかった。俺にできることがあるならやりたかった。
それはただの俺のわがままだ。でも、わがままを言ってはいけないのだろうか。二人のことなのだから。
「......話したくないなら、無理にとは言わないけど、俺で良ければ話してくれないか?」
気が付けば、そう口にしていた。最初から、きっと遊園地の日から、こう言えば良かったんだ。
無理やり聞き出すことと、相手に手を伸ばすことは違うのだから。
何かに手を伸ばしたいと、そう強く思ったのは初めてだった。どうしようもなく、氷室は俺を惹きつける。
「あ、でも、僕......」
氷室は躊躇いながらあたりを見回し、それから俺を手招きした。
大人しく付いて行く。通学路から外れた人気のない通りに連れて行かれた。
そして、
「えっ」
いつかの遊園地の様に、抱き着かれる。
「ちょっ、ま、待って!」
前回と違い、すぐに引き剥がされてくれた。
「......ごめん。嫌だった?」
本気で傷ついたような顔をされ、急いで首を横に振った。
「違う!ただ......ここだと学校の奴らに見られるかもしれない、し......」
「大丈夫だと思うけど......じゃあ僕の家、来てくれる? まだ話せるかわからないけど」
「ああ、それはもちろん」
まだ心臓が早鐘を打っていた。主に二つの理由で。
恋というものは、放っておけばそのうち忘れる。十七年間でそれくらいは学んだ。だから別にいい。
平は俺を、寂しそうだと言った。意図せず感情が外に出るなんて滅多にない人間としては、少し驚いている。
寂しい。確かに寂しい。でもこれもそのうち忘れるから。
「二人のことなんだからお前ばっかり気を使う必要は......」平がその先何とつなげる気だったのか。考えなくともわかる。
でも好きな人のことは傷つけたくない。気を使いたい。当たり前の感情だと思う。
だから俺は、何も聞かない。詮索しない。......つもりだった。
「春川君」
「え、あ、氷室?」
ちょうど今考えていた相手の声に肩が跳ねそうになった。以前より少し声が低くなった気がする。
「この間借りた本、返そうと思って」
ご丁寧に紙袋に入れられた本たちを受け取る。その際に手と手が触れ、肩が跳ねた。
俺ではなく、氷室の。
「あ、ご、ごめん。それじゃ」
「ま、待って」
咄嗟に手首を掴んでいた。氷室は一瞬動作を止め、それから勢いよく俺の手を振り払った。
「え」
「あ、ごめ......」
自分でも驚いている様子だった。
嫌われた? でも本借りに来たし。そのあとは会ってないし。いや、借りに来た時も無理を......?
「あの、ご、ごめんね。春川君のせいというか、春川君が嫌な訳じゃないの」
俺がよほどひどい顔をしていたのか、氷室はわたわたとフォローを入れ始めた。
しかしすぐに気が付いた。俺よりもおそらく氷室の方がひどい顔をしている。俺は自分の顔が見えないのにそう思った。それって相当じゃないか?
何故、そんなに苦しそうなのか。それが知りたかった。俺にできることがあるならやりたかった。
それはただの俺のわがままだ。でも、わがままを言ってはいけないのだろうか。二人のことなのだから。
「......話したくないなら、無理にとは言わないけど、俺で良ければ話してくれないか?」
気が付けば、そう口にしていた。最初から、きっと遊園地の日から、こう言えば良かったんだ。
無理やり聞き出すことと、相手に手を伸ばすことは違うのだから。
何かに手を伸ばしたいと、そう強く思ったのは初めてだった。どうしようもなく、氷室は俺を惹きつける。
「あ、でも、僕......」
氷室は躊躇いながらあたりを見回し、それから俺を手招きした。
大人しく付いて行く。通学路から外れた人気のない通りに連れて行かれた。
そして、
「えっ」
いつかの遊園地の様に、抱き着かれる。
「ちょっ、ま、待って!」
前回と違い、すぐに引き剥がされてくれた。
「......ごめん。嫌だった?」
本気で傷ついたような顔をされ、急いで首を横に振った。
「違う!ただ......ここだと学校の奴らに見られるかもしれない、し......」
「大丈夫だと思うけど......じゃあ僕の家、来てくれる? まだ話せるかわからないけど」
「ああ、それはもちろん」
まだ心臓が早鐘を打っていた。主に二つの理由で。
0
あなたにおすすめの小説
前世が悪女の男は誰にも会いたくない
イケのタコ
BL
※注意 BLであり前世が女性です
ーーーやってしまった。
『もういい。お前の顔は見たくない』
旦那様から罵声は一度も吐かれる事はなく、静かに拒絶された。
前世は椿という名の悪女だったが普通の男子高校生として生活を送る赤橋 新(あかはし あらた)は、二度とそんのような事ないように、心を改めて清く生きようとしていた
しかし、前世からの因縁か、運命か。前世の時に結婚していた男、雪久(ゆきひさ)とどうしても会ってしまう
その運命を受け入れれば、待っているの惨めな人生だと確信した赤橋は雪久からどうにか逃げる事に決める
頑張って運命を回避しようとする話です
イケメンに惚れられた俺の話
モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。
こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。
そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。
どんなやつかと思い、会ってみると……
未完成な僕たちの鼓動の色
水飴さらさ
BL
由人は、気が弱い恥ずかしがり屋の162cmの高校3年生。
今日も大人しく控えめに生きていく。
同じクラスになった学校でも人気者の久場くんはそんな由人に毎日「おはよう」と、挨拶をしてくれる。
嬉しいのに恥ずかしくて、挨拶も返せない由人に久場くんはいつも優しい。
由人にとって久場くんは遠く憧れの存在。
体育の時間、足を痛めた由人がほっとけない久場くん。
保健室で2人きりになり……
だいぶんじれじれが続きます。
キスや、体に触れる描写が含まれる甘いエピソードには※をつけてます。
素敵な作品が数多くある中、由人と久場くんのお話を読んで頂いてありがとうございます。
少しでも皆さんを癒すことができれば幸いです。
2025.0808
義兄が溺愛してきます
ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。
その翌日からだ。
義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。
翔は恋に好意を寄せているのだった。
本人はその事を知るよしもない。
その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。
成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。
翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。
すれ違う思いは交わるのか─────。
俺の幼馴染が陽キャのくせに重すぎる!
佐倉海斗
BL
十七歳の高校三年生の春、少年、葉山葵は恋をしていた。
相手は幼馴染の杉田律だ。
……この恋は障害が多すぎる。
律は高校で一番の人気者だった。その為、今日も律の周りには大勢の生徒が集まっている。人見知りで人混みが苦手な葵は、幼馴染だからとその中に入っていくことができず、友人二人と昨日見たばかりのアニメの話で盛り上がっていた。
※三人称の全年齢BLです※
兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?
perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。
その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。
彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。
……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。
――「光希、俺はお前が好きだ。」
次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。
あなたのいちばんすきなひと
名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。
ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。
有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。
俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。
実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。
そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。
また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。
自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は――
隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる