紫の蛹

星川過世

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エピローグ

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 少し話をして俺は家に帰り、本を読みながらゴロゴロしていた。
 悪いことでもないのに誰にも言えずに隠していたものを口に出して気分がひどく軽い。別に隠しておくことを苦痛に感じていた訳ではないのに。むしろ相手が誰であれ知られるのが怖かったのに。不思議だ。
 言ってもいいと、思える相手が居ることが嬉しいのだろうか。

 そんな取り留めもないことを考えていて、本の内容など碌に頭に入っていなかったところにスマホが鳴った。電話の鳴り方だ。
 慌てて手を伸ばす。画面に氷室の名前が出ていたので更に慌てた。

 「はい、もしもし」
 「あ、春川君」
 少し間があく。
 「今日のってつまり、男の僕に魅力を感じてくれて、誰かの代わりとかじゃなくて僕のことが好きってこと......?」
 さっきそう言ったろ! 何回言わせるんだよ! と叫びたくなるのを堪えて「そうだけど」と言った。恥ずかしさで声に険が入ってしまい少し焦ったが、氷室は特に気にしていないようだった。
 「あー」とか「えー」とか意味のない音を発し続けている。

 「氷室?」
 「それじゃ、男同士で両想いになるのって難しそうだし、たまたまそこに居た僕にしたとか、そういう話の可能性って.......」
 「ねぇよ」
 まあその思考に行くのもわかるけども。というか女の代わり云々よりむしろそっちの方がありそうな話だ。

 「俺はお前が、氷室伶が好きだ。掴みどころのないところも、話し方が順序立ってないところも、表情がコロコロ変わるところも、意外と繊細そうなところも」
 もうどうにでもなれ。俺が恥ずかしいのとかどうでもいい。コイツの自信になるなら。いや、何それ。クサいな。
 氷室が戸惑っているのが電話越しにわかった。今すぐスマホを投げ捨てて叫び声をあげながらベットの上を転がりたい。

 「あ、の、すごく虫のいい話なんだけど」
 「何」
 「春川君のこと、好きになっちゃった」
 「なんでそれを俺に言う!?」
 もう告白じゃねぇか! と部屋の外に声が漏れないように口元を手でふさぎながら叫ぶ。俺今、絶対顔真っ赤だ。

 「もう告白します。春川君、好きです。僕と付き合ってください」
 
 「......はい」
 電話の向こうで叫び声がした。俺も叫びたい。色んな意味で。
 だからこの際行けるところまで行こうと思う。

 「俺も好きだ」

 氷室がまた叫んだので慌ててスピーカーを塞いだ。近所迷惑になってないかな、アイツ。
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