紫の蛹

星川過世

文字の大きさ
17 / 17

エピローグ

しおりを挟む
 少し話をして俺は家に帰り、本を読みながらゴロゴロしていた。
 悪いことでもないのに誰にも言えずに隠していたものを口に出して気分がひどく軽い。別に隠しておくことを苦痛に感じていた訳ではないのに。むしろ相手が誰であれ知られるのが怖かったのに。不思議だ。
 言ってもいいと、思える相手が居ることが嬉しいのだろうか。

 そんな取り留めもないことを考えていて、本の内容など碌に頭に入っていなかったところにスマホが鳴った。電話の鳴り方だ。
 慌てて手を伸ばす。画面に氷室の名前が出ていたので更に慌てた。

 「はい、もしもし」
 「あ、春川君」
 少し間があく。
 「今日のってつまり、男の僕に魅力を感じてくれて、誰かの代わりとかじゃなくて僕のことが好きってこと......?」
 さっきそう言ったろ! 何回言わせるんだよ! と叫びたくなるのを堪えて「そうだけど」と言った。恥ずかしさで声に険が入ってしまい少し焦ったが、氷室は特に気にしていないようだった。
 「あー」とか「えー」とか意味のない音を発し続けている。

 「氷室?」
 「それじゃ、男同士で両想いになるのって難しそうだし、たまたまそこに居た僕にしたとか、そういう話の可能性って.......」
 「ねぇよ」
 まあその思考に行くのもわかるけども。というか女の代わり云々よりむしろそっちの方がありそうな話だ。

 「俺はお前が、氷室伶が好きだ。掴みどころのないところも、話し方が順序立ってないところも、表情がコロコロ変わるところも、意外と繊細そうなところも」
 もうどうにでもなれ。俺が恥ずかしいのとかどうでもいい。コイツの自信になるなら。いや、何それ。クサいな。
 氷室が戸惑っているのが電話越しにわかった。今すぐスマホを投げ捨てて叫び声をあげながらベットの上を転がりたい。

 「あ、の、すごく虫のいい話なんだけど」
 「何」
 「春川君のこと、好きになっちゃった」
 「なんでそれを俺に言う!?」
 もう告白じゃねぇか! と部屋の外に声が漏れないように口元を手でふさぎながら叫ぶ。俺今、絶対顔真っ赤だ。

 「もう告白します。春川君、好きです。僕と付き合ってください」
 
 「......はい」
 電話の向こうで叫び声がした。俺も叫びたい。色んな意味で。
 だからこの際行けるところまで行こうと思う。

 「俺も好きだ」

 氷室がまた叫んだので慌ててスピーカーを塞いだ。近所迷惑になってないかな、アイツ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

天使と悪魔と保護者のお兄さん

ミクリ21
BL
天使と悪魔の双子を拾ったお兄さんは、保護者として大事に育てることに致しました!

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

処理中です...