15 / 15
最終話
しおりを挟む
俺の家に行くと父は不在で母と兄だけが居る。龍之介は俺たちを見て「やっぱりね」とだけ言った。
勝手に慎太郎さんに話したことについては後で話し合いたいが、この状況も半分くらいは龍之介のおかげなので今は軽く睨んでおくに留める。「ただいま」とだけ言って慎太郎さんを連れて部屋に入った。
母はオメガの部屋に身内でもないアルファが入ることに否定的だが、母から見て慎太郎さんは俺の恋人のような認識らしい。
「あの、慎太郎さん。俺も慎太郎さんのことが好きです。たとえ運命でなくたって。ずっとずっと、子どもの頃から......」
「でも、運命と出逢えたんだろう?」
「はい。それでも、俺は慎太郎さんが好きです。慎太郎さんと一緒に居たいです」
窓から慎太郎さんを見た時、湊さんに抱く理性が全部置いて行かれるような本能的なものとは全く別ベクトルの愛おしさがこみ上げてきた。記憶と理性と感情と本能と、すべてが慎太郎さんを好きだと静かに訴えていた。その思いを大事にしたいと思ったのだ。曖昧でも、不確かでも、一方通行でも、こんなにも強い気持ちなのだから。
「本能には抗えないんじゃないか?」
「恋だって本能でするものですよ。俺、ずっと慎太郎さんに恋しています」
慎太郎さんの動きが一瞬止まり、小さく息を吐いた。
「それはまぁ、確かに」
しばらくの間、どちらもしゃべらず身じろぎもほとんどしなかった。どこか遠くから聞こえる電車や車の音だけが、ひっそりと響く。
やがて慎太郎さんが、やけに重そうに口を開いた。
「運命の相手と一緒になった方が、幸せになれるんじゃないか?」
「それは......」
反論できない。
とでも思ったのだろうか。
「俺達には運命なんて不確かなものじゃなくて、ともに過ごした確かな時間があるでしょう」
その場の慰めの言葉だということくらい、わかっている。もう慎太郎さんの方は覚えていないかもしれない。それでも俺はずっとこの言葉を拠り所にしてきたのだ。
慎太郎さんが顔を上げる。
「それにね、慎太郎さん。慎太郎さんはいつも『性別に関係なくみんなが思うように生きられるようにしたい』って、言っているじゃないですか。これもそういうことなんじゃないですか?」
こちらは今もよく口にしているので、心当たりがあるだろう。
「俺はオメガだからって運命に縛られたくありません。自分の幸せは自分で決めたい。......いえ、幸せになることを最優先するかどうかも、自分で決めます」
運命の相手と結ばれるのが幸せとか、出来る限り幸せであれるよう選択すべきとか。
それは俺以外の誰かが決めたことだ。
俺は慎太郎さんと過ごす未来が幸せなものになると信じているし、そうでなくても、例え不幸になっても慎太郎さんと居たい。
いつか後悔したって、構わない。自分で選んだ道ならば。
勝手に慎太郎さんに話したことについては後で話し合いたいが、この状況も半分くらいは龍之介のおかげなので今は軽く睨んでおくに留める。「ただいま」とだけ言って慎太郎さんを連れて部屋に入った。
母はオメガの部屋に身内でもないアルファが入ることに否定的だが、母から見て慎太郎さんは俺の恋人のような認識らしい。
「あの、慎太郎さん。俺も慎太郎さんのことが好きです。たとえ運命でなくたって。ずっとずっと、子どもの頃から......」
「でも、運命と出逢えたんだろう?」
「はい。それでも、俺は慎太郎さんが好きです。慎太郎さんと一緒に居たいです」
窓から慎太郎さんを見た時、湊さんに抱く理性が全部置いて行かれるような本能的なものとは全く別ベクトルの愛おしさがこみ上げてきた。記憶と理性と感情と本能と、すべてが慎太郎さんを好きだと静かに訴えていた。その思いを大事にしたいと思ったのだ。曖昧でも、不確かでも、一方通行でも、こんなにも強い気持ちなのだから。
「本能には抗えないんじゃないか?」
「恋だって本能でするものですよ。俺、ずっと慎太郎さんに恋しています」
慎太郎さんの動きが一瞬止まり、小さく息を吐いた。
「それはまぁ、確かに」
しばらくの間、どちらもしゃべらず身じろぎもほとんどしなかった。どこか遠くから聞こえる電車や車の音だけが、ひっそりと響く。
やがて慎太郎さんが、やけに重そうに口を開いた。
「運命の相手と一緒になった方が、幸せになれるんじゃないか?」
「それは......」
反論できない。
とでも思ったのだろうか。
「俺達には運命なんて不確かなものじゃなくて、ともに過ごした確かな時間があるでしょう」
その場の慰めの言葉だということくらい、わかっている。もう慎太郎さんの方は覚えていないかもしれない。それでも俺はずっとこの言葉を拠り所にしてきたのだ。
慎太郎さんが顔を上げる。
「それにね、慎太郎さん。慎太郎さんはいつも『性別に関係なくみんなが思うように生きられるようにしたい』って、言っているじゃないですか。これもそういうことなんじゃないですか?」
こちらは今もよく口にしているので、心当たりがあるだろう。
「俺はオメガだからって運命に縛られたくありません。自分の幸せは自分で決めたい。......いえ、幸せになることを最優先するかどうかも、自分で決めます」
運命の相手と結ばれるのが幸せとか、出来る限り幸せであれるよう選択すべきとか。
それは俺以外の誰かが決めたことだ。
俺は慎太郎さんと過ごす未来が幸せなものになると信じているし、そうでなくても、例え不幸になっても慎太郎さんと居たい。
いつか後悔したって、構わない。自分で選んだ道ならば。
6
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
運命よりも先に、愛してしまった
AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。
しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、
2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。
その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。
ずっと、貴方が欲しかったんだ
一ノ瀬麻紀
BL
高校時代の事故をきっかけに、地元を離れていた悠生。
10年ぶりに戻った街で、結婚を控えた彼の前に現れたのは、かつての幼馴染の弟だった。
✤
後天性オメガバース作品です。
ビッチング描写はありません。
ツイノベで書いたものを改稿しました。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻本作品(オリジナル)の結末をif(運命の番)ルートに入れ替えて、他サイトでの投稿を始めました。タイトルは「一度目の結婚で愛も希望も失くした僕が、移住先で運命と出逢い、二度目の結婚で愛されるまで」に変えてます。
オリジナルの本編結末は完全なハッピーエンドとはいえないかもしれませんが、「一度目の〜…」は琳が幸せな結婚をするハッピーエンド一択です。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
君に不幸あれ。
ぽぽ
BL
「全部、君のせいだから」
学校でも居場所がなく、家族に見捨てられた男子高校生の静。
生きる意味を失いかけた時に屋上で出会ったのは、太陽に眩しい青年、天輝玲だった。
静より一つ年上の玲の存在は、静の壊れかけていた心の唯一の救いだった。
静は玲のことを好きになり、静の告白をきっかけに二人は結ばれる。
しかしある日、玲の口から聞いた言葉が静の世界を一瞬で反転させる。
玲に対する感情は信頼から憎悪へと変わった。
それから十年。
かつて自分を救った玲に再会した静は玲に対して同じ苦しみを味合わせようとする。
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる