この恋が運命じゃなくても

星川過世

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最終話

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 俺の家に行くと父は不在で母と兄だけが居る。龍之介は俺たちを見て「やっぱりね」とだけ言った。
 勝手に慎太郎さんに話したことについては後で話し合いたいが、この状況も半分くらいは龍之介のおかげなので今は軽く睨んでおくに留める。「ただいま」とだけ言って慎太郎さんを連れて部屋に入った。
 母はオメガの部屋に身内でもないアルファが入ることに否定的だが、母から見て慎太郎さんは俺の恋人のような認識らしい。

 「あの、慎太郎さん。俺も慎太郎さんのことが好きです。たとえ運命でなくたって。ずっとずっと、子どもの頃から......」
 「でも、運命と出逢えたんだろう?」
 「はい。それでも、俺は慎太郎さんが好きです。慎太郎さんと一緒に居たいです」
 窓から慎太郎さんを見た時、湊さんに抱く理性が全部置いて行かれるような本能的なものとは全く別ベクトルの愛おしさがこみ上げてきた。記憶と理性と感情と本能と、すべてが慎太郎さんを好きだと静かに訴えていた。その思いを大事にしたいと思ったのだ。曖昧でも、不確かでも、一方通行でも、こんなにも強い気持ちなのだから。
 「本能には抗えないんじゃないか?」
 「恋だって本能でするものですよ。俺、ずっと慎太郎さんに恋しています」
 慎太郎さんの動きが一瞬止まり、小さく息を吐いた。
 「それはまぁ、確かに」
 しばらくの間、どちらもしゃべらず身じろぎもほとんどしなかった。どこか遠くから聞こえる電車や車の音だけが、ひっそりと響く。
 やがて慎太郎さんが、やけに重そうに口を開いた。
 「運命の相手と一緒になった方が、幸せになれるんじゃないか?」
 「それは......」
 反論できない。
 とでも思ったのだろうか。

 「俺達には運命なんて不確かなものじゃなくて、ともに過ごした確かな時間があるでしょう」

 その場の慰めの言葉だということくらい、わかっている。もう慎太郎さんの方は覚えていないかもしれない。それでも俺はずっとこの言葉を拠り所にしてきたのだ。
 慎太郎さんが顔を上げる。
 「それにね、慎太郎さん。慎太郎さんはいつも『性別に関係なくみんなが思うように生きられるようにしたい』って、言っているじゃないですか。これもそういうことなんじゃないですか?」
 こちらは今もよく口にしているので、心当たりがあるだろう。
 「俺はオメガだからって運命に縛られたくありません。自分の幸せは自分で決めたい。......いえ、幸せになることを最優先するかどうかも、自分で決めます」

 運命の相手と結ばれるのが幸せとか、出来る限り幸せであれるよう選択すべきとか。
 それは俺以外の誰かが決めたことだ。
 俺は慎太郎さんと過ごす未来が幸せなものになると信じているし、そうでなくても、例え不幸になっても慎太郎さんと居たい。
 いつか後悔したって、構わない。自分で選んだ道ならば。
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