この恋が運命じゃなくても

星川過世

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慎太郎のはなし 4

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 『もしもし? シン? 龍之介だけど』
 「龍之介? どうしたんだ」
 こんな時間に電話なんて珍しい。
 『聞いた? 瞬が運命の番に会った話』
 「え、なんだそれ」
 龍之介が言っている言葉の内容をかみ砕く前に、俺の口から疑問が零れた。
 『だよな。......なんかこの前、出勤前にたまたますれ違ったんだと』
 「よかったな。運命の番なんて滅多に出逢えるものじゃないのに、逢いたくて堪らなかった瞬が出逢えるなんてラッキーだ」
 素直にそう口にすると、電話の向こうで溜息が聞こえる。
 「お前、それで本当にいいのかよ」
 「え? なにが」
 「なにがって......今、瞬はソイツと会ってるよ。駅前の喫茶店」
 何故龍之介がそんなことを言ってくるのかわからなかった。「そうなんだ」とだけ返すと再び溜息が聞こえる。
 「俺、そんなどこの馬の骨ともわからないやつに弟はやれないんだけど?」
 「どこのって......。運命の番なんて一番適任だろ」
 「本当にお前は!」
 龍之介が何を言いたいのかわからないまま、通話が切れた。

 運命の番、か。何がいいのか俺にはさっぱりだが、瞬はずっと探していた。生きているうちに会えるなんて滅多にないから、本当に運が良かったのだろう。
 相手はどんな人だろう。瞬の運命なら、うんと優しくて瞬のことを大切にしてくれる人ではないと困る。
 瞬は今頃その人にべた惚れだろう。もう俺に好意を寄せてくることもあるまい。
 弟が結婚する時の兄の気持ちとはこんな感じなのだろうか。そう考えると少し寂しい。
 自分の第二の性を呪ったとき、瞬はいつも隣で話を聞いてくれた。瞬の方が大変な肉体を持って生まれてきたのに。
 今まで学校でも職場でもささやかな差別に遭っていたはずの瞬は、恵まれて生まれてきた俺に寄り添ってくれた。
 きっとそういうことも、今後無くなる。

 なんとなく上着を羽織り、家を出た。そして龍之介の言っていた喫茶店に向かった。
 様子を見に行きたい兄心だったのかもしれないし、相手を一目見たい野次馬心だったのかもしれないし、それ以外かもしれなかったが、なんとなく喫茶店に足が向いていた。
 この時間帯の喫茶店は賑わっている。しかし瞬は窓際の席に座っていたのですぐわかった。
 向かいには、綺麗な顔の男が座っていた。ニコニコと愛おしそうに瞬を見つめている。瞬も見たことのない幸せそうな表情で相手に何やら話しかけている。
 まるで長年連れ添った夫夫のような空気が二人の間には流れていた。

 なんだ、心配することなど無かったのだ。運命の番なのだから、なにもかも上手くいく。
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