5 / 16
5
しおりを挟む
零夜くん、俺、紗雪、雄飛さんの順に座る。
「アユムって、さゆちゃんとホント仲良いよね」
「うん。お姉ちゃんみたいなものだから」
母親同士が仲の良い姉妹で、お互いに一人っ子。年齢も家も近かったので俺と紗雪は姉弟同然に育った。
小さいころは近所の悪ガキに絡まれているところをよく助けてもらったものだ。紗雪はあの頃からしっかりしていたし、俺は変わらず頼りない。
そんな話をすると、零夜くんは突然俺の髪を撫でた。
「零夜くん?」
「当たり前だけど俺、ちっちゃいころのアユムのこと何も知らないからさ。なんか悔しい」
久しぶりに声のトーンがホストモードというか、接客モードだ。親しくなってからはくだけたモードで話してくれたのだが。紗雪がいるからだろうか。
「あ、じゃあ歩夢の子どもの頃の話しようか?」
雄飛さんと話していたはずの紗雪が振り返る。
「え、ちょっとやめてよ」
「えー、聞きたい」
結局、俺と紗雪が思い出話をして零夜くんと雄飛さんが聞くという謎の空間が出来上がった。
零夜くんは基本いつでも誰に対しても距離が近い。特に家や店では恋人同士のようなスキンシップをよくする。が、今日はいつも以上に近い。ずっと右手を捕まれたままだったから俺は左手でお酒を飲まなくてはいけなかったし、紗雪に話し掛けるために身を乗り出す度、間にいる俺の肩に顎を載せた。
「このあと四人でアフター行く?」
雄飛さんが言って紗雪が賛成した。
「俺もいいよ。零夜くんは?」
「......アユムが行くなら行く」
なぜか機嫌が悪い。仕事中に自分の不機嫌さを意味もなく見せるようなタイプではないので、俺が何かしたということだろうか。
当然察する力は持ち合わせていないので、素直に尋ねることにする。
「零夜くん、俺何かしたかな?」
「え?」
「なんか怒ってるから......」
一瞬間が開いて、「怒ってる?」とおうむ返しされた。
「怒ってる、っていうか不機嫌......?」
「嘘。全然気づかなかった」
零夜くんは自分の顔を触ってから気まずそうに肩をすくめた。本気で驚いている......ように見える。俺にそんなことわかるのかと言われたら、ちょっとどうだろうという感じだが。
しかし故意でないなら、普段見せることのない感情が出て来てしまったということだ。
「疲れてるんじゃない? アフターやめる?」
「そしたら、三人で行くの?」
「まさか。俺も帰るよ。邪魔者じゃん、完全に」
紗雪は気にしないだろうが、俺は気になる。
「じゃあ、帰る。一緒に帰ろ。終わるまで待ってて」
「わかった」
店を出て紗雪と共にそれぞれの担当を待つ。
夜の街は相変わらずごちゃごちゃとしていた。
初めて会ったとき零夜くんが言っていたように、いつの間にかこの雰囲気も悪くないなと思うようになっていた。猥雑さが心地好い。この場所は弱さとか醜さとか、そういうものを受け入れてくれる気がする。覆い隠してくれるような気が、する。
だからこそ不思議だった。紗雪が突然ホストクラブに通い始めたこと、なんだかんだ一年以上それが続いていること。
彼女にはネオンではなく日の光に照らされた場所こそがふさわしい。
「紗雪はさ、なんでホストクラブに通ってるの?」
俺の質問に虚を突かれたように紗雪が振り返った。
「え? ああ、友達に面白いよって教えてもらって。雄飛は優しいし」
「雄飛さんのこと好きなんだね。あの、そういう意味じゃなくて、ホストとして」
不自然な間が空いて、紗雪が顔を逸らす。
「雄飛っていうか......ホストクラブが好きかな。お金を介した関係っていうものが、私には楽なの」
「へぇ」
確かに紗雪みたいなタイプは割り切った関係の方が楽なのかもしれない。
「アユム」
零夜くんと雄飛さんが来た。
そう思って顔を上げると、思ったより近くに零夜くんがいた。驚いて何か言おうとした瞬間、額に柔らかいものを押し付けられる。
「おまたせ」
キスされた、と気が付いたのは数秒経ってからだった。
額にキスってそんな、少女漫画じゃないんだから。
二人きりならなんでもないことだが外でされると、それも紗雪の前でされるとなんとも気まずい。
顔を上げると紗雪は興味なさげに、雄飛さんは驚いたように俺たちを見ていた。恥ずかしい。零夜くんは何を考えているのかよくわからない顔で笑っていた。
「アユムって、さゆちゃんとホント仲良いよね」
「うん。お姉ちゃんみたいなものだから」
母親同士が仲の良い姉妹で、お互いに一人っ子。年齢も家も近かったので俺と紗雪は姉弟同然に育った。
小さいころは近所の悪ガキに絡まれているところをよく助けてもらったものだ。紗雪はあの頃からしっかりしていたし、俺は変わらず頼りない。
そんな話をすると、零夜くんは突然俺の髪を撫でた。
「零夜くん?」
「当たり前だけど俺、ちっちゃいころのアユムのこと何も知らないからさ。なんか悔しい」
久しぶりに声のトーンがホストモードというか、接客モードだ。親しくなってからはくだけたモードで話してくれたのだが。紗雪がいるからだろうか。
「あ、じゃあ歩夢の子どもの頃の話しようか?」
雄飛さんと話していたはずの紗雪が振り返る。
「え、ちょっとやめてよ」
「えー、聞きたい」
結局、俺と紗雪が思い出話をして零夜くんと雄飛さんが聞くという謎の空間が出来上がった。
零夜くんは基本いつでも誰に対しても距離が近い。特に家や店では恋人同士のようなスキンシップをよくする。が、今日はいつも以上に近い。ずっと右手を捕まれたままだったから俺は左手でお酒を飲まなくてはいけなかったし、紗雪に話し掛けるために身を乗り出す度、間にいる俺の肩に顎を載せた。
「このあと四人でアフター行く?」
雄飛さんが言って紗雪が賛成した。
「俺もいいよ。零夜くんは?」
「......アユムが行くなら行く」
なぜか機嫌が悪い。仕事中に自分の不機嫌さを意味もなく見せるようなタイプではないので、俺が何かしたということだろうか。
当然察する力は持ち合わせていないので、素直に尋ねることにする。
「零夜くん、俺何かしたかな?」
「え?」
「なんか怒ってるから......」
一瞬間が開いて、「怒ってる?」とおうむ返しされた。
「怒ってる、っていうか不機嫌......?」
「嘘。全然気づかなかった」
零夜くんは自分の顔を触ってから気まずそうに肩をすくめた。本気で驚いている......ように見える。俺にそんなことわかるのかと言われたら、ちょっとどうだろうという感じだが。
しかし故意でないなら、普段見せることのない感情が出て来てしまったということだ。
「疲れてるんじゃない? アフターやめる?」
「そしたら、三人で行くの?」
「まさか。俺も帰るよ。邪魔者じゃん、完全に」
紗雪は気にしないだろうが、俺は気になる。
「じゃあ、帰る。一緒に帰ろ。終わるまで待ってて」
「わかった」
店を出て紗雪と共にそれぞれの担当を待つ。
夜の街は相変わらずごちゃごちゃとしていた。
初めて会ったとき零夜くんが言っていたように、いつの間にかこの雰囲気も悪くないなと思うようになっていた。猥雑さが心地好い。この場所は弱さとか醜さとか、そういうものを受け入れてくれる気がする。覆い隠してくれるような気が、する。
だからこそ不思議だった。紗雪が突然ホストクラブに通い始めたこと、なんだかんだ一年以上それが続いていること。
彼女にはネオンではなく日の光に照らされた場所こそがふさわしい。
「紗雪はさ、なんでホストクラブに通ってるの?」
俺の質問に虚を突かれたように紗雪が振り返った。
「え? ああ、友達に面白いよって教えてもらって。雄飛は優しいし」
「雄飛さんのこと好きなんだね。あの、そういう意味じゃなくて、ホストとして」
不自然な間が空いて、紗雪が顔を逸らす。
「雄飛っていうか......ホストクラブが好きかな。お金を介した関係っていうものが、私には楽なの」
「へぇ」
確かに紗雪みたいなタイプは割り切った関係の方が楽なのかもしれない。
「アユム」
零夜くんと雄飛さんが来た。
そう思って顔を上げると、思ったより近くに零夜くんがいた。驚いて何か言おうとした瞬間、額に柔らかいものを押し付けられる。
「おまたせ」
キスされた、と気が付いたのは数秒経ってからだった。
額にキスってそんな、少女漫画じゃないんだから。
二人きりならなんでもないことだが外でされると、それも紗雪の前でされるとなんとも気まずい。
顔を上げると紗雪は興味なさげに、雄飛さんは驚いたように俺たちを見ていた。恥ずかしい。零夜くんは何を考えているのかよくわからない顔で笑っていた。
0
あなたにおすすめの小説
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
余命半年の俺を、手酷く振ったはずの元カレ二人が手を組んで逃がしてくれません
ユッキー
BL
半年以内に俺は一人寂しく死ぬ。そんな未来を視た。きっと誰も悲しむ人は居ないだろう。そう思っていたから何も怖くなかった。なのにそんな俺の元に過去手酷く振り、今では世界的スターとなった元カレ二人がやってきた。彼らは全てを知っていた。俺がどうして彼らを振ったのか、そして俺の余命も。
全てを諦めた主人公と、主人公を諦めきれないイケメンサッカー選手とシンガーソングライターの再会が導く未来は?
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
ナイショな家庭訪問
石月煤子
BL
■美形先生×平凡パパ■
「いい加減、おわかりになりませんか、進藤さん」
「俺、中卒なんで、キビとかカテとか、わかんないです」
「貴方が好きです」
■イケメンわんこ先生×ツンデレ美人パパ■
「前のお宅でもこんな粗相を?」
「まさか。そんなわけありませんって。知永さんだから……です」
◆我が子の担任×シングルファーザー/すけべmain◆
表紙イラストは[ジュエルセイバーFREE]様のフリーコンテンツを利用しています
http://www.jewel-s.jp/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる