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零夜くん、俺、紗雪、雄飛さんの順に座る。
「アユムって、さゆちゃんとホント仲良いよね」
「うん。お姉ちゃんみたいなものだから」
母親同士が仲の良い姉妹で、お互いに一人っ子。年齢も家も近かったので俺と紗雪は姉弟同然に育った。
小さいころは近所の悪ガキに絡まれているところをよく助けてもらったものだ。紗雪はあの頃からしっかりしていたし、俺は変わらず頼りない。
そんな話をすると、零夜くんは突然俺の髪を撫でた。
「零夜くん?」
「当たり前だけど俺、ちっちゃいころのアユムのこと何も知らないからさ。なんか悔しい」
久しぶりに声のトーンがホストモードというか、接客モードだ。親しくなってからはくだけたモードで話してくれたのだが。紗雪がいるからだろうか。
「あ、じゃあ歩夢の子どもの頃の話しようか?」
雄飛さんと話していたはずの紗雪が振り返る。
「え、ちょっとやめてよ」
「えー、聞きたい」
結局、俺と紗雪が思い出話をして零夜くんと雄飛さんが聞くという謎の空間が出来上がった。
零夜くんは基本いつでも誰に対しても距離が近い。特に家や店では恋人同士のようなスキンシップをよくする。が、今日はいつも以上に近い。ずっと右手を捕まれたままだったから俺は左手でお酒を飲まなくてはいけなかったし、紗雪に話し掛けるために身を乗り出す度、間にいる俺の肩に顎を載せた。
「このあと四人でアフター行く?」
雄飛さんが言って紗雪が賛成した。
「俺もいいよ。零夜くんは?」
「......アユムが行くなら行く」
なぜか機嫌が悪い。仕事中に自分の不機嫌さを意味もなく見せるようなタイプではないので、俺が何かしたということだろうか。
当然察する力は持ち合わせていないので、素直に尋ねることにする。
「零夜くん、俺何かしたかな?」
「え?」
「なんか怒ってるから......」
一瞬間が開いて、「怒ってる?」とおうむ返しされた。
「怒ってる、っていうか不機嫌......?」
「嘘。全然気づかなかった」
零夜くんは自分の顔を触ってから気まずそうに肩をすくめた。本気で驚いている......ように見える。俺にそんなことわかるのかと言われたら、ちょっとどうだろうという感じだが。
しかし故意でないなら、普段見せることのない感情が出て来てしまったということだ。
「疲れてるんじゃない? アフターやめる?」
「そしたら、三人で行くの?」
「まさか。俺も帰るよ。邪魔者じゃん、完全に」
紗雪は気にしないだろうが、俺は気になる。
「じゃあ、帰る。一緒に帰ろ。終わるまで待ってて」
「わかった」
店を出て紗雪と共にそれぞれの担当を待つ。
夜の街は相変わらずごちゃごちゃとしていた。
初めて会ったとき零夜くんが言っていたように、いつの間にかこの雰囲気も悪くないなと思うようになっていた。猥雑さが心地好い。この場所は弱さとか醜さとか、そういうものを受け入れてくれる気がする。覆い隠してくれるような気が、する。
だからこそ不思議だった。紗雪が突然ホストクラブに通い始めたこと、なんだかんだ一年以上それが続いていること。
彼女にはネオンではなく日の光に照らされた場所こそがふさわしい。
「紗雪はさ、なんでホストクラブに通ってるの?」
俺の質問に虚を突かれたように紗雪が振り返った。
「え? ああ、友達に面白いよって教えてもらって。雄飛は優しいし」
「雄飛さんのこと好きなんだね。あの、そういう意味じゃなくて、ホストとして」
不自然な間が空いて、紗雪が顔を逸らす。
「雄飛っていうか......ホストクラブが好きかな。お金を介した関係っていうものが、私には楽なの」
「へぇ」
確かに紗雪みたいなタイプは割り切った関係の方が楽なのかもしれない。
「アユム」
零夜くんと雄飛さんが来た。
そう思って顔を上げると、思ったより近くに零夜くんがいた。驚いて何か言おうとした瞬間、額に柔らかいものを押し付けられる。
「おまたせ」
キスされた、と気が付いたのは数秒経ってからだった。
額にキスってそんな、少女漫画じゃないんだから。
二人きりならなんでもないことだが外でされると、それも紗雪の前でされるとなんとも気まずい。
顔を上げると紗雪は興味なさげに、雄飛さんは驚いたように俺たちを見ていた。恥ずかしい。零夜くんは何を考えているのかよくわからない顔で笑っていた。
「アユムって、さゆちゃんとホント仲良いよね」
「うん。お姉ちゃんみたいなものだから」
母親同士が仲の良い姉妹で、お互いに一人っ子。年齢も家も近かったので俺と紗雪は姉弟同然に育った。
小さいころは近所の悪ガキに絡まれているところをよく助けてもらったものだ。紗雪はあの頃からしっかりしていたし、俺は変わらず頼りない。
そんな話をすると、零夜くんは突然俺の髪を撫でた。
「零夜くん?」
「当たり前だけど俺、ちっちゃいころのアユムのこと何も知らないからさ。なんか悔しい」
久しぶりに声のトーンがホストモードというか、接客モードだ。親しくなってからはくだけたモードで話してくれたのだが。紗雪がいるからだろうか。
「あ、じゃあ歩夢の子どもの頃の話しようか?」
雄飛さんと話していたはずの紗雪が振り返る。
「え、ちょっとやめてよ」
「えー、聞きたい」
結局、俺と紗雪が思い出話をして零夜くんと雄飛さんが聞くという謎の空間が出来上がった。
零夜くんは基本いつでも誰に対しても距離が近い。特に家や店では恋人同士のようなスキンシップをよくする。が、今日はいつも以上に近い。ずっと右手を捕まれたままだったから俺は左手でお酒を飲まなくてはいけなかったし、紗雪に話し掛けるために身を乗り出す度、間にいる俺の肩に顎を載せた。
「このあと四人でアフター行く?」
雄飛さんが言って紗雪が賛成した。
「俺もいいよ。零夜くんは?」
「......アユムが行くなら行く」
なぜか機嫌が悪い。仕事中に自分の不機嫌さを意味もなく見せるようなタイプではないので、俺が何かしたということだろうか。
当然察する力は持ち合わせていないので、素直に尋ねることにする。
「零夜くん、俺何かしたかな?」
「え?」
「なんか怒ってるから......」
一瞬間が開いて、「怒ってる?」とおうむ返しされた。
「怒ってる、っていうか不機嫌......?」
「嘘。全然気づかなかった」
零夜くんは自分の顔を触ってから気まずそうに肩をすくめた。本気で驚いている......ように見える。俺にそんなことわかるのかと言われたら、ちょっとどうだろうという感じだが。
しかし故意でないなら、普段見せることのない感情が出て来てしまったということだ。
「疲れてるんじゃない? アフターやめる?」
「そしたら、三人で行くの?」
「まさか。俺も帰るよ。邪魔者じゃん、完全に」
紗雪は気にしないだろうが、俺は気になる。
「じゃあ、帰る。一緒に帰ろ。終わるまで待ってて」
「わかった」
店を出て紗雪と共にそれぞれの担当を待つ。
夜の街は相変わらずごちゃごちゃとしていた。
初めて会ったとき零夜くんが言っていたように、いつの間にかこの雰囲気も悪くないなと思うようになっていた。猥雑さが心地好い。この場所は弱さとか醜さとか、そういうものを受け入れてくれる気がする。覆い隠してくれるような気が、する。
だからこそ不思議だった。紗雪が突然ホストクラブに通い始めたこと、なんだかんだ一年以上それが続いていること。
彼女にはネオンではなく日の光に照らされた場所こそがふさわしい。
「紗雪はさ、なんでホストクラブに通ってるの?」
俺の質問に虚を突かれたように紗雪が振り返った。
「え? ああ、友達に面白いよって教えてもらって。雄飛は優しいし」
「雄飛さんのこと好きなんだね。あの、そういう意味じゃなくて、ホストとして」
不自然な間が空いて、紗雪が顔を逸らす。
「雄飛っていうか......ホストクラブが好きかな。お金を介した関係っていうものが、私には楽なの」
「へぇ」
確かに紗雪みたいなタイプは割り切った関係の方が楽なのかもしれない。
「アユム」
零夜くんと雄飛さんが来た。
そう思って顔を上げると、思ったより近くに零夜くんがいた。驚いて何か言おうとした瞬間、額に柔らかいものを押し付けられる。
「おまたせ」
キスされた、と気が付いたのは数秒経ってからだった。
額にキスってそんな、少女漫画じゃないんだから。
二人きりならなんでもないことだが外でされると、それも紗雪の前でされるとなんとも気まずい。
顔を上げると紗雪は興味なさげに、雄飛さんは驚いたように俺たちを見ていた。恥ずかしい。零夜くんは何を考えているのかよくわからない顔で笑っていた。
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