ネオン街で会いましょう

星川過世

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 いつも通りの日だった。違う点といえば零夜くんが珍しく土曜日に休んだことくらい。
 いや、くらい、ではなかったのだろうか。零夜くんは金土は稼ぎ時だと言って体調を崩さない限り出勤するから。
 「アユム」
 「な、なに」
 いつになく真剣な表情にたじろぐ。隣に腰かけると、真剣な表情のまま零夜くんは口を開いた。
 「俺、ホスト辞めようかと思ってるんだよね」
 「え、え? そ、なんだ」
 一瞬、心臓がねじり上げられたように痛んだ。
 しかし無視して話を続ける。手が震えている気がしてクッションを抱いた。
 「理由とか、聞いてもいいかな」
 「最近ちょっと、やらかすことが多くて......。やっぱ、向いてないかもなぁって」
 歯切れが悪い。それにそんな理由、と言ったら悪いがそんな理由で零夜くんがホストを辞めるとは思えない。誰よりあの場所を愛しているように見えた。
 向いていないとも俺は思わない。仕事熱心だったと知っている。
 しかし理由を問い詰めることも、ましてや引き留めることもできない。俺は、零夜くんにとってただの客でしかない。
 気まずい沈黙が流れた。俺が納得していないと零夜くんもわかっているようだった。
 零夜くんはしばらく困ったような、戸惑ったような様子を見せた後、口を開く。
 「好きな人のため」
 心臓が今度は叩きつけられたような感覚がした。
 「いや、嘘。ちょっと気取った。でも、好きな人がいるのにホストとして働くの、俺にはできないかもしれないって思った。どっちにも誠実で居たいから、俺はホスト辞める」
 知りたいと思っていたはずなのに、聞きたくなかった。というかそんなこと、正直に言うなよ。ホストのくせに。最後まで夢を見させろよ。
 正当なんだか理不尽なんだが自分でもわからない悪態を心の中でつく。
 「俺も好きだよ、零夜くんのこと」
 当てつけのようにわざとそう言った。八つ当たりだった。零夜くんの目が見開かれて、腹が立つ。好きに決まってるだろ。
 「本気で、好きだ」
 言いながら泣きそうになって、そんな顔を見せたくはなくて、俯いて部屋を出た。
 後ろから「ちょっと、アユム!?」という声が聞こえたが、無視。零夜くんも追ってくることはなかった。
 心臓が痛くて痛くてたまらない。いつのまにか零夜くんのことをそれだけ好きになっていたらしかった。
 好奇心でホストクラブなんて行くんじゃなかったな。
 出てきたけどあそこ、俺の家じゃん。というか財布もスマホも無いし。どうしよう。
 東京の夜は明るい。それでも繁華街のネオンと喧騒に慣れた俺には、ひどく寂しくて心許ない場所に感じられた。
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