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俺は、零夜くんと出会うまでどうやって生活していたのだろうか。
零夜くんが部屋に来なくなってしばらく経った。コンビニ弁当をつつきながら面白くもない動画を見る。部屋の中が無音なのが耐え難かった。
好きだったはずの唐揚げ弁当は味気ない。
毎日一緒に居たわけでもないのに、もう会うことがないという事実が信じられない。体の中に詰まっていたものがごっそり出て行ったような、不思議な感じがした。出会って二年も経っていないのに、昔馴染みを失くしたような錯覚にとらわれる。
ふと零夜くんの料理が恋しくなって、慌てて押し込めた。気が付いてしまったら、立ち直れなくなりそうだから。
ピコン。
動画を妨害するように、メッセージアプリの通知が鳴る。別に妨害されて困るような動画でもないので通知を開こうとして固まった。
「......え」
零夜くんだ。
手が震える。大きく深呼吸をしてから画面をタップした。
『今度いつ空いてる? 話があるんだ。ご飯行こう』
予想外の内容に再び固まった。話ってなんだろう。ホストを辞めた今、零夜くんが俺に用事などあるのだろうか。
それでも、会える。零夜くんにもう一度、会える。それだけで胸が高鳴った。それと同時に、もっと別れるのが辛くなりそうだという懸念もあった。
とはいえここで断ったら後悔することは目に見えていたから、すぐさま空いている日をいくつか送る。
返事はすぐに来た。
『ここのレストランに行きたい。ちょっと高級な店だけどドレスコードとかはないよ。もちろん俺の奢りです』
最後に会ってくれるということは、もしかして俺は少しは特別な存在になれていたのだろうか。だとしたら嬉しいななどと、少し自惚れたことを考える。
現金なことにさきほどまでより少し唐揚げがおいしかった。
「久しぶり~」
相変わらず軽い調子で手を上げた零夜くん(もう零夜くんではないけれど、俺は彼の本名を知らない)は黒髪になっていた。文句のつけようのないほど似合っていて、それはつまり馴染んでいるということで、最初から昼職をしていたかのように見える。
全部最初からなかったかのように、見える。
「久し、ぶり」
久しぶりと言いつつ、今日が終わればもう会うこともないのだろうと思うと胸が痛んだ。
「まだレストランの予約まで時間あるし、その辺見て歩こうよ」
いつもと変わらない調子で屈託なく零夜くんが言う。今更名前を聞いても無意味だろうと何も言わないでただ頷く。
「いやーしかし、夜の街から昼の仕事って大変だよ。カルチャーショックっていうか......。出てみるといかにあそこが異質な世界だったか改めて痛感させられるね」
「そっか。でも零夜くんなら大丈夫じゃないかな」
我ながら無責任な言葉だとは思ったが、本心だった。真面目で器用で人当たりもいいとくれば、どこに行ってもそれなりに上手くやれるだろう。
「うん。俺だからね! それに、好きな人と生きるためだって思ったら俄然やる気が出るよ!」
言うなよ、そんなこと。
そう思いつつも幸せそうな零夜くんの顔を見られたのが嬉しかった。今まで見たことがないくらい、幸せそうな顔。そんな顔をさせるのはいったい誰なのだろう。どちらにせよ勝ち目がなかったことをその顔で悟った。いや、客の時点で最初から土俵にも立っていなかったか。
でもきっと、違う形で出会っていても俺には勝ち目がなかった。
夕焼けの街に黒染めした零夜くんの髪が映えている。最近は髪色自由の職場も多いが、このまま黒髪にするのだろうか。それともまた染めるのだろうか。
どちらにせよ、俺が見ることは叶わない。だからどうするつもりなのかも聞かなかった。もう関係のないことだ。
「あ、そうだ。本屋寄っていい? 今日好きな漫画の新刊出るの」
「いいよ」
最後にわざわざお高めのレストランで会ってくれるくらいには俺を好ましく思ってくれていたようなのに、寂しそうな様子はなかった。そういうものだろうか。それとも、単に表に出さないだけなのか。
零夜くんが部屋に来なくなってしばらく経った。コンビニ弁当をつつきながら面白くもない動画を見る。部屋の中が無音なのが耐え難かった。
好きだったはずの唐揚げ弁当は味気ない。
毎日一緒に居たわけでもないのに、もう会うことがないという事実が信じられない。体の中に詰まっていたものがごっそり出て行ったような、不思議な感じがした。出会って二年も経っていないのに、昔馴染みを失くしたような錯覚にとらわれる。
ふと零夜くんの料理が恋しくなって、慌てて押し込めた。気が付いてしまったら、立ち直れなくなりそうだから。
ピコン。
動画を妨害するように、メッセージアプリの通知が鳴る。別に妨害されて困るような動画でもないので通知を開こうとして固まった。
「......え」
零夜くんだ。
手が震える。大きく深呼吸をしてから画面をタップした。
『今度いつ空いてる? 話があるんだ。ご飯行こう』
予想外の内容に再び固まった。話ってなんだろう。ホストを辞めた今、零夜くんが俺に用事などあるのだろうか。
それでも、会える。零夜くんにもう一度、会える。それだけで胸が高鳴った。それと同時に、もっと別れるのが辛くなりそうだという懸念もあった。
とはいえここで断ったら後悔することは目に見えていたから、すぐさま空いている日をいくつか送る。
返事はすぐに来た。
『ここのレストランに行きたい。ちょっと高級な店だけどドレスコードとかはないよ。もちろん俺の奢りです』
最後に会ってくれるということは、もしかして俺は少しは特別な存在になれていたのだろうか。だとしたら嬉しいななどと、少し自惚れたことを考える。
現金なことにさきほどまでより少し唐揚げがおいしかった。
「久しぶり~」
相変わらず軽い調子で手を上げた零夜くん(もう零夜くんではないけれど、俺は彼の本名を知らない)は黒髪になっていた。文句のつけようのないほど似合っていて、それはつまり馴染んでいるということで、最初から昼職をしていたかのように見える。
全部最初からなかったかのように、見える。
「久し、ぶり」
久しぶりと言いつつ、今日が終わればもう会うこともないのだろうと思うと胸が痛んだ。
「まだレストランの予約まで時間あるし、その辺見て歩こうよ」
いつもと変わらない調子で屈託なく零夜くんが言う。今更名前を聞いても無意味だろうと何も言わないでただ頷く。
「いやーしかし、夜の街から昼の仕事って大変だよ。カルチャーショックっていうか......。出てみるといかにあそこが異質な世界だったか改めて痛感させられるね」
「そっか。でも零夜くんなら大丈夫じゃないかな」
我ながら無責任な言葉だとは思ったが、本心だった。真面目で器用で人当たりもいいとくれば、どこに行ってもそれなりに上手くやれるだろう。
「うん。俺だからね! それに、好きな人と生きるためだって思ったら俄然やる気が出るよ!」
言うなよ、そんなこと。
そう思いつつも幸せそうな零夜くんの顔を見られたのが嬉しかった。今まで見たことがないくらい、幸せそうな顔。そんな顔をさせるのはいったい誰なのだろう。どちらにせよ勝ち目がなかったことをその顔で悟った。いや、客の時点で最初から土俵にも立っていなかったか。
でもきっと、違う形で出会っていても俺には勝ち目がなかった。
夕焼けの街に黒染めした零夜くんの髪が映えている。最近は髪色自由の職場も多いが、このまま黒髪にするのだろうか。それともまた染めるのだろうか。
どちらにせよ、俺が見ることは叶わない。だからどうするつもりなのかも聞かなかった。もう関係のないことだ。
「あ、そうだ。本屋寄っていい? 今日好きな漫画の新刊出るの」
「いいよ」
最後にわざわざお高めのレストランで会ってくれるくらいには俺を好ましく思ってくれていたようなのに、寂しそうな様子はなかった。そういうものだろうか。それとも、単に表に出さないだけなのか。
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