ネオン街で会いましょう

星川過世

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 高級な料理というのは食べなれない人間が食べても漠然と「おいしい」としかわからない。おいしいかと聞かれれば間違いなくイエスだ。しかしどのくらい、とかどこが、とか聞かれても困る。
 せっかくなら最後は零夜くんのご飯が食べたかったな、などとセンチメンタルなことを考えながら零夜くんのことばかり見てしまう。少しでも目に焼き付けておきたい。
 零夜くんは案外こういう店に不慣れなのか、落ち着かない様子で料理と睨めっこしていた。
 
 残すは食後酒のみとなったところで唐突に零夜くんが口を開いた。
 「夜景......ってほどではないけど、外が綺麗だね!」
 「う、うん?」
 二階なので都会の街が生々しく見えるだけだ。俺の微妙な顔に気が付いたらしい零夜くんが「脳内で補完して」と早口で言う。
 「白ワインでございます」
 「あ、どうも」
 店員さん(こういう店でもそういう呼び方で合っているのか?)の手でグラスに注がれていくワインを眺める。零夜くんが不慣れなら不慣れなほど俺が零夜くんにとって特別な証拠になるような気がして嬉しい。当たり前に一緒に居られたときはそんなこと思わなかったのに。
 店員が去った後、零夜くんがゴホンと大袈裟な咳ばらいをした。
 「アユム」
 「......どうしたの」
 ただならぬ雰囲気にグラスを置く。
 
 「俺と、結婚してください!」

 指輪を差し出される。
 「......は?」
 「『は?』ってなんだよ!? 人が勇気を出してプロポーズしたのに!」
 いや、それはそうだ。「結婚してください」に対して「は?」はない。ありえない。
 ありえない、けど。
 「ドッキリ?」
 「そんな悪趣味なドッキリするわけないだろ! 昼の仕事も無事見つかって、生活も安定したし......」
 「いや、でも、その......。俺たち付き合ってないよね?」
 「え?」
 「え?」
 悲しいかな、俺たちは付き合っていない。いや、交際ゼロ日婚もいいか。零夜くんとなら。
 しかし三秒くらいの間があって、零夜くんの顔が青ざめていく。
 「付き合って......なかったの......?」
 「え、あの」
 「だ、だってこの前『俺も零夜くんのこと好き』って......え、そういう意味じゃなかったの?」
 この前? 記憶を辿るが、零夜くんがホストをやめると言ったときしか思い出せなかった。
 「俺は零夜くん零夜くんのこと好きだけど、零夜くんは......」
 「俺の気持ちを知ってたから『も』って言ったんじゃないの!?」
 「違う」
 あの時言っていたの、俺のことだったのか。完全に存在しない恋敵に対抗心を燃やしていたらしい。
 「でもここしばらく、連絡もくれなかったのはなんで?」
 「店辞めるのとか今日の準備とかで忙しかったの。不安にさせたなら......ごめん」
 不安にさせた、なんてものではない。しかし捨て犬のような顔で見上げられたら何も言えなくなった。
 何も言わない俺を見て許されたと認識されたらしい。ぱっと笑顔になる。
 「ともかく、俺のこと好きなら問題ないよね? 結婚してください!」
 さっきまでの反省している感じはどこに行ったのか
 それに別にそこはイコールではないと思う。しかし今回に限っては問題ない。
 「えっと......よろしくお願いします」
 「手貸して」
 左手を差し出すと、指輪をつけてくれる。
 「サイズわかったんだ」
 「寝てる間に測った!」
 「スマートだな......」
 色々とバタバタとしたが、じわじわと幸福感が沸き上がってきた。今後も一緒に居られるどころか、両想いになれたのだ。まだ実感しきれない、ふわふわした感じがする。
 「零夜くん」
 「なに?」
 「幸せ。ありがとう」
 普段だったらわざわざ言わないのだが、プロポーズをしてくれたお礼と、返事まで時間を空けてしまったお詫びの代わりに言った。あるいは単にテンションが上がっていただけかもしれないが。
 「俺も」
 零夜くんが微笑む。俺がさせたかった、幸せそうな顔。
 「それで、ここに婚姻届けがあるので書いてください。帰りに出しましょう」
 「スマートだな......!?」
 「逃がさないよ、アユム......」
 「こわ......。てか、逃げないし」
 逃げるわけがない。
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