ネオン街で会いましょう

星川過世

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side零夜 初夜1

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 「あ、アユムくん!」
 滑り込むようにアユムくんの隣に座ると、アユムくんははにかんだように笑った。
 まだ夜の街の独特の雰囲気に気圧されている感じはある。それでも定期的に店に来てくれていた。
 不慣れというのもあると思うが礼儀正しくきちんとしているし、ホストとして有難い。
 そして男の客という物珍しさへの個人的好奇心からもアユムくんが来てくれるのは嬉しかった。他の店は知らないが、うちの店には男性客が少ない。俺の客では初めてである。勝手が違って難しいこともあるが、却ってやる気が出るというものだ。
 それに、職業柄女性と話している時間の方が圧倒的に多い。客に向かって失礼かもしれないが男友達のように話せるのは気楽でもあり、また楽しくもあった。
 だからかいらないことまで喋りすぎてしまうこともあるのだけれど。仕事だと肝に銘じなければならない。
 ああ、ほらまた、子どもの頃好きだったゲームの話で盛り上がりすぎてしまった。いや、それ自体はいいのだけれど。問題はそれをちゃんとアユムくんも楽しんでくれているかということだ。俺が楽しくても仕方ないのだから。
 「ごめん。楽しくて喋りすぎちゃった」
 「大丈夫。俺も、楽しい」
 いい子だ! そしてどことなく、昔の俺に似ている気がする。だから余計話しやすいのだろうか。趣味も合うし、客じゃなくて友達ならいいのにとふと思ってしまう。良くない。
 「今日、最後まで居てくれるんだっけ」
 「うん」
 「じゃ、アフター行こう」
 「うん!」
 あからさまに表情を変えるわけではないが、嬉しそうなのが滲み出ていてこちらとしても嬉しい。今日はどこに行こうかな。ご飯? カラオケ? いつもご飯だと飽きられるよね。でもカラオケとか好きそうには見えないしなぁ。
 「どっか行きたいところある?」
 「え、えーと......」
 アユムくんは困ったように視線をウロウロさせた。特に行きたい場所はないようだ。
 「その辺ぶらぶらするのもありかな? まだアユムくんこのあたりに慣れてないでしょ?」
 「あ、うん。そうする」

 店が終わり、後片付けも終わり、いざ待ってくれているアユムくんの元へ向かう。寒いから適当に店に入っていていいと言ったのに、アユムくんは外で待っていた。
 「おまたせ」
 「あ、うん」
 軽食を取ってから、適当にその辺を歩く。
 「この辺は深夜営業してる店が多いけど、やっぱり閉まってる所も多いね。今度店が始まる前に来ようか」
 「う、うん!」
 もっと色々な所へアユムくんと一緒に行ってみたい。俺は夜の街が大好きだけれど、それはそれとして昼の街にいるアユムくんも見てみたい。
 目的もなく雑談をしながらただ歩いた。他の客とはまずこういうことはしない。客が望まないからではなく、俺が大変だから。この仕事は好きだけど、好きだから大変じゃないわけじゃない。 
 ただ歩く時間というのは一番気を使う時間であり、労力と時間に見合った成果がない。あまり進んでやりたいことではなかった。
 でも、アユムくんと歩くのは楽しい。大学生時代友達と過ごした時間を思い出す。
 だから、何の他意もなく歩いていた。
 「......あ」
 何度も使ったことがあるから、知らなかったでは済まされない。しかし完全に失念していたのだ。
 うっかりラブホ街に来てしまった。アユムくんも気が付いたのか居心地悪そうにあたりを見回している。
 「ごめん......」
 戻ろうか、と言いかけて止まった。女性客相手ならば、いわゆる枕営業はよく行われている。
 俺はあまり得意ではないのでは最小限しかやらないが。ネットやそういう雑誌で熱心に勉強しているのに、あまり客に満足してもらえない。
 いや、そんなことはどうでもいい。女性客に普通に行われている枕営業だが、男性客にもしていいのだろうか。
 「零夜くん、どうしたの?」
 「あの、さ」
 ホストクラブに来る男性客は、というかアユムくんは、どういう感覚なのだろうか。多くの女性客のように疑似恋愛を求めているのであれば、枕営業しても、というかしようとしても構わないだろう。
 しかし、男友達やいわゆる“推し”感覚だとしたら? 誘った時点で気持ち悪がられたりしないだろうか。
 いや、そもそもなんで俺はアユムくんをホテルに誘おうとしているんだ? もし仮に女性客だとしてもまだそのタイミングではないと俺の経験則が言っている。
 しかも俺は一部の客曰く「マニュアル通りでつまんない」「なんか物足りない」らしいぞ。逆効果になるのではないか?
 俺の頭の中は思考がごちゃごちゃと混ざりあい完全にカオスと化していた。
 「れ、零夜くん......?」
 俺の顔を覗き込んだアユムくんの顔に期待が滲んでいるように見えたのは、さすがに俺に都合のいいように解釈しすぎだろうか。
 いや、都合がいいってなんだ。どうしてアユムくんが期待していたら俺に都合がいいんだ。
 特に溜まっているわけではない。最低限にしているとはいえ、枕営業はしているし一人でもしている。
 腕が俺の意向を無視してアユムくんの肩を抱いていた。
 「ね、入ってみない? ホテル......」
 「えっ!?」
 驚いているが、嫌悪感はなさそうだ。とりあえずよかった。
 「......う、うん。入ってみる」
 俯いているが、顔が真っ赤なのがわかる。血行が良くなったような気がした。もちろんアユムくんのではなく、俺の。
 ポンプとしての役割を順調に果たしている心臓の音を隠しながら更に強く引き寄せる。男同士でも入れるホテルを探して飛び込むように入った。
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