異世界では巨大な鳥の首に跨りレースをするようです

泣村健汰

文字の大きさ
41 / 70
第五章 特訓開始

第五章 第十幕

しおりを挟む
「はぁ? なぁんですって、それこそどう言う意味よ!」
「駄目ヨ、ルーちゃん!」

 大声を出すルティカに、華瑠の声が強めに被さる。

「シショーに言われたでショ? 興奮しないノ! バラクアの言う事、ちゃんと聞いてあげるノ!」
「……分かってるわよ。それに、別に興奮なんてしてないわよ。冷静沈着ないつものルティカちゃんよ」

 バツが悪そうに一つ咳払いをしたルティカは、首元からバラクアの顔を覗き込んだ。

「それでバラクア、私の指示の意味が分からないって、どう言う事よ?」

 いつもと違い、すぐに怒りの矛を収めたルティカに対し、バラクアは表には出さないがかなり驚いた。

 ――こいつも、聞く耳を持てるようになったのか? それだけ、今度のレースに注力をしていると言う事か?

 一瞬の思考の後、バラクアは一つ深呼吸をした。そして先程までの訓練の様子を頭の中で反芻しながら、ゆっくりと声を紡ぐ。

「んー、そうだな。正確に言うと、お前の指示の意味が分からないと言うよりは、俺の頭と身体が追いついていないのかもしれない。ちょっと、ゆっくりと整理をさせて欲しい。なぁルティカ。お前は風が吹き始めた時、俺にどんな指示を出していた?」
「え? バラクア、ちゃんと聞いて無かったの?」
「違う、そうじゃない。ちゃんと聞いてはいたが、吹いてくる風に対し、お前が俺をどう言う風に動かしたくて、その指示を出したのかが、俺にはまるで伝わって来なかったんだ。だから、指示に対しての解説が欲しい」
「そう言う事ね~。ん~っとね……、だから、それは、あれよ! 風が来るってのが分かるじゃない? その風を、バラクアがひらりとかわすように……」

 そこまで言うと、ルティカは考え込むように止まってしまった。

「……えーっと、かわすような指示を、したはず。うん、そう。たしか、翼を動かしてって言ったのよね……」

 バラクアが呆れ半分に、ルティカの頭の中を代弁する。

「つまりは、よく覚えてないんだろ?」
「はぁ? そ、そんなこと無いわよ! だから、あれよ……。翼立てて! とか、言ってたわよね?」

 自信無さげに呟くルティカへ、憤る訳でもなく、バラクアは淡々と告げた。

「ルティカ、お前の弱点が何となく分かったぞ。普段のお前の行動から気づくべきだった。お前は確かに、風読力に関してはかなり優れているんだろう。人が気づくよりも早く、吹くであろう風の方向と強さが分かると言うのは本当なのだろう。だけどお前は、そこで終わりなんだ。感覚で捉えた風の動きを、感覚のまま俺に伝えようとしているんだ。だけどその指示は、あまりに感覚に頼りすぎている為、曖昧なものになってしまっている。出した指示が俺に明確に伝わって来ないのはそのせいだろう。要は、勢いだけで物を言ってしまっているんだ。お前自身、自分がどんな指示を出したのか覚えていないいのが、そのいい証拠だ。思い当たる節は、あるんじゃないか?」
「ち、ちょっと待ってよバラクア。確かに勢いで物を言ってる自覚はちょっとはあるわよ? でも、でもよ、指示がちゃんと伝わらないってのは、私だけのせいじゃないんじゃない? 勢いだろうと感覚だろうと、私はちゃんと指示を出してるんだもの。それって、バラクアの理解力も足りてないって事になるんじゃないの?」
「その通りだな。勿論それもあるだろう。俺が理解出来ればそれで終わる筈の問題なんだ」
 てっきり憎まれ口を言い返して来るだろうと想定していたルティカは、バラクアが自分の悔しさ交じりの八つ当たりを素直に受け入れた事に驚いた。
「何よ、随分素直じゃない? 変な物でも食べた?」
「俺は別に、お前と喧嘩がしたい訳じゃない。今は次のレースで勝つ為に、自分達の事を分析しているんだ。そこに余計な感情が入る程、無駄な事は無い。そうだろ?」

 バラクアの真っ当な言い分に対しルティカも、

 ――まぁ、確かにそうよね。そんなつまんない事気にしてる場合じゃなかったわ……。

 と、いつに無く冷静な心持ちを保つ事が出来た。冷静沈着ルティカちゃんは、今日だけは詭弁では無いかもしれない。

「分かったわ。今回の事に関しては、確かにあんたの言ってる事が正しいみたいね。だけど、だったとしたら、その答えは超簡単よ。詰まる所、今までの敗因は、私の指示とバラクアの動きが、上手く噛み合って無かった事が原因って事よね?」
「それだけでは無いだろうが、大きな要因ではあるだろうな。俺達がレースで勝てなかった理由は、本当にシンプルで、だからこそ難しいとも言えるものだって事だ」

 そうして、二人まるで計ったかのように、同時に声を出した。

「「チームワーク」」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...