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4 夏休み
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2日後。
この日、気温は昼過ぎから落ち着きを見せ、ここ最近の熱帯地獄に比べれば、比較的過ごしやすい日和となった。
私は結局、順哉さんの忠告を半分だけ聞いて、上はあの日に買ったタンクトップ、下はあの日のようにミニスカートで纏める事にした。
大人っぽく見えるかどうかは分からないが、今日は普段よりも少し潤い度の高いグロスを塗ってみたり、久しぶりにマスカラにも手を出して、目力アップにも力を注いだ。
ケバくなり過ぎないように、を心がける。勿論、普段の嗜みと思われる程度のナチュラルメイクも、普段が普段の私にしてみれば相当頑張っている部類に入る。
ライブ開始の15分前に、会場へ到着した。
前回よりも多少大き目のライブハウスには、前回とは比べ物にならない程沢山の人が詰め掛けていた。
次々と小屋の中に入って行く人々を見送っていると、入り口の近くで姉を見つけた。
「お姉ちゃん」
耳元で声を掛けると、姉は振り向き様こちらを舐めるように見た。
「おお、割と頑張ったじゃない」
――どういう意味でしょうか?
「順哉君から聞いたよ。あんた、今日の為にわざわざ服買いに行ったんだってね」
「だって、大人っぽい服なんて持って無いもん……」
私生活がだだ漏れている点には目を瞑り、姉の言葉に対して言い訳を放つ。
「いいんじゃない? 折角の夏休みだし、たまには散財するのも悪くないよ」
散財だと言い切られ、少しだけカチンと来たが、そのまま姉に手を引かれ、人ごみの列へと身を投じた為、何かを言い返す時間は無くなってしまった。
「今日、人多くない?」
「ああ、今日は対バンに、もうすぐメジャーデビューする人達がいるからさ。その人気が大きいんじゃないかな?」
「対バンって何?」
「今日、スティグマの他に出るバンドって事だよ」
姉の説明を聞きながら、人混みに混ざりグングン中へと進んでいく。
ライブハウスの中は、犇めきあう人達の熱気に満ちていた。
ステージは前回よりも随分と高く、やっぱりステージはこの位の高さは無いとね、と思わせるような作りだった。
横に隣接されてるだろうスピーカーも大きく、遠くから見ても私の身長程あるのでは無いかと思われる。倒れてきたら一たまりも無いだろうなとぼんやりと想像する。
ステージ前はもう詰まりに詰まっている為、姉と共に、後ろの壁に張り付くようにして立ち止まる。
前方でステージに向けて蠢く人達を見ながら、ゾンビの出てくるゲームの光景に似ているなと、失礼な事を想像した時、観客側の照明がゆっくりと暗くなっていった。
隣に立つ姉に尋ねる。
「お姉ちゃん、今日ってスティグマは何番目なの?」
「今日は2番目。1番目がさっき言ってた、メジャーデビューの決まったラインバックスってバンド」
姉の言葉が終わる間際、前方の人達から歓声が上がった。その声に反応してステージに目を戻すと、ステージ上で3人のメンバーが演奏準備をしていた。
少ししてから始まった彼らの演奏は、確かに爽やかな感じで上手いなとは思ったけど、前回玲央君の歌を聞いた時程の衝撃を受ける事は無かった。それでも、ステージに押し掛ける人達の歓声や、時折メンバーの名前を叫ぶ女の子達の様子を見ていると、自分の音楽センスがずれているのだろうかと錯覚する。
だけど、隣に立っている姉も、割りと余裕のある顔をして彼らを見つめていた為、マイノリティーではあっても、私だけ趣味がおかしいという事は無いだろう。まぁ、姉妹で一括りにされてしまえば、反論するだけの材料は無いのだけれども……。
爽やかな風と、笑顔と言う名のファンサービスをたっぷり振りまいてから、彼らはステージを後にした。
それと同時に、ステージ前から人がバラバラと居なくなる。
「お姉ちゃん、こんな事聞くのも、あれだけどもさ……」
姉の耳元に唇を寄せ、多少憚りつつ言葉を紡ぐ。
「スティグマって、人気無いの?」
私の言葉を聞いて、姉はふふんと得意気に笑った。
「あんた、いいとこ突いてるじゃない。まぁ、さっきのバンドに比べたら、確かに知名度はまだまだかもしれないけどね」
「そうなんだ……」
好きな芸能人の事を意気揚々と友達に話した時に、誰? と言う反応が返ってきた時のがっかり感に良く似ている。
「だけどね、別に人気があるかどうかで音楽聞く訳じゃないでしょ? いいものはいつか認められる。それまで、私達が応援し続ければいいのよ」
姉は得意気な笑みを崩さないまま、唇の端から確固たる決意を滲ませていた。その瞳の奥には、ギラギラとした鈍い炎が見え隠れしている。
直訳すると、お前ら、今に見てろよ、である。
この日、気温は昼過ぎから落ち着きを見せ、ここ最近の熱帯地獄に比べれば、比較的過ごしやすい日和となった。
私は結局、順哉さんの忠告を半分だけ聞いて、上はあの日に買ったタンクトップ、下はあの日のようにミニスカートで纏める事にした。
大人っぽく見えるかどうかは分からないが、今日は普段よりも少し潤い度の高いグロスを塗ってみたり、久しぶりにマスカラにも手を出して、目力アップにも力を注いだ。
ケバくなり過ぎないように、を心がける。勿論、普段の嗜みと思われる程度のナチュラルメイクも、普段が普段の私にしてみれば相当頑張っている部類に入る。
ライブ開始の15分前に、会場へ到着した。
前回よりも多少大き目のライブハウスには、前回とは比べ物にならない程沢山の人が詰め掛けていた。
次々と小屋の中に入って行く人々を見送っていると、入り口の近くで姉を見つけた。
「お姉ちゃん」
耳元で声を掛けると、姉は振り向き様こちらを舐めるように見た。
「おお、割と頑張ったじゃない」
――どういう意味でしょうか?
「順哉君から聞いたよ。あんた、今日の為にわざわざ服買いに行ったんだってね」
「だって、大人っぽい服なんて持って無いもん……」
私生活がだだ漏れている点には目を瞑り、姉の言葉に対して言い訳を放つ。
「いいんじゃない? 折角の夏休みだし、たまには散財するのも悪くないよ」
散財だと言い切られ、少しだけカチンと来たが、そのまま姉に手を引かれ、人ごみの列へと身を投じた為、何かを言い返す時間は無くなってしまった。
「今日、人多くない?」
「ああ、今日は対バンに、もうすぐメジャーデビューする人達がいるからさ。その人気が大きいんじゃないかな?」
「対バンって何?」
「今日、スティグマの他に出るバンドって事だよ」
姉の説明を聞きながら、人混みに混ざりグングン中へと進んでいく。
ライブハウスの中は、犇めきあう人達の熱気に満ちていた。
ステージは前回よりも随分と高く、やっぱりステージはこの位の高さは無いとね、と思わせるような作りだった。
横に隣接されてるだろうスピーカーも大きく、遠くから見ても私の身長程あるのでは無いかと思われる。倒れてきたら一たまりも無いだろうなとぼんやりと想像する。
ステージ前はもう詰まりに詰まっている為、姉と共に、後ろの壁に張り付くようにして立ち止まる。
前方でステージに向けて蠢く人達を見ながら、ゾンビの出てくるゲームの光景に似ているなと、失礼な事を想像した時、観客側の照明がゆっくりと暗くなっていった。
隣に立つ姉に尋ねる。
「お姉ちゃん、今日ってスティグマは何番目なの?」
「今日は2番目。1番目がさっき言ってた、メジャーデビューの決まったラインバックスってバンド」
姉の言葉が終わる間際、前方の人達から歓声が上がった。その声に反応してステージに目を戻すと、ステージ上で3人のメンバーが演奏準備をしていた。
少ししてから始まった彼らの演奏は、確かに爽やかな感じで上手いなとは思ったけど、前回玲央君の歌を聞いた時程の衝撃を受ける事は無かった。それでも、ステージに押し掛ける人達の歓声や、時折メンバーの名前を叫ぶ女の子達の様子を見ていると、自分の音楽センスがずれているのだろうかと錯覚する。
だけど、隣に立っている姉も、割りと余裕のある顔をして彼らを見つめていた為、マイノリティーではあっても、私だけ趣味がおかしいという事は無いだろう。まぁ、姉妹で一括りにされてしまえば、反論するだけの材料は無いのだけれども……。
爽やかな風と、笑顔と言う名のファンサービスをたっぷり振りまいてから、彼らはステージを後にした。
それと同時に、ステージ前から人がバラバラと居なくなる。
「お姉ちゃん、こんな事聞くのも、あれだけどもさ……」
姉の耳元に唇を寄せ、多少憚りつつ言葉を紡ぐ。
「スティグマって、人気無いの?」
私の言葉を聞いて、姉はふふんと得意気に笑った。
「あんた、いいとこ突いてるじゃない。まぁ、さっきのバンドに比べたら、確かに知名度はまだまだかもしれないけどね」
「そうなんだ……」
好きな芸能人の事を意気揚々と友達に話した時に、誰? と言う反応が返ってきた時のがっかり感に良く似ている。
「だけどね、別に人気があるかどうかで音楽聞く訳じゃないでしょ? いいものはいつか認められる。それまで、私達が応援し続ければいいのよ」
姉は得意気な笑みを崩さないまま、唇の端から確固たる決意を滲ませていた。その瞳の奥には、ギラギラとした鈍い炎が見え隠れしている。
直訳すると、お前ら、今に見てろよ、である。
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