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9 学園祭
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思わず声を出してしまった私を、笹村さんは顔を上げて見つめた。
だけど、そのまま頭に『?』マークを浮かべたまま、困ったような顔をしてしまった。
「あの、どちら様ですか?」
警戒色の混じった声音。
それはそうだろう。私は彼女の事を知ってはいても、彼女は私の事なんてまるで知らないのだろうから。
「同じ学校の人ですか?」
制服を見て判断したのだろう。少し惚けたように尋ねてくる彼女に、そう、そうです、と間抜けな受け答えをしてしまう。
「いきなりごめんなさい。6組の、友野和葉って言います。佐藤道子とは、仲良くさせて貰ってます」
しどろもどろになりつつ何とか言葉を紡ぐ。だが、自分で言っている癖に、妙になってしまった言い回しが非常に気持ち悪い。
――仲良くさせて貰ってますって何? 私が道子に、仲良くして下さいって頼んでるんじゃないんだから!
そんな私の心の悲鳴には気付かずに、笹村さんは道子の名前を聞くと、パッと顔を輝かせた。
「みっちゃんのお友達なのね、なぁんだ、ビックリしちゃった。クラス変わっちゃってから、みっちゃんとはお話してないんだけど、元気してますか?」
独特の雰囲気の喋りに翻弄されそうになるが、ええ、元気にしてますよ、と返す。
「みっちゃんのミルクレープ、本当に美味しかったわぁ。今年も学園祭でお菓子作ってくれるのかしら?」
「うちのクラス、喫茶店になったから、多分作りますよ」
「わぁあ、楽しみ~。絶対行く~」
クスッと微笑みながら、嬉しそうな声を出す笹村さんが、何だか眩しく見えて来た。
「あの、笹村さん、音楽に興味あるんですか?」
話を変える為、彼女が手にしている雑誌について聞いてみる。
「笹村さんだなんて、みっちゃんのお友達なら、私もお友達よ。理音って呼んで頂戴」
「ああ、うん、分かったわ、理音」
「ふふ、宜しくね、和葉ちゃん」
人懐っこい笑みを浮かべる彼女は、とても可愛らしく、私には逆立ちしたって出せないふわふわした空気を、平然と放出してくる。それと同時に頭の片隅で、昼食時の会話を思い出していた。
――あぁ、この子は絶対紗絵と合わない……。
「それで、その雑誌なんだけど?」
「雑誌?」
一瞬キョトンとした後、理音は、私の手元を眺めて微笑んだ。
「ごめんなさい、理音、宗教とかはよく分からないの」
言われて、自分が未だに般若心経を握っていた事に気付く。
「これは違うの! そもそも雑誌じゃないし。その、貴方が持ってるその雑誌。音楽に興味あるの?」
慌てて般若心経を棚に戻しながら、先程の質問を繰り返す。
「うん。理音ね、この間お気に入りのバンド見つけたのよ。まだインディーズのバンドなんだけど、どっかに載って無いかなって探してるの。でも、なかなか無くって。あのね、ボーカルの子が超カッコイイんだ。理音しびれちゃった」
頬を染めながら雑誌を抱きしめる理音は、守ってあげたくなるような、蹴り飛ばしたくなるような、不思議な可愛らしさを秘めていた。
その時、携帯の着信音が聞こえて来た。
その音に反応し、理音はポケットから携帯電話を取り出し、画面を確認した直後、いけない、と声を出した。
「ごめんなさい、理音もう行かなきゃ。和葉ちゃん、また今度お話しましょ」
理音は雑誌を棚に戻すと、そのまま鈴を鳴らすように書店を出て行った。
残された私は、彼女の残り香をぼんやりと嗅ぎながら、彼女が手に取っていた雑誌をちらと眺めた。
汗を飛び散らせながらドラムを叩いている、筋骨隆々のバンドマンが表紙を飾っているその雑誌は、とても彼女が先程まで熱心に読んでいたものとは思えなかった。
だけど、そのまま頭に『?』マークを浮かべたまま、困ったような顔をしてしまった。
「あの、どちら様ですか?」
警戒色の混じった声音。
それはそうだろう。私は彼女の事を知ってはいても、彼女は私の事なんてまるで知らないのだろうから。
「同じ学校の人ですか?」
制服を見て判断したのだろう。少し惚けたように尋ねてくる彼女に、そう、そうです、と間抜けな受け答えをしてしまう。
「いきなりごめんなさい。6組の、友野和葉って言います。佐藤道子とは、仲良くさせて貰ってます」
しどろもどろになりつつ何とか言葉を紡ぐ。だが、自分で言っている癖に、妙になってしまった言い回しが非常に気持ち悪い。
――仲良くさせて貰ってますって何? 私が道子に、仲良くして下さいって頼んでるんじゃないんだから!
そんな私の心の悲鳴には気付かずに、笹村さんは道子の名前を聞くと、パッと顔を輝かせた。
「みっちゃんのお友達なのね、なぁんだ、ビックリしちゃった。クラス変わっちゃってから、みっちゃんとはお話してないんだけど、元気してますか?」
独特の雰囲気の喋りに翻弄されそうになるが、ええ、元気にしてますよ、と返す。
「みっちゃんのミルクレープ、本当に美味しかったわぁ。今年も学園祭でお菓子作ってくれるのかしら?」
「うちのクラス、喫茶店になったから、多分作りますよ」
「わぁあ、楽しみ~。絶対行く~」
クスッと微笑みながら、嬉しそうな声を出す笹村さんが、何だか眩しく見えて来た。
「あの、笹村さん、音楽に興味あるんですか?」
話を変える為、彼女が手にしている雑誌について聞いてみる。
「笹村さんだなんて、みっちゃんのお友達なら、私もお友達よ。理音って呼んで頂戴」
「ああ、うん、分かったわ、理音」
「ふふ、宜しくね、和葉ちゃん」
人懐っこい笑みを浮かべる彼女は、とても可愛らしく、私には逆立ちしたって出せないふわふわした空気を、平然と放出してくる。それと同時に頭の片隅で、昼食時の会話を思い出していた。
――あぁ、この子は絶対紗絵と合わない……。
「それで、その雑誌なんだけど?」
「雑誌?」
一瞬キョトンとした後、理音は、私の手元を眺めて微笑んだ。
「ごめんなさい、理音、宗教とかはよく分からないの」
言われて、自分が未だに般若心経を握っていた事に気付く。
「これは違うの! そもそも雑誌じゃないし。その、貴方が持ってるその雑誌。音楽に興味あるの?」
慌てて般若心経を棚に戻しながら、先程の質問を繰り返す。
「うん。理音ね、この間お気に入りのバンド見つけたのよ。まだインディーズのバンドなんだけど、どっかに載って無いかなって探してるの。でも、なかなか無くって。あのね、ボーカルの子が超カッコイイんだ。理音しびれちゃった」
頬を染めながら雑誌を抱きしめる理音は、守ってあげたくなるような、蹴り飛ばしたくなるような、不思議な可愛らしさを秘めていた。
その時、携帯の着信音が聞こえて来た。
その音に反応し、理音はポケットから携帯電話を取り出し、画面を確認した直後、いけない、と声を出した。
「ごめんなさい、理音もう行かなきゃ。和葉ちゃん、また今度お話しましょ」
理音は雑誌を棚に戻すと、そのまま鈴を鳴らすように書店を出て行った。
残された私は、彼女の残り香をぼんやりと嗅ぎながら、彼女が手に取っていた雑誌をちらと眺めた。
汗を飛び散らせながらドラムを叩いている、筋骨隆々のバンドマンが表紙を飾っているその雑誌は、とても彼女が先程まで熱心に読んでいたものとは思えなかった。
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