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グルニスランへ。
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ずいぶん話し込んでいた。
サミュエルさんはヴァシリカのことを色々と教えてくれた。本当にこの国が好きなんだ。
ジェネシスさんも相槌を打っては思い出話に浸っている。
何杯目かのお茶を飲み干した時、ジェネシスさんが「ご飯にしよう」と席を立った。
そういえば朝から何も食べていない。
またサミュエルさんと二人きりになったが、今度はそれほど気まずさはなかった。
話の流れでジェネシスさんとサミュエルさんが出会った時の話題になる。
サミュエルさんはジェネシスさんに勧誘され、騎士団に入ったそうだ。当時剣の大会で優秀な成績を収めてたサミュエルさんは、割と有名人だったらしい。その噂が騎士団に入り、ジェネシスさんが勧誘に来たと言うわけだ。
「ジェネシスさんはその時からサミュエルさんがSubって知ってたんですか?」
俺からの質問にサミュエルさんは目を丸くした。
「ジェネシスに聞いたの?」
「いえ、初めて会った時から違和感を感じていました。あれだけ怒っているのにグレアが飛んでこなかったって気付いたのは、少し後ですが。俺もSubだから分かったんだと思います」
「そう……同じバース性でも、気づかれたのは初めてよ。ジェネシスでさえ、気付かなかったのに」
「ずっと隠すつもりでいたんですか!? だって騎士団員ってほとんどがDomでしょう?」
「そんなのは薬で誤魔化せば大丈夫だと思ってたのよ。騎士団は平民からすれば憧れの職業。どうしてもなりたかったの。でも、プレイする相手が見つからなくてね」
ある時、無意識にフェロモンが出ていた。それにいち早く気付いたのがジェネシスさんだったと言うわけだ。
幸い他の団員には気付かれずに済んだので、今もサミュエルさんがSubとは誰も知らないらしい。
「じゃあ、その……ジェネシスさんとプレイ……したんですか?」
「ええ、したわよ」
そうだろうとは予測していたが、本人から直接聞くとショックは大きかった。(昔の話だ)そう自分に言い聞かせるが、なかなか納得することはできないでいた。
「サミュエル! 説明するなら、中途半端はいけない。プレイとは言っても性的なものではなかったし、大体サミュエルは……」
「そうね。ジェネシスみたいに激甘なプレイは好みじゃないわ!」
「面白くない」と。わざと俺を揶揄っていたと言って笑った。ムッとしたような安心したような、それでも憎み切れないのはこの人の長所なのだろう。
「アタシはもっと楽しくプレイをしたいの! 甘々に溶かされちゃ鳥肌が立っちゃう!」
ジェネシスさん本人の前で堂々と言ってのけた。俺は沢山甘やかしてくれるジェネシスさんのプレイが好きだと思ったが、それを言うとまた揶揄われそうなので自分の中に飲み込んだ。
ジェネシスさんは短時間で美味しそうなご飯を作ってくれた。テーブルの上にはフルーツが盛られ、サンドウィッチが配られる。
「ところで、あんたは何故隣国に帰ろうとしてたの?」
食べながらサミュエルさんに尋ねられた。
「どうしても助けないといけない人がいるんです。会えないまま、俺が追放されてしまって……。今どこにいるのか、無事でいるのかさえ分からないんですけど……」
こうしている間にも、もしかすると圷たちのコマンドに怯えているかもしれない。
「ジェネシスさん!! やっぱり、俺はどしてもグルニスランに帰りたいです! せっかく助けてもらったけど……。向こうでの、俺の命の恩人が危険に晒されているかもしれない。この目でジョシュアの無事を確認するまでは諦められません!」
あの屈託のない笑顔が浮かんでは消える。ジョシュアの明るさに何度救われたか分からない。いつだって元気をもらっていたのに、俺からは何も返せていない。それが悔しいし、ジョシュアは誰よりも幸せにならなければいけない人なんだ。
「ちょっと!! あんたどうするつもり?」
席を立った俺を引き止めようと、サミュエルさんが慌てて腕を掴んだ。振り解いて家を出ようと試みたが、華奢でも騎士団員であるサミュエルさんの力には敵わない。
その様子を見ていたジェネシスさんが、思い詰めた様子を見せながら立ち上がり、サミュエルさんの手を離させた。
「ジェネシスさん……」
しかし、決して俺に「行け」と言っている訳ではない。ジッと俺を見つめ、食事を促したのだった。
先にサミュエルさんが席に着く。
「何より大切なのは、君が元気でいることだ」
静かに言うと、ジェネシスさんも自分の席に戻る。
俺だけが空回っているのは理解している。この行動が間違っているのも、無謀でしかないのも、全て自分で分かっている。それでも、自分だけが呑気にご飯を食べて恋人を作って……ジョシュアが苦しんでいるかもしれないというのに。
自分に腹が立つ。何もできない無力さが憎い。冷静さすら、どこかに置いてきてしまったようだ。
ズボンを握りしめる手に力が入る。不甲斐なさに苦しめられている。
動けないでいる俺を横目に、二人は食事を始めた。誰からも話し出す気配もない。ただ静寂の中で、二人の咀嚼音だけが小さく聞こえていた。
ここで家を飛び出したところで何も解決しないので、力無く席へ着く。
二人は既に半分近くのサンドウィッチを食べていた。
俺も一口、また一口と、作業のように食べ始めた。
「早く食べないと、先に行くわよ」
サミュエルさんが焦らすように言う。
「ほら、Lien。しっかり食べておかないと、いざという時戦えないよ?」
ジェネシスさんまで……。
どこに、何をしに行こうとしているのだろうか。食べる手を止め、二人の顔を交互に見る。どことなく、二人とも興奮を抑えているようにも伺えた。
「一刻も早く出発しないと!!」
「どこにですか?」
「あんたが言い出したんでしょう!! 行かないの? グルニスラン」
「えっ?」
まさか、ジェネシスさんとサミュエルさんも行くと言っているのか?
「ほら、急ぎなさい!」
サミュエルさんが、最後の一口を頬張り、ナプキンで口元を拭った。
「ちょうど、グルニスランへ視察をしに行くところだったんだよ」
ジェネシスさんが俺の頬に手を添えた。
「案内してくれるかい?」
「は……はい!!」
「じゃあ、行くわよ! 時間が勿体無いわ」
やはり運命は実在していて、進むべき方向へと導いてくれる。ジェネシスさんとサミュエルさんが心強く口角を上げ、頷いた。
心の底から湧き上がる勇気と希望。それをこの二人は最も簡単な方法で与えていくれる。
俺の不安など一瞬で吹き飛ばしてしまう。
なんでも出来るって気持ちになるから不思議なのだ。
用意された食事を全て食べ終えると、直ぐにグルニスランへと出発した。
俺はジェネシスさんの馬に一緒に乗せてもらった。サミュエルさんは他の騎士団に応援要請をかけてから追いかけると言って、家の前で一旦別れた。
視察と言っていたが、他の騎士団まで声をかける必要があるのだろうか。きっと俺には分からないルールでもあるのだろう。
この時は、この後あんな大事になるなんて想像もしていなかった。呑気なもんだとあとで後悔することとなる。
馬は荒野を走り続ける。背中から腕を回し、ジェエンシスさんの顔を覗き見ると、引き締まった凛々しい目をしていた。普段の優しさから一転、こういう凛々しさはいかにも騎士団長という威厳を感じる。
俺は心強い仲間と出会えて強気な気持ちになっていた。根拠のない自信が漲っていた。しかしジェネシスさんの表情から、今後の為に心の準備をしておかなければならないと、気を引き締めた。
グルニスランに近づくにつれ、穢れは濃くなっていく。
俺が住んでいた頃より、明らかに空気が澱んでいる。圷と桐生はあれからどうなったのだろうか。
「グルニスランに入ったら、そのまま街の様子を見る。その後騎士団長を探す」
「森を抜ければ直ぐに街に入ります!」
もう、葉の一つも残っていない。【森】と呼ぶのも躊躇うような澱んだ空気が漂っている。色のない森を抜ければすぐ街だ。
どんな状況だったとしても受け入れなければいけない。
息を飲み込み、ジェネシスさんにしっかりと捕まった。
短期間で変わり果ててしまった街を目の当たりにするまで、あとほんの数十秒だった……。
サミュエルさんはヴァシリカのことを色々と教えてくれた。本当にこの国が好きなんだ。
ジェネシスさんも相槌を打っては思い出話に浸っている。
何杯目かのお茶を飲み干した時、ジェネシスさんが「ご飯にしよう」と席を立った。
そういえば朝から何も食べていない。
またサミュエルさんと二人きりになったが、今度はそれほど気まずさはなかった。
話の流れでジェネシスさんとサミュエルさんが出会った時の話題になる。
サミュエルさんはジェネシスさんに勧誘され、騎士団に入ったそうだ。当時剣の大会で優秀な成績を収めてたサミュエルさんは、割と有名人だったらしい。その噂が騎士団に入り、ジェネシスさんが勧誘に来たと言うわけだ。
「ジェネシスさんはその時からサミュエルさんがSubって知ってたんですか?」
俺からの質問にサミュエルさんは目を丸くした。
「ジェネシスに聞いたの?」
「いえ、初めて会った時から違和感を感じていました。あれだけ怒っているのにグレアが飛んでこなかったって気付いたのは、少し後ですが。俺もSubだから分かったんだと思います」
「そう……同じバース性でも、気づかれたのは初めてよ。ジェネシスでさえ、気付かなかったのに」
「ずっと隠すつもりでいたんですか!? だって騎士団員ってほとんどがDomでしょう?」
「そんなのは薬で誤魔化せば大丈夫だと思ってたのよ。騎士団は平民からすれば憧れの職業。どうしてもなりたかったの。でも、プレイする相手が見つからなくてね」
ある時、無意識にフェロモンが出ていた。それにいち早く気付いたのがジェネシスさんだったと言うわけだ。
幸い他の団員には気付かれずに済んだので、今もサミュエルさんがSubとは誰も知らないらしい。
「じゃあ、その……ジェネシスさんとプレイ……したんですか?」
「ええ、したわよ」
そうだろうとは予測していたが、本人から直接聞くとショックは大きかった。(昔の話だ)そう自分に言い聞かせるが、なかなか納得することはできないでいた。
「サミュエル! 説明するなら、中途半端はいけない。プレイとは言っても性的なものではなかったし、大体サミュエルは……」
「そうね。ジェネシスみたいに激甘なプレイは好みじゃないわ!」
「面白くない」と。わざと俺を揶揄っていたと言って笑った。ムッとしたような安心したような、それでも憎み切れないのはこの人の長所なのだろう。
「アタシはもっと楽しくプレイをしたいの! 甘々に溶かされちゃ鳥肌が立っちゃう!」
ジェネシスさん本人の前で堂々と言ってのけた。俺は沢山甘やかしてくれるジェネシスさんのプレイが好きだと思ったが、それを言うとまた揶揄われそうなので自分の中に飲み込んだ。
ジェネシスさんは短時間で美味しそうなご飯を作ってくれた。テーブルの上にはフルーツが盛られ、サンドウィッチが配られる。
「ところで、あんたは何故隣国に帰ろうとしてたの?」
食べながらサミュエルさんに尋ねられた。
「どうしても助けないといけない人がいるんです。会えないまま、俺が追放されてしまって……。今どこにいるのか、無事でいるのかさえ分からないんですけど……」
こうしている間にも、もしかすると圷たちのコマンドに怯えているかもしれない。
「ジェネシスさん!! やっぱり、俺はどしてもグルニスランに帰りたいです! せっかく助けてもらったけど……。向こうでの、俺の命の恩人が危険に晒されているかもしれない。この目でジョシュアの無事を確認するまでは諦められません!」
あの屈託のない笑顔が浮かんでは消える。ジョシュアの明るさに何度救われたか分からない。いつだって元気をもらっていたのに、俺からは何も返せていない。それが悔しいし、ジョシュアは誰よりも幸せにならなければいけない人なんだ。
「ちょっと!! あんたどうするつもり?」
席を立った俺を引き止めようと、サミュエルさんが慌てて腕を掴んだ。振り解いて家を出ようと試みたが、華奢でも騎士団員であるサミュエルさんの力には敵わない。
その様子を見ていたジェネシスさんが、思い詰めた様子を見せながら立ち上がり、サミュエルさんの手を離させた。
「ジェネシスさん……」
しかし、決して俺に「行け」と言っている訳ではない。ジッと俺を見つめ、食事を促したのだった。
先にサミュエルさんが席に着く。
「何より大切なのは、君が元気でいることだ」
静かに言うと、ジェネシスさんも自分の席に戻る。
俺だけが空回っているのは理解している。この行動が間違っているのも、無謀でしかないのも、全て自分で分かっている。それでも、自分だけが呑気にご飯を食べて恋人を作って……ジョシュアが苦しんでいるかもしれないというのに。
自分に腹が立つ。何もできない無力さが憎い。冷静さすら、どこかに置いてきてしまったようだ。
ズボンを握りしめる手に力が入る。不甲斐なさに苦しめられている。
動けないでいる俺を横目に、二人は食事を始めた。誰からも話し出す気配もない。ただ静寂の中で、二人の咀嚼音だけが小さく聞こえていた。
ここで家を飛び出したところで何も解決しないので、力無く席へ着く。
二人は既に半分近くのサンドウィッチを食べていた。
俺も一口、また一口と、作業のように食べ始めた。
「早く食べないと、先に行くわよ」
サミュエルさんが焦らすように言う。
「ほら、Lien。しっかり食べておかないと、いざという時戦えないよ?」
ジェネシスさんまで……。
どこに、何をしに行こうとしているのだろうか。食べる手を止め、二人の顔を交互に見る。どことなく、二人とも興奮を抑えているようにも伺えた。
「一刻も早く出発しないと!!」
「どこにですか?」
「あんたが言い出したんでしょう!! 行かないの? グルニスラン」
「えっ?」
まさか、ジェネシスさんとサミュエルさんも行くと言っているのか?
「ほら、急ぎなさい!」
サミュエルさんが、最後の一口を頬張り、ナプキンで口元を拭った。
「ちょうど、グルニスランへ視察をしに行くところだったんだよ」
ジェネシスさんが俺の頬に手を添えた。
「案内してくれるかい?」
「は……はい!!」
「じゃあ、行くわよ! 時間が勿体無いわ」
やはり運命は実在していて、進むべき方向へと導いてくれる。ジェネシスさんとサミュエルさんが心強く口角を上げ、頷いた。
心の底から湧き上がる勇気と希望。それをこの二人は最も簡単な方法で与えていくれる。
俺の不安など一瞬で吹き飛ばしてしまう。
なんでも出来るって気持ちになるから不思議なのだ。
用意された食事を全て食べ終えると、直ぐにグルニスランへと出発した。
俺はジェネシスさんの馬に一緒に乗せてもらった。サミュエルさんは他の騎士団に応援要請をかけてから追いかけると言って、家の前で一旦別れた。
視察と言っていたが、他の騎士団まで声をかける必要があるのだろうか。きっと俺には分からないルールでもあるのだろう。
この時は、この後あんな大事になるなんて想像もしていなかった。呑気なもんだとあとで後悔することとなる。
馬は荒野を走り続ける。背中から腕を回し、ジェエンシスさんの顔を覗き見ると、引き締まった凛々しい目をしていた。普段の優しさから一転、こういう凛々しさはいかにも騎士団長という威厳を感じる。
俺は心強い仲間と出会えて強気な気持ちになっていた。根拠のない自信が漲っていた。しかしジェネシスさんの表情から、今後の為に心の準備をしておかなければならないと、気を引き締めた。
グルニスランに近づくにつれ、穢れは濃くなっていく。
俺が住んでいた頃より、明らかに空気が澱んでいる。圷と桐生はあれからどうなったのだろうか。
「グルニスランに入ったら、そのまま街の様子を見る。その後騎士団長を探す」
「森を抜ければ直ぐに街に入ります!」
もう、葉の一つも残っていない。【森】と呼ぶのも躊躇うような澱んだ空気が漂っている。色のない森を抜ければすぐ街だ。
どんな状況だったとしても受け入れなければいけない。
息を飲み込み、ジェネシスさんにしっかりと捕まった。
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