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変わり果てたグルニスラン
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街に人気はなかった。
俺が働いていた時は、もっと賑やかだったのに……。店も軒並み潰れている。もう昼になろうとしている時間なのに、建物の中は薄暗い。ベランダや、玄関先に置かれている鉢植えもすっかり枯れている。
「こんな状態になってるなんて……」
圷と桐生が浄化できなかったのは一目瞭然だ。もう諦めたのだろうか。
「Lienはここまで穢れが濃くなっても普通にいられるんだね」
「穢れが濃くなったのは分かります。でも呼吸に影響は無いようです」
俺の返事にジェネシスさんはホッとした様子を見せた。念のために俺用のマスクを準備してくれているらしい。苦しくなった時は直ぐに言いますと伝えておく。
そういえば、ここまで穢れが濃いというのに魔獣には出会わなかった。周りをじっくりと見る余裕もなかったが、それでも視界に入る距離に魔獣の姿は確認していない。
ジェネシスさんが言っていた“デミゴット”がどういうものなのかは想像もつかない。
マスクなしで呼吸ができる、魔獣が寄ってこない。たったこれだけの条件で俺が“デミゴット”と断定もできない。
俺の正体なんて、ただの“俺”でしかないのだ。デミゴットなんて聖女より凄い人なら、とっくにこの世界を救っている。
「それにしても見事に人がいない」
ジェネシスさんが呟いた。馬までため息をするように鼻息で呼吸を整える。
変わり果てた光景に、俺は言葉を失ってしまった。
「移動しよう」
街から騎士団の宿舎へと案内した。あそこならジャックスさんに会えるかもしれない。
ヴァシリカとの境界線に俺を捨てたのは、あの時の状況的にジャックスさんだろう。
俺が帰ってきたのを知ると、嫌がられるかもしれない。それでも今頼れそうなのは、ジャックスさん以外思いつかなかった。
馬は力一杯走ってくれているが、この穢れに随分当てられているようだ。息切れも激しいし、進むスピードも落ちていく。
丘を登り切るのは困難だと判断したジェネシスさんが、馬から降りた。
「Lienはそのまま乗ってて。手綱を引いて歩くからね」
こんな時にまで、気を使ってくれるジェネシスさんに、お礼しか言えないのが不甲斐ない。もっと役に立てれば良いのに。
ゆっくりと丘を歩きながら登っていくと、見慣れた宿舎が見えてきた。
やはり、ここにも人の姿はない。
「騎士団員までいないなんて……」
ジョシュアと一緒に手入れをしていた花壇の花も、今では枯れて土だけになっていた。
楽しい思い出までもが消えてしまったように感じて切なくなる。
「宿舎の中を見てきます」
パロミデルや圷、桐生たちに見つからないよう警戒しながら宿舎の中へと入っていった。
窓から室内を覗くと、数人の騎士団員の姿を確認する。その中にジャックスさんの姿を見つけた。
ほぼ同時にジャックスさんも俺に気づいてくれ、窓際へと駆け寄る。
『リアン!!』
声は届かなかったが口の動きで名前を呼ばれたと分かった。
談話室から走り出てくる様子に、迷惑とは思われていないと察した。
俺も宿舎の中へと飛び込む。
「ジャックスさん!!」
「リアン!! 帰ってきたのか!!」
強く抱きしめられ、安堵した。それどころかいきなり謝られて驚きを隠せない。
「何故ジャックスさんが謝るんですか?」
「あの時、団長から君を守れなかった。本当にすまない。ずっと、どうにか助け出したいと思っていたんだ。でもあの後、隣国との境界線まで戻った時、君は姿を消していた。まるで存在していなかったかのように、跡形もなく消えていたんだ。それからずっとリアンが頭から離れなかった」
よく無事でいてくれた。と、再び強く抱きしめられた。
眉の垂れ下がった笑顔があの時と同じで嬉しくなる。
そして、戻ってきても良かったという事実が嬉しかった。あの時、本当は俺をジャックスさんの部屋で匿るつもりだったらしい。
色々と話したいことがありそうだが、ゆっくりと話している時間はないので、半ば無理矢理話を切り替えた。
「あの、会ってほしい人がいるんです」
「誰だろう? どうぞ中に入ってもらってくれ」
俺の頼みなら……と、快く受け入れてくれた。ジャックスさんから嫌われていなかったと分かっただけでも、帰ってきた甲斐があった。
お礼を伝え、急いでジェネシスさんを呼びに行く。
するとジャックスさんもマスクをつけて外に出てきてくれた。
俺を助けてくれた隣国の騎士団長だと紹介すると、挨拶を交わすなり馬の容体に気づいたジャックスさんが、空いてる馬小屋があると案内してくれた。
「ありがとう、助かったよ」
「いえ、とんでもございません。この国は穢れがますます酷くなっていて……。とても馬を外に出せる状態じゃなくなってしまったんです」
よくここまで頑張ったな。と、馬にも気を使ってくれた。
「騎士団は今何をしているんです? さっき街を通って来ましたが、人一人、見られませんでした」
「……とにかく、宿舎へ行きましょう。面会室がありますから、そこで説明します」
気まずそうに顔を顰める。嫌な予感をジェネシスさんと共に抱いた。
「こちらへ……」ジャックスさんに促され、面会室へと移動する。
そこはとてもシンプルな部屋で、簡素な机に椅子が六脚ほどと、壁際に三人掛けのソファーが置かれているだけだった。
ジェネシスさんと並んで椅子に座る。ジャックスさんは他の騎士団員にお茶を淹れてくれと頼むと、俺たちに向かい合って腰を下ろした。
「リアンが追放されてからは、何もかもが最悪の方向にしか進まなかった」
ポツリポツリとジャックスさんが話し始めた。
俺が働いていた時は、もっと賑やかだったのに……。店も軒並み潰れている。もう昼になろうとしている時間なのに、建物の中は薄暗い。ベランダや、玄関先に置かれている鉢植えもすっかり枯れている。
「こんな状態になってるなんて……」
圷と桐生が浄化できなかったのは一目瞭然だ。もう諦めたのだろうか。
「Lienはここまで穢れが濃くなっても普通にいられるんだね」
「穢れが濃くなったのは分かります。でも呼吸に影響は無いようです」
俺の返事にジェネシスさんはホッとした様子を見せた。念のために俺用のマスクを準備してくれているらしい。苦しくなった時は直ぐに言いますと伝えておく。
そういえば、ここまで穢れが濃いというのに魔獣には出会わなかった。周りをじっくりと見る余裕もなかったが、それでも視界に入る距離に魔獣の姿は確認していない。
ジェネシスさんが言っていた“デミゴット”がどういうものなのかは想像もつかない。
マスクなしで呼吸ができる、魔獣が寄ってこない。たったこれだけの条件で俺が“デミゴット”と断定もできない。
俺の正体なんて、ただの“俺”でしかないのだ。デミゴットなんて聖女より凄い人なら、とっくにこの世界を救っている。
「それにしても見事に人がいない」
ジェネシスさんが呟いた。馬までため息をするように鼻息で呼吸を整える。
変わり果てた光景に、俺は言葉を失ってしまった。
「移動しよう」
街から騎士団の宿舎へと案内した。あそこならジャックスさんに会えるかもしれない。
ヴァシリカとの境界線に俺を捨てたのは、あの時の状況的にジャックスさんだろう。
俺が帰ってきたのを知ると、嫌がられるかもしれない。それでも今頼れそうなのは、ジャックスさん以外思いつかなかった。
馬は力一杯走ってくれているが、この穢れに随分当てられているようだ。息切れも激しいし、進むスピードも落ちていく。
丘を登り切るのは困難だと判断したジェネシスさんが、馬から降りた。
「Lienはそのまま乗ってて。手綱を引いて歩くからね」
こんな時にまで、気を使ってくれるジェネシスさんに、お礼しか言えないのが不甲斐ない。もっと役に立てれば良いのに。
ゆっくりと丘を歩きながら登っていくと、見慣れた宿舎が見えてきた。
やはり、ここにも人の姿はない。
「騎士団員までいないなんて……」
ジョシュアと一緒に手入れをしていた花壇の花も、今では枯れて土だけになっていた。
楽しい思い出までもが消えてしまったように感じて切なくなる。
「宿舎の中を見てきます」
パロミデルや圷、桐生たちに見つからないよう警戒しながら宿舎の中へと入っていった。
窓から室内を覗くと、数人の騎士団員の姿を確認する。その中にジャックスさんの姿を見つけた。
ほぼ同時にジャックスさんも俺に気づいてくれ、窓際へと駆け寄る。
『リアン!!』
声は届かなかったが口の動きで名前を呼ばれたと分かった。
談話室から走り出てくる様子に、迷惑とは思われていないと察した。
俺も宿舎の中へと飛び込む。
「ジャックスさん!!」
「リアン!! 帰ってきたのか!!」
強く抱きしめられ、安堵した。それどころかいきなり謝られて驚きを隠せない。
「何故ジャックスさんが謝るんですか?」
「あの時、団長から君を守れなかった。本当にすまない。ずっと、どうにか助け出したいと思っていたんだ。でもあの後、隣国との境界線まで戻った時、君は姿を消していた。まるで存在していなかったかのように、跡形もなく消えていたんだ。それからずっとリアンが頭から離れなかった」
よく無事でいてくれた。と、再び強く抱きしめられた。
眉の垂れ下がった笑顔があの時と同じで嬉しくなる。
そして、戻ってきても良かったという事実が嬉しかった。あの時、本当は俺をジャックスさんの部屋で匿るつもりだったらしい。
色々と話したいことがありそうだが、ゆっくりと話している時間はないので、半ば無理矢理話を切り替えた。
「あの、会ってほしい人がいるんです」
「誰だろう? どうぞ中に入ってもらってくれ」
俺の頼みなら……と、快く受け入れてくれた。ジャックスさんから嫌われていなかったと分かっただけでも、帰ってきた甲斐があった。
お礼を伝え、急いでジェネシスさんを呼びに行く。
するとジャックスさんもマスクをつけて外に出てきてくれた。
俺を助けてくれた隣国の騎士団長だと紹介すると、挨拶を交わすなり馬の容体に気づいたジャックスさんが、空いてる馬小屋があると案内してくれた。
「ありがとう、助かったよ」
「いえ、とんでもございません。この国は穢れがますます酷くなっていて……。とても馬を外に出せる状態じゃなくなってしまったんです」
よくここまで頑張ったな。と、馬にも気を使ってくれた。
「騎士団は今何をしているんです? さっき街を通って来ましたが、人一人、見られませんでした」
「……とにかく、宿舎へ行きましょう。面会室がありますから、そこで説明します」
気まずそうに顔を顰める。嫌な予感をジェネシスさんと共に抱いた。
「こちらへ……」ジャックスさんに促され、面会室へと移動する。
そこはとてもシンプルな部屋で、簡素な机に椅子が六脚ほどと、壁際に三人掛けのソファーが置かれているだけだった。
ジェネシスさんと並んで椅子に座る。ジャックスさんは他の騎士団員にお茶を淹れてくれと頼むと、俺たちに向かい合って腰を下ろした。
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ポツリポツリとジャックスさんが話し始めた。
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