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一章~伊角光希編~
50 怪我を負ったルシィ
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「明日、晴れたら庭を散歩しませんか?」
と、ロラが言った。
「外に出てもいいんですか?」
「悪阻も治ったことですし、医師からも体を動かした方がいいとアドバイスを頂いております。エリアス様には、私から申しておきますよ」
「行きたいです!! ずっと外に出たかった。もう何ヶ月も外の空気を吸っていません」
「そうですよね。今は丁度いい香りの花が満開なので、楽しみにしていてください」
やっと外に出られる。
殺虫剤を飲まされてから、エリアス様の部屋から出ていない。
この数ヶ月は孤独を感じない日はなかった。この世界で、たった一人取り残されたような気持ちに何度も陥っては塞ぎ込む。それでもエリアス様やロラがいてくれたから、なんとか乗り越えられたようなものだった。
ロラは今度は僕から離れなくても良いように、最初からお茶のセットも持っていくし、もう一人付き添える侍女も手配しておくと意気込んでいる。
そうしてまで、僕のことを考えてくれているのが嬉しい。
「そういえば、ロラに頼みたいことがあるんです」
「えぇ、何なりと」
「僕の部屋からお香と香炉を持ってきてくれませんか?」
「かしこまりました。夕食までにはお持ちいたします」
この部屋にはエリアス様のものはあるが、街に行ったときに折角買ってもらった物を使いたいと思っていた。
体調が回復したのもあり、またやりたい事が次々に出てくる。
ロラはティータイムの後、早速僕の部屋に行ってくれたようだ。
全使用人の総責任者であるロラだけは、全ての部屋に入ることを許されている。
鍵の付いている部屋も、その合鍵は全てロラが所有している。
「エリアス様が、少し帰りが遅くなるようですが、一緒に食事をとりたいから待っていてほしいとの事でした。それまで、お香を焚きましょうか」
「じゃあ、早速……」
お香が入っている箱を開けると、それだけでいい香りがブレンドされて鼻を掠めた。
そういえば、白檀の香りをここで焚こうと思って持ってきていたのを今更思い出した。
あの時は直ぐにベッドに行って……思い出しただけで恥ずかしくなってしまう。
落としたきり忘れてしまっていたが、あれはきっとエリアス様が持っているのだろう。
ジャスミンに似た香りの物を選ぶと、早速火を付けた。
『あ、いい香り。久しぶりに焚いたんだ』
アシルが僕の中でようやく目覚めたらしい。
最近はアシルも僕もよく眠っている。妊娠が原因かは分からないが、悪阻の時から寝るのが癖のようになっている。
折角アシルが起きたから、会話もしたいけど、今はロラがいるから無理だと諦める。
結局、ロラに、本当は自分が転生者だとは言わないことに決めた。
一番の理由は、ロラを困らせたくないから。
それに、この部屋にいると安全だからって言うのもある。
「そういえば明日、ルシィは来れませんよね?」
フッと思った。
アシルも、ルシィは花が好きだと言っていた。
アンナ様に付きっきりじゃ、きっとストレスも半端ないだろう。
息抜きになれば……と思い、言ってみたが、ルシィの名前を聞いてロラの表情が突然曇った。
「どうか、したのですか?」
「それが、ルシィは今怪我をしていまして……」
「怪我?」
嫌な予感しかしない。
怪我が判明したのは、ルシィがよろけた所に偶々居合わせたロラが体を支えた。その時に尋常じゃない痛がり方をしたものだから「何か怪我でもしたのか?」と尋ねたところ、ルシィは「転んで体を強打してしまった」と答えたと言う。
「強打するような場所など、検討もつきません」
「確かに……隠していたのも怪しいですね」
「数人の侍女に何か知っているかと尋ねましたが、言われて見ればここ数日よく転びそうになってるかもしれない……と、その程度の証言しかありませんでした。なので、ルシィには一応『何かあれば私かエリアス様に言いなさい』と伝えたのですが」
「それがいつの話です?」
「一昨日くらいでした。私もその時になって気付いたので、ルシィがいつ強打したのかまでを聞き損ねてしまったままなんです」
ルシィは、エリアス様には言いに行かなかったのだろうか。
余計なことはロラからは言わない。本人が言いたくないことをロラから言うことはない。
でもルシィは隠しておきたいのだろうか。
万が一、アンナ様から、例えば暴力を振るわれていたとして、誰かが気づいて助けて欲しいとは思ってないのだろうか。
「ルシィが心配です。もしルシィがその後誰にも話してないのなら、詳しく聞いてあげてください」
「かしこまりました」
烏滸がましいかもしれないが、ロラに指示を出してしまった。
でもロラは、本人の意思を尊重しすぎるところがある。
でも僕みたいに、相手から踏み込んで欲しい人だっている。
直感だけれど、ルシィもそれを望んでいるのではないかと思ってしまった。
と、ロラが言った。
「外に出てもいいんですか?」
「悪阻も治ったことですし、医師からも体を動かした方がいいとアドバイスを頂いております。エリアス様には、私から申しておきますよ」
「行きたいです!! ずっと外に出たかった。もう何ヶ月も外の空気を吸っていません」
「そうですよね。今は丁度いい香りの花が満開なので、楽しみにしていてください」
やっと外に出られる。
殺虫剤を飲まされてから、エリアス様の部屋から出ていない。
この数ヶ月は孤独を感じない日はなかった。この世界で、たった一人取り残されたような気持ちに何度も陥っては塞ぎ込む。それでもエリアス様やロラがいてくれたから、なんとか乗り越えられたようなものだった。
ロラは今度は僕から離れなくても良いように、最初からお茶のセットも持っていくし、もう一人付き添える侍女も手配しておくと意気込んでいる。
そうしてまで、僕のことを考えてくれているのが嬉しい。
「そういえば、ロラに頼みたいことがあるんです」
「えぇ、何なりと」
「僕の部屋からお香と香炉を持ってきてくれませんか?」
「かしこまりました。夕食までにはお持ちいたします」
この部屋にはエリアス様のものはあるが、街に行ったときに折角買ってもらった物を使いたいと思っていた。
体調が回復したのもあり、またやりたい事が次々に出てくる。
ロラはティータイムの後、早速僕の部屋に行ってくれたようだ。
全使用人の総責任者であるロラだけは、全ての部屋に入ることを許されている。
鍵の付いている部屋も、その合鍵は全てロラが所有している。
「エリアス様が、少し帰りが遅くなるようですが、一緒に食事をとりたいから待っていてほしいとの事でした。それまで、お香を焚きましょうか」
「じゃあ、早速……」
お香が入っている箱を開けると、それだけでいい香りがブレンドされて鼻を掠めた。
そういえば、白檀の香りをここで焚こうと思って持ってきていたのを今更思い出した。
あの時は直ぐにベッドに行って……思い出しただけで恥ずかしくなってしまう。
落としたきり忘れてしまっていたが、あれはきっとエリアス様が持っているのだろう。
ジャスミンに似た香りの物を選ぶと、早速火を付けた。
『あ、いい香り。久しぶりに焚いたんだ』
アシルが僕の中でようやく目覚めたらしい。
最近はアシルも僕もよく眠っている。妊娠が原因かは分からないが、悪阻の時から寝るのが癖のようになっている。
折角アシルが起きたから、会話もしたいけど、今はロラがいるから無理だと諦める。
結局、ロラに、本当は自分が転生者だとは言わないことに決めた。
一番の理由は、ロラを困らせたくないから。
それに、この部屋にいると安全だからって言うのもある。
「そういえば明日、ルシィは来れませんよね?」
フッと思った。
アシルも、ルシィは花が好きだと言っていた。
アンナ様に付きっきりじゃ、きっとストレスも半端ないだろう。
息抜きになれば……と思い、言ってみたが、ルシィの名前を聞いてロラの表情が突然曇った。
「どうか、したのですか?」
「それが、ルシィは今怪我をしていまして……」
「怪我?」
嫌な予感しかしない。
怪我が判明したのは、ルシィがよろけた所に偶々居合わせたロラが体を支えた。その時に尋常じゃない痛がり方をしたものだから「何か怪我でもしたのか?」と尋ねたところ、ルシィは「転んで体を強打してしまった」と答えたと言う。
「強打するような場所など、検討もつきません」
「確かに……隠していたのも怪しいですね」
「数人の侍女に何か知っているかと尋ねましたが、言われて見ればここ数日よく転びそうになってるかもしれない……と、その程度の証言しかありませんでした。なので、ルシィには一応『何かあれば私かエリアス様に言いなさい』と伝えたのですが」
「それがいつの話です?」
「一昨日くらいでした。私もその時になって気付いたので、ルシィがいつ強打したのかまでを聞き損ねてしまったままなんです」
ルシィは、エリアス様には言いに行かなかったのだろうか。
余計なことはロラからは言わない。本人が言いたくないことをロラから言うことはない。
でもルシィは隠しておきたいのだろうか。
万が一、アンナ様から、例えば暴力を振るわれていたとして、誰かが気づいて助けて欲しいとは思ってないのだろうか。
「ルシィが心配です。もしルシィがその後誰にも話してないのなら、詳しく聞いてあげてください」
「かしこまりました」
烏滸がましいかもしれないが、ロラに指示を出してしまった。
でもロラは、本人の意思を尊重しすぎるところがある。
でも僕みたいに、相手から踏み込んで欲しい人だっている。
直感だけれど、ルシィもそれを望んでいるのではないかと思ってしまった。
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