219 / 235
番外編〜エリアスとアシルの出会い編〜
我儘アンナ
しおりを挟む
アシルが二十歳を迎えるまで待とうと思った理由は、今はまだ不安定なオメガ性であるが、二年も経てば少しは安定しているのではないかと思ったのが一番大きい。抑制剤も年々質の良いものが開発されている。エリアスはアルファ性が強いと自覚しているため、むやみに近寄って怖がられるのも避けたかった。
そしてその頃には、自分自身もアシルに相応しい人間になっていたいとも考えていた。
クローシャー伯爵には、側室に迎え入れたいという旨を直ぐに伝えた。本当は正妻として迎え入れたいが現状それが不可能であること、しかし自分はアシルの運命の番で、誰よりもアシルを慕っていると懸命に訴えた。
クローシャー伯爵はアシルの意志を尊重すると口で言うものの、その言葉の裏では殆ど承諾しているようなものだった。
「アシルの二十歳の誕生日に直接迎えに上がります」
半ば押し切るように縁談を申し込んだ。
それからの二年間、アシルに幾度となく手紙を送ったが返事が返ってきたことはない。伯爵の話だと、エリアスの匂いがついた羊皮紙を嗅いだだけでヒートを起こすようであった。その話を聞いてエリアスは心配しつつも内心では歓喜していた。手紙を抱きしめて眠っているというアシルを想像しただけで、今直ぐにでも抱きしめたくなる。なので返事など届かなくて良かった。自分の匂いを覚えてもらうためなら、一方通行でも苦にはならない。
アンナはエリアスが側室を持つことを猛反対したが、逆らうことはエリアスが許さなかった。公爵家同士の契約された結婚。アンナを蔑ろにするわけにもいかないが、奔放に遊んでいるのをいつだって引き合いに出すことだって容易い。
しかしアンナは「アシルを側室に迎え入れるなら、私にもそれ相当の待遇を」と言い出したのだ。
「エリアス様はオメガをこの屋敷に住まわせる気でしょうか? 側室ならば、別邸でもよろしいのでは?」
「それを決めるのは私だ。アシルの件に一切の口出しを禁止する」
「エリアス様!! ならば、私もこのお屋敷に引っ越して来ても宜しいでしょう? 離れにそのオメガを住まわせるのなら、私には本邸の一室を与えてくださらないと納得がいきませんわ」
「好きにしろ」
エリアスの言葉に、アンナは満足そうな笑みを見せた。
「ありがとうございます、エリアス様。お忙しいところ引き止めて申し訳ございませんでした」
対して心のこもっていない言葉を吐くと、アンナはベルクール家を後にした。
今日は誰の相手をするのだろうか……。
「———穢らわしい女め」
その背中を睨みつけながら、エリアスは婚約破棄するまで絶対に諦めないと再度決意した。
わがまま放題育ったアンナは、エリアスの言うことだけは受け入れているとロベール公爵は言う。
これでか……エリアスはアンナと話すたびに憤懣としてしまう。もし結婚すれば、我儘はより酷くなるだろう。考えただけで虫唾が走る。エリアスは大きくため息を溢し、仕事へと戻った。
部屋くらい、いくらでも余っている。来たければ来ればいい。
この頃のエリアスは任される仕事も増えてきて、アンナの相手をする時間は殆どなかった。いや、仕事を言い訳にして逃げているのだ。
もしも相手がアシルなら……どんな僅かな時間であっても会いに通っただろう。
「アシル、会いたい……」
エリアスの心の中はアシルで埋め尽くされている。あの天使のような姿を一目でも見られれば、どんなに満たされるだろうか。
そして二年後。
待ちに待ったその日を迎えたエリアスは、朝から落ち着かない時間を過ごしていた。
クローシャー伯爵には、アシルは今発情期ではないと確認済みだ。早く、早く、その姿を見せてくれ。
居ても立ってもいられず、予定よりも大幅に早い時間から馬車に乗り込みベルクール邸を出発した。
そしてその頃には、自分自身もアシルに相応しい人間になっていたいとも考えていた。
クローシャー伯爵には、側室に迎え入れたいという旨を直ぐに伝えた。本当は正妻として迎え入れたいが現状それが不可能であること、しかし自分はアシルの運命の番で、誰よりもアシルを慕っていると懸命に訴えた。
クローシャー伯爵はアシルの意志を尊重すると口で言うものの、その言葉の裏では殆ど承諾しているようなものだった。
「アシルの二十歳の誕生日に直接迎えに上がります」
半ば押し切るように縁談を申し込んだ。
それからの二年間、アシルに幾度となく手紙を送ったが返事が返ってきたことはない。伯爵の話だと、エリアスの匂いがついた羊皮紙を嗅いだだけでヒートを起こすようであった。その話を聞いてエリアスは心配しつつも内心では歓喜していた。手紙を抱きしめて眠っているというアシルを想像しただけで、今直ぐにでも抱きしめたくなる。なので返事など届かなくて良かった。自分の匂いを覚えてもらうためなら、一方通行でも苦にはならない。
アンナはエリアスが側室を持つことを猛反対したが、逆らうことはエリアスが許さなかった。公爵家同士の契約された結婚。アンナを蔑ろにするわけにもいかないが、奔放に遊んでいるのをいつだって引き合いに出すことだって容易い。
しかしアンナは「アシルを側室に迎え入れるなら、私にもそれ相当の待遇を」と言い出したのだ。
「エリアス様はオメガをこの屋敷に住まわせる気でしょうか? 側室ならば、別邸でもよろしいのでは?」
「それを決めるのは私だ。アシルの件に一切の口出しを禁止する」
「エリアス様!! ならば、私もこのお屋敷に引っ越して来ても宜しいでしょう? 離れにそのオメガを住まわせるのなら、私には本邸の一室を与えてくださらないと納得がいきませんわ」
「好きにしろ」
エリアスの言葉に、アンナは満足そうな笑みを見せた。
「ありがとうございます、エリアス様。お忙しいところ引き止めて申し訳ございませんでした」
対して心のこもっていない言葉を吐くと、アンナはベルクール家を後にした。
今日は誰の相手をするのだろうか……。
「———穢らわしい女め」
その背中を睨みつけながら、エリアスは婚約破棄するまで絶対に諦めないと再度決意した。
わがまま放題育ったアンナは、エリアスの言うことだけは受け入れているとロベール公爵は言う。
これでか……エリアスはアンナと話すたびに憤懣としてしまう。もし結婚すれば、我儘はより酷くなるだろう。考えただけで虫唾が走る。エリアスは大きくため息を溢し、仕事へと戻った。
部屋くらい、いくらでも余っている。来たければ来ればいい。
この頃のエリアスは任される仕事も増えてきて、アンナの相手をする時間は殆どなかった。いや、仕事を言い訳にして逃げているのだ。
もしも相手がアシルなら……どんな僅かな時間であっても会いに通っただろう。
「アシル、会いたい……」
エリアスの心の中はアシルで埋め尽くされている。あの天使のような姿を一目でも見られれば、どんなに満たされるだろうか。
そして二年後。
待ちに待ったその日を迎えたエリアスは、朝から落ち着かない時間を過ごしていた。
クローシャー伯爵には、アシルは今発情期ではないと確認済みだ。早く、早く、その姿を見せてくれ。
居ても立ってもいられず、予定よりも大幅に早い時間から馬車に乗り込みベルクール邸を出発した。
122
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした
水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」
公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。
婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。
しかし、それは新たな人生の始まりだった。
前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。
そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。
共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。
だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。
彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。
一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。
これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。
痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる