【完結】公爵様を寝取った悪役令息に転生しましたが、子供が産まれるので幸せになるために、この事件解決させていただきます。

亜沙美多郎

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番外編〜エリアスとアシルの出会い編〜

思いがけないひと時

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 部屋にこもっているのが億劫で仕方ない。
 天気の悪い日ならば諦めもつくのだが、朝、目覚めた時に晴れていると、今日はクラリッサが来てくれるだろうかと気持ちが逸る。

 エリアスからはそのうち愛想を尽かせて追い出されるだろう。
 そのほうが良いと思っている。
 オメガなんかが公爵家にいて良いはずもない。クラリッサ以外の侍女は、腫れ物に触るような対応だ。なので未だにアシルも心を開けないでいる。

 部屋に置いている本も読み尽くした。次にクラリッサが来てくれた時に、頼んでみようかと思う。
 ベルクール家の物には手を出すわけにはいかない。
 けれども幸い彼女はここで寝泊まりとしているわけではない。
 学生ならば図書館も利用するだろう。そこで借りてきてもらえないだろうかと持ちかけてみるつもりだ。

 一人で引きこもっていた時は、全てにおいて悲観的にしか考えられなかったが、最近では暇な時間の過ごし方も有意義になってきたと思える。

 窓際のデスクに座り、父と母に手紙を書いた。
 元気でやっているから心配いらないと。
 エリアスとの関係については敢えて触れなかった。嘘は書けないし、避けているとも言えない。
 平穏である旨を記しておけば、両親も深くは考えないだろうと思った。
 ハーブ園で摘んできたフェンネルを一本挟んでおいた。

 今日世話に来てくれた侍女に手紙を出して欲しいと頼むと、宛先がクローシャー家であることを確認し、預かってくれた。

 次にクラリッサが来てくれたのは、前回ハーブ園に行ってから四日経っていた。
 学校が忙しかったようだ。「頑張って」と励ます。
 次に来られるのも四日後くらいになりそうだと言われ、残念ではあるが、彼女の本業は学生なのだから仕方ない。今度来る時に、なんでも良いから本を借りてきてほしいと頼むと快諾してくれた。やはり、なんでも彼女になら話しやすくて安心する。

「早速、ハーブ園へ行かれますか? エリアス様も私と入れ違いで出かけられたそうですし」
「じゃあ、行きたいです」
「お茶をお持ちしますね」

 四日しか経っていないのに、久しぶりのように思えた。
 見た目は若く見えるアシルも成人している。それでも草花に囲まれている嬉しさは抑えられず、子供のようにはしゃいでしまうのだ。

「今日もハーブを摘んでも良いですか?」
「勿論です」
 クラリッサも一緒に沢山のハーブを選んだ。
 次にここに来られるまで日が空いてしまうので、部屋にも飾ってもらうよう頼んだ。

「アシル様、そろそろ休憩いたしましょう」
「そうですね。ここにいると時間を忘れてしまいます」
 二人でガゼボに移動し、ハーブティーを淹れてもらう。
 ホッと一息淹れていると、突然胸騒ぎがした。
 ハーブ園に近づいてくるアルファの気配を感じる。
 じっと入り口の方を見ていると、やはり思っていた人物の姿を確認した。

 出かけたとはいえ、大した用事ではなかったのかもしれない。
 ここに来るのが珍しいわけでもない。
 いつかこんな日が来る可能性も、頭のどこかでは覚悟していたのに、ガラス越しでなく面と向かって顔を合わせるのはベルクール家に来た日以来だ。

「アシル様、どうかされましたか?」
 クラリッサはまだ彼の存在に気づいていない。
 出入り口は一箇所しかなく、今から走って逃げても遅い。
 緊張で体が強張っている。
 クラリッサもようやくアシルの視線の先へ顔を向けると、「あっ」と声を漏らした。

 彼方もアシルに気付いたようで、ふわりと柔らかい笑みを浮かべた。
「アシル! 最近は体調が良いようだね」
「はい……。その節はすみませんでした」
 ようやく動いた体で立ち上がると深々と頭を下げる。
「謝る必要などない。君の体調を心配していたのだが、最近はここからよく笑い声が聞こえると侍女から聞いたものでね。私も合間で様子を見に来ていたけれど、すれ違ってばかりいたようでやっと会えた」
「騒がしくして申し訳ありません。大人気なかったと反省しております」
「まさか!! 私も一緒にはしゃぎたくて来ていたのに」

 エリアスは座るよう促し、自分も隣に腰を下ろした。
「毎日のハーブティーは楽しんでもらえてる?」
「はい。とても美味しく頂いております」
「そうか、良かった。私がセレクトしているんだ。喜んでくれているなら選び甲斐もあるというものだ」
「エリアス様がハーブをブレンドしれくれていたのですか?」
「私の好きなブレンドを料理長にメモを渡して作ってもらっている。同じものをアシルにも出してくれと頼んでいたのだ」
「そうだったのですね」

 知らないうちに、毎日エリアスと同じものを飲んでいたとは考えが及ばなかった。

 エリアスはじっとアシルを見詰め、楽しんでいる。
 見詰められると恥ずかしくて顔を伏せてしまうアシルの頬を、エリアスの指で撫でられた。
「会いたかった」
 真っ直ぐに伝えられ、言葉を詰まらせてしまう。
 社交辞令だ。
 正式な婚約者のいる人だ。期待してはいけない。

 さっきまでリラックスしていたのに、途端に上手く喋れなくなってしまう。
 触れている指先からエリアスの匂いが鼻腔をくすぐり、ハーブよりも惹かれてしまう。
 
 クラリッサがアシルの様子を見て心配そうにソワソワして落ち着かない。
 離れなければ……そうは思っても、体と心は裏腹だ。
 一瞬でも気を抜けば、この指に頬を擦り寄せてしまいそうなほど心地いい。

「もっとアシルといたいけれど、行かなくてはならない」
「はい……」
 安堵したような、寂しいような、曖昧な返事をした。
 エリアスは本当に名残惜しそうにアシルの頸に鼻を擦り寄せ、匂いを嗅いだ。
「良い香りだ」
 ヒートを起こしてしまうかと焦った。
 エリアスの匂いを嗅がないよう、咄嗟に息を止めた。

「また、ここで会おう」
「はい」
 それだけ言うと、エリアスは本当に行ってしまった。
 時間にしてほんの数分の出来事だが、脱力した途端、どっと疲労が押し寄せた。

 エリアスの姿が見えなくなると、アシルも自室へと戻り泥のように眠った。
 久しぶりに見たエリアスが、瞼の裏でも微笑んでいた。
 
 
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