【完結】『拝啓、親愛なる王子殿下』代書屋オメガの秘めたる愛を綴ります。

亜沙美多郎

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第三章

再会

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 ドミナクス辺境地からの出荷停止からしばらく経っていた。
 このノルディラ街は商業に特化した街ゆえ食材などを市場に買い付けにいく人が多く、ドミナクス辺境地からの出荷停止が実現された時点で領民も『何かある』とは察していただろう。
 そこから満月三周近くが経っていた。
 監察官に密告書を送り始めたのはさらに満月二周ほど前に遡る。

 それほど大掛かりな調査になるとは、レオナルト公爵も予想していなかった。
 発端は、せいぜいヴェイルハート家の没落に関係している……その程度にしか考えていなかったはずだ。
 しかしこの長期に及ぶ調査の末に、本当にドミナクス辺境伯が爵位を剥奪されたとすれば、チップがレオナルト公爵の手柄になったのは間違いない。それにチップへの礼として、フェアボーン侯爵とスカーデン伯爵を紹介したというのも妥当な対応になる。

 もし、さっき聞こえたのが聞き間違いではなければの話だけれど……。
 
 今日は午後からエルネスト王子殿下が来店される予定の日。私が手紙を書けていれば、クロマが色々聞き出してくれたかもしれない。でも発情期で手紙が書けなかった。
 来てくれたところで、クロマから謝罪して納期を伸ばしてもらうくらいだ。
 忙しいエルネスト王子殿下も手紙がないなら店にいる必要もない。

 私はまだ発情期が明けたばかりで、それも完全に終わったわけでもなく体は怠い。
 約一年ぶりの発情期に、憔悴しきっていた。
 体は汗と精液、オメガの液でベトベトしている。湯浴みをしてすっきりしたいが動くのが億劫だ。
 ベッドに横たわり、ほぼ全裸の体にシーツを巻き付ける。

「今日は声すら聞けない……」
 エルネスト王子殿下の『王子』としての姿を一度でいいから正面から見てみたい。
 背後から少しだけ姿が見えただけでもゾクリとするほどの色気だった。
 クロマが言っていた、数々のご令嬢がエルネスト王子殿下と結婚するために熱い闘志を燃やしていると。それも納得してしまう。そりゃ、あんなにもアルファ性が強く、しかも眉目秀麗。そして第三王子……。
 本来、私が独り占めしていい人ではない。
 それでも会いたいのだから仕方ない。

 そろそろ、到着する時間だ。
 発情期が明けても、エルネスト王子殿下が来るとなれば本能は疼く。
 目を閉じて馬車の音に耳を澄ます。
 あぁ、これだ。この音はまさに王家の馬車……。
 馬の走る音と車輪の音を聞いているうちに、心地良くなって寝てしまった。
 発情期で体力がかなり消耗している。いくらでも寝られそうだ。
 そこで音は途切れて深い眠りについた。

 次に目を覚ました時、王家の馬車は店の前に停まっていた。
「しまった。もう、帰ってしまうかもしれない」
 飛び起きたいが、食事も碌に食べてなくて足に力が入らない。ベッドからも起きられなくて、クロマが様子を伺いに来てくれるまでは我慢するしかないと諦めて横たわる。

 やがて階段を登ってくる足音が聞こえてきた。しかしクロマのものではない。
「誰……だろう」
 上体を起こし、ドアを見つめる。この街に来て、初めて目覚めた時と同じだ。その時に現れたのはクロマだったが、今はクロマの足音だけは分かる。

 ドアをノックされ「はい」と小声で返事をする。シーツだけで体を隠しているだけだと忘れてしまっていた。今更遅い。ドアは半分開いてしまっている。これでチップでもなければ逃げ場はない。
 心拍数が跳ね上がる。
 心臓が飛び出しそうなほど大きく伸縮している。

「え……? なんで?」
 姿を見せたのは、想像もしていない人だった。
 あまりに驚きすぎて目が点になる。なんで、ここにいるんだ……。

「サラ……」
 紛れもない、部屋のドアを開けて入ってきたのは侍女のサラだった。
 サラは私を見て立ち止まると眉根を寄せて泣くのを耐え、必死に笑顔を取り繕う。
「エクラ様……」
「サラ、なんで? なんでここに、サラがいるの?」
 慌ててベッドから降りようとし、シーツに足が絡みついて転げ落ちてしまった。
 体を打つ鈍い音がし、サラが駆け寄る。
「まぁ、まぁ、相変わらずですね。クロマさんから発情期だと聞きましたよ。湯浴みの準備を整えてもらっています。どうぞ、私に手伝わせてください」
「待って、サラ。理解が追いつかない。先に説明してよ」
「湯浴みをしながら、ゆっくり話しましょう。時間はたっぷりと頂いておりますから」

 サラに体を委ね、なんとか立ち上がる。
 それだけで、私が数日食事をとっていないとバレてしまった。
 クロマの家の浴室は伯爵家の離れと同じくらいの広さがある。
 先代が湯浴みが好きな人だったらしく、足を伸ばして入れるようにと設計したそうだ。
 なのでサラと二人でも、充分ゆったりとできた。

 頭から足先まで全身丁寧に洗ってくれ、持参したといういい香りの香油で血行をよくするマッサージまでしてくれた。
 気持ちいい。疲れが湯に溶けて流れていくようだ。

「ねぇ、サラ。それで、どうしてここに私がいると知ったの? どうやってここまで来たの?」
 ようやく落ち着いて話せるくらいになり、浴槽から上肢を乗り出し、サラに問いかけた。
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