【完結】『拝啓、親愛なる王子殿下』代書屋オメガの秘めたる愛を綴ります。

亜沙美多郎

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第三章

再会②

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 サラはあの日のことを思い出しながら話し始めた。
「エクラ様を見送った後、私は街の飲み屋で住み込みで働かせてもらっていました。もう一度、侍女として働ける見込みはございませんでしたし、エクラ様以外の方に仕えたいなんて願望もなかったですから」

「でも、サラくらいの人が飲み屋で働くなんて……想像もつかない」

「飲み屋を選んだのは、アッシュヴェイル第三王子殿下に会えるかもしれないと期待できる一番の店だったからです。エクラ様は突然旦那様から政略結婚を言い渡され、約束の日の夜、草原の丘へ行けなかったでしょう? あれは約束をすっぽかしたのではないと、私が殿下に伝えなければならない。それが私のエクラ様の侍女として、最後の仕事だと思いました」

「サラ……」
 サラだって、私がヴェイルハート家を出た後直ぐに追い出されたはずだ。
 きっと馬車すら使わせてくれなかっただろう。
 オメガの匂いがついた侍女を馬車に乗せる父ではない。

 サラは歩いて街まで行った……。

「それで、エルネスト王子殿下と会えたということ?」

「えぇ、結果的には。でも直ぐに会えたわけではなくて……あれはどのくらい経っていたでしょうね。エルネスト様も満月の夜の翌日からお忙しくて、しばらく地方を巡回していたと仰ってましたから」

「……エルネスト様?」
 サラがエルネスト王子殿下をそんな風に呼ぶとは意外で、どうしても引っかかった。
 サラは私の違和感に気付いたらしく、静かに微笑んだ。

「今は、エルネスト様専属の侍女をしております。街の飲み屋で会えた時『俺の許で働かないか』と引き上げてくださったのです。私の話を聞いて、エルネスト様はエクラ様を見つけ出すと意気込んでおられました。本当は、私とエルネスト様が再会を果たした直ぐに、エルネスト様はドミナクス辺境伯領地を訪れてらっしゃるのですよ」

「エルネスト王子殿下が!?」
「えぇ。しかしエクラ様、逆上せてしまいますから、ここで一旦話を止めてお部屋に戻り着替えましょう」
「そうだった。話に夢中になっちゃった」
 サラとの話に夢中になり、浴室だというのを忘れてしまっていた。
 新しいタオルに包まれ、部屋に戻ると、サラは私に新しい服を準備してくれていた。

「こんな立派な服……エルネスト王子殿下が?」
「えぇ。エルネスト様は、ドミナクス辺境地からエクラ様を連れ出そうとしておりました。でも、その頃にはエクラ様の姿はどこにもなく……そこからずっと諦めずに居場所を探していたのです」

 私の知らないところで、そこまで動いてくれているとは思いもよらなかった。

 しかしエルネスト王子殿下がドミナクス辺境地まで足を運んでくれたのがいつ頃だったと聞いてところで、私は時系列を合わせられない。
 奴隷として働く頃には、時間すらも気にしていられなかった。

 そもそも、私は領民から認知されていなかったはずなのだ。
 ドミナクス辺境伯は婚約者を迎えたという名目で寄進を促したが、私の名前すら公表しなかったと思われた。いつどこの領地から婚約者を迎え入れたのかを誤魔化すためだ。
 私がオメガとして機能しなくなった時、また新しいオメガを娶るかもしれない。それをいちいち全て領民に知らせるのは都合が悪い。
 
 だから私は深夜に到着するよう、わざと仕向けられていたと、今なら理解できる。
 『領民に認知されないため』
 あの時間なら、街を彷徨いていても酔っぱらいくらいなもの。だから伯爵家の馬車を見かけたところで覚えている可能性は限りなくゼロに近い。
 そして私は直ぐにあの部屋に監禁され、領民の前で正式に紹介されたことはなかった。

 サラは話をしながらもテキパキと身なりを整えてくれた。

「さぁさ、それではこの先は、ご本人とお話しください」
「……本人?」
「えぇ、エクラ様とて、発情期後の情けないお姿は見られたくありませんでしょ? それを整えながら、私とエクラ様が話をする時間を設けてくださったのです。でも、もう我慢できなくてそこまで来られていると思います」
 サラがクスクスと笑って言う。
 そう、私も薄々感じていた。
 これが発情期前なら、確実にヒートを起こしていた。症状の酷い発情期が明けたから、近くにいても平常心でいられたのだ。

 サラが立ち上がったので私も従う。
 ドアに向き合い、その時を迎える心の準備はしっかりとはできないし、高揚する心も抑えきれない。
 いよいよその時が来るのを、私はまだ半分夢見心地で待ち構えていた。

 サラがドアを開け、一礼すると部屋から出ていった。
 代わりに入室したその人と目が合い、私はせっかくサラが整えてくれた身なりが崩れてしまうほど泣き崩れてしまった。

「エクラ、やっと迎えに来られた」
 エルネスト王子殿下は私に近寄り背中を撫でてくれた。
 話したいことは沢山ある。
 けれど私に触れるその手が、その声が、あまりにも優しくて、私は言葉を失って嗚咽が出るほど泣き崩れたのだった。

「エクラ……君の名前を呼んでもいいのだろう? 俺の声で」
 エルネスト王子殿下は蹲った私をベッドの端に座らせ、自分は跪くと、頭を撫でながら繰り返し何度も私の名前を呼んでくれた。
 
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