僕らは青くて儚い世界で恋をする──【青春BL短編集】

亜沙美多郎

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夏が二人を溶かすまで【r-18】

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『駅、着いた』
 スマホの画面に映し出されたメッセージに、口元が緩むのを我慢できなかった。
「蓮くん……」
『僕も、もうすぐ着くよ』
 手短に返事を返すと、再び自転車を漕ぎ始める。
 真夏の太陽が容赦なく照りつける午後。汗で体にTシャツが張り付いているのも無視して、とにかく最寄りの駅へと向かう。

 蓮の姿を確認すると、胸が高鳴った。
 一年ぶりの再会。去年より、また背が伸びていそうだ。

 蓮は中学生の頃、親の離婚が原因で都会へと引っ越していった。
 母の実家があるため、毎年夏になると帰ってくる。
 千紘が蓮と会えるのは、一年でこの一週間くらいしかない。

「蓮くん!! 待った?」
「別に、待ってないよ。凄い汗。急がなくても良かったのに」
「だって、早く会いたくて」
「俺、犬飼ったら千紘って名前付けるわ」

 蓮が笑いながら言う。
 千紘が尻尾を振って駆けてくる犬みたいだと、毎年同じセリフから二人の夏が始まる。
 そう言いながらも、蓮は動物を飼わないと千紘は知っている。
 蓮は別れを極端に避ける傾向にあるのは、きっと幼い頃に他界した祖父や、可愛がっていた犬が轢き逃げされたことや、都会に引っ越して直ぐの頃に付き合っていた彼女が、簡単に他の男に乗り換えた経験が関係していると、千紘は思っていた。
 幼い頃から人気のある蓮が、今では特定の恋人を作らないのも本人から聞いて知っている。

 だから……と言うわけではないが、千紘は自分の気持ちは絶対に蓮には告げないと決めている。
 もし振られたら立ち直れないどころか、夏に帰ってきてくれなくなるかもしれない。
 そもそも、今年で高校を卒業する彼が、大学生になっても母親と一緒に帰省するなんて保証はない。
 要するに、この夏が千紘と蓮にとって、最後の夏になるかもしれなかった。

 なので、尚更、蓮との思い出を大切にしたいのだ。

 蓮の母に挨拶をすると、二人で歩いて帰ると言い、荷物だけを母に預けた。

「いいの? タクシーの方が涼しいのに」
「せっかく千紘が来てくれたのに、放っておけないだろ」
「あ、僕、ごめん。待ちきれなくて」
「なんで? 嬉しいよ。こんなに汗だくになって来てくれたんだもん」

 蓮は優しい。
 夏なのに日焼けしていない白い手で、千紘の汗を拭う。
 手首から香水の匂いがした。
 それだけで随分と大人に感じて、心臓が跳ねる。
 自分は汗臭くて恥ずかしい。早く家に帰ってシャワーを浴びたい。

「こっちは暑さがまだマシだよ」
「そうなの? こんなに暑いのに?」
「都会はコンクリートしかないからさ、照り返しで上からも下からも炙られてる気分になる」
「そうなんだ」

 駅前は流石に少しは都会的に進化を遂げたが、少し歩けば道路の周りは畑や田んぼに囲まれている。
 東から吹く風が、Tシャツの袖の隙間を通り抜けた。

「蓮くんはこのまま家に帰るでしょ? 夜にまたお邪魔するね」
「本当に田舎の人って宴会が好きだよな。未成年だからまだマシだけどさ、これが成人してたらぶっ倒れるまで飲まされるんだろうな」
「本当に、みんなよくあれだけ飲めるよね」
「千紘が来てくれないと、俺マジで地獄だから、絶対来てよ?」
「うん。汗流して綺麗にしてから行くよ」
「そんなの気にしなくていいのに」

 蓮はいい匂いがするのに、自分は汗臭いなんて耐えられない。
 なんの香水を使ってるのか聞きたいけど、もし買ったところで田舎じゃ到底使えっこない。
 
 都会に行っても蓮の人気は健在のようで、さっきからひっきりなしにスマホがなっている。
「全部メッセージだから、家帰ってからまとめて返事する」と言って、千紘の前では一切スマホを取り出さなかった。
 千紘は、自分との時間を大切にしてくれているのかと思い、嬉しくなった。
 蓮が向こうに帰っている間は、千紘からは連絡を入れないようにしている。迷惑をかけたくないから。
 だから、たまに魔が差したように蓮からかかってくる電話が、何よりも嬉しい。
 電話を切った後もその余韻から抜けられず、ひとしきり自慰に没頭する。

 女の子が羨ましい。蓮に抱いてもらえるのだから。
 どんな風に女の子を抱いているのだろうか。甘い言葉を囁くのだろうか。
 あの長い指で奥まで掻き乱して、激しく腰を振るのだろうか。
 想像しただけで、体が疼いてしまう。

 千紘は自宅に帰るやいなや、風呂場に駆け込んだ。
「んっ……はぁ、ん……れん、くん……」
 シャワーを浴びながら、隠し持っているオイルで孔を解す。
 自分は抱かれたいタイプの人間で、蓮を想って自慰をしているうちに、孔を弄らないとイけなくなってしまっていた。
 
「っく……ぅぅん……」
 ここに蓮のものが入れば、どんな感じなのだろう。奥まで突かれてみたい。
 そんな風に思うのさえ、罪悪感に苛まれる。
 自分の気持ちを伝えたりせず、少しでも長い間隣にいたい。だからこの行為だけは許してほしい。

「蓮……蓮くん……んんっ……い、イく……」
 絶頂を迎えようとした直前、ドアの向こうから突然話しかけられた。
「千紘、ちょっといい?」
「は、え……?」
 あと数回、屹立を扱けば果てる……というタイミングだった。
「悪りぃ、俺もシャワー入らせて。婆ちゃんちの、調子悪いみたいで」
「えっと、ちょっと待って……」

 昂ったそのままの状態を見られるわけにはいかない。
 しかし千紘の返事を待たずに、蓮がドアを開けて入ってきてしまった。
 慌てて座り込み、見上げると、裸になった蓮がそこに立っている。
 不覚にも綺麗だなんて思ってしまう。

「ま、待って、すぐに出るからって、や……なに……?」
 蓮は千紘の腕を握り、隠していた中心を晒そうとする。
「今、俺で抜いてただろ?」
「な……そんな、わけ……」
「途中から、聞いてた。俺のこと、そう言う目で見てたんだ?」

 シャワーに打たれた蓮の髪は直ぐに濡れて、滴る湯がさらに色気を醸し出す。
 千紘の手を頭上で押さえつけ、濡れた唇で千紘のファーストキスを奪った。

「んっ……はぅ……」
「こんなこと、したかった?」
「ちがっ……」
「素直じゃないね。勃ってるの、丸見えだっつの」
 もう片方の手で膝を開かせる。そこから露わになったのは、さっきイキ損ねた屹立だ。
 自分の気持ちがバレるわけにはいかない。
 しかし、この状況を打破する術を千紘は持ち合わせていなかった。

 蓮は千紘の耳元に顔を寄せ「抱いてやろうか?」と囁く。
 全身がゾクゾクと戦慄いた。
 抱かれたい。蓮に抱かれたい。しかし、蓮は女の子が好きなノンケだ。
 千紘相手に勃つはずもない。
 それに、セックスの経験もない千紘で満足なんてしてもらえるわけないと自分に言い聞かせる。
 それで嫌われるのだけは避けたい。

「蓮くん、ダメだよ。こんなこと」
「先にやったのは千紘だろ? 素直に言えよ。千紘は誰に抱いてほしい?」
「……」
「言わないなら、言うまで離さねぇ」

 浴槽の端に置いてあったオイルと手にとり、自分の手に垂らす。
「おら、脚持っとけ」
 強引に膝を限界まで開かせると、千紘自身に支えさせる。
 丸見えになった中心を、蓮は躊躇いもせず握った。

「んんぁぁあっっ!! 蓮、そんな……あっ、ダメ……」
 蓮は屹立を扱きながら、指を窄まりへと当てた。
 そして二本の指をプツりと侵入させる。
 さっきまで自分で弄っていた孔は、簡単に蓮の指を飲み込んだ。
「こんな簡単に入るもんなの? 男となんてヤッたことねぇけど、これが気持ちいいん?」
「んっ、ふ、ぅん……」
「……えっろ」

 不敵に笑ったかと思えば、いきなり激しく孔の中を掻き乱し始める。
 オイルが中で撹拌され、卑猥な音が浴室に響く。
「あっ、ダメ。そんな激しくされたら……や、ぁああっっ」
 千紘は腰を突き上げ、白濁を飛ばした。それが蓮の顔にまで飛び散った。

「ごめん。蓮くん」
 蓮は面白いおもちゃを見つけたような顔で、千紘の白濁を舐めとると「立て」と言って壁に手を付かせた。

「男同士って、ここに挿れるんだろ?」
 千紘の窄まりに、蓮の男根が宛てがわれた。
「え、蓮くん……?」
 確認する暇もないほど蓮の男根が這入ってくる。
 蓮の中心が昂っていることに驚きを隠せない。男相手の、しかも幼馴染だった千紘に欲情してくれている事実が嬉しかった。

「れん……あっ、入ってくる……おっきいのが……」
「中、きっつ。やべぇな、これ。女より締まるじゃん」
「あっ、んんっ、んぁ……」
 これは現実なのだろうか。今、ずっと想いを寄せていた蓮と繋がっている。
 蓮は遊び……と言うよりも、完全に興味本意の行為だ。
 それでも体が喜んでいる。
 体が揺れるたび、蓮のものが奥を抉るように押し入ってくる。

 腰を鷲掴みにされ、容赦なく注挿を繰り返す。
 最奥にぐりぐりと押さえ込むように腰を突き上げた。

「ひっ、なに……こんなの知らない……」
「こぉら、腰逃げんなって」
「ダメ、これ……だめぇ」
「だめって、それって気持ちいいってことだろ?」
「はっぁあっっ!! んぁぁっっ、変になる……やらぁっっ」

 背後で蓮が興奮しているのが息遣いで分かる。
 千紘の言葉など、耳に入ってもいない。
 好奇心で犯した男の体が、想像以上に良かったことに、愉悦しているように律動を早めていく。

「はぅ、あっ、んぁあっ、ん……いく、また……イくぅぅ!!」
「俺も。中に出していい?」
「うん、いいからぁ。蓮くんの頂戴……」
「良い子。受け取って」

 蓮の律動は苛烈を極め果てると同時に思いきり突き上げ、頸にキスをした。
「はぁ……あ、蓮のが……」
 腹の奥の方で、温かいものが注がれているのを感じた。
 蓮が何度か腰を打ちつけ、最後まで千紘の中に吐精する。

「はぁ、あっちぃ」
 ぬるりと男根を抜いただけで、千紘はまた果て身震いをした。

「千紘って、男とやってるわけ?」
 そのままシャワーを浴びながら蓮が言う。
「違う。今のが、初めてで……」
「え、マジ?」
 引かれるかと思いきや、蓮は意外にも喜んでくれた。
「俺らさ、相性良くね?」
 シャンプーの泡を立てながら尋ねる。千紘は返事に困りながらも頷いた。

「なに? なんか不満だった?」
「そんなことない!! 僕はずっと蓮くんが好きだったから……その……嬉しかった」
「へぇ…いつから?」
「そんなことまで言うの? あの、小学生の……」
「ガキじゃねぇかよっ」

 蓮はへたり込んだ千紘の髪も一緒に洗う。
「さっさと出て、も一回やろうぜ」
「え、僕もう腰が抜けて立てない」
「なに爺さんみたいなこと言ってんだよ。本当のセックス教えてやるよ」

 蓮はいつもと全然違うキャラになっている。あの爽やかで優しい蓮の姿は僅かにも見られない。
 セックスをする時だけ意地悪になるのだろうか。
 
 孔から流れ出た自分の精液に「ヤベェ」と呟いた。
 こんな言葉を使う蓮を、千紘は今年になって初めて聞いた。
 都会に行って、変わってしまったのかもしれない。

 結局、全身蓮が綺麗に洗ってくれて、孔に出された性液も書き出してくれたのだが、その時にまた達してしまい、随分笑われた。

「千紘って初めてなのに感度最高じゃね?」
 蓮はどこかワクワクしていて、早く千紘の部屋に行こうと急かしてくる。
 半ば抱えられるようになんとか二階の自室まで辿り着くと、クーラーの風がひんやりと二人の体を包み、同時にため息を吐いた。

「天国だ。気持ちいい」
 蓮はそう言いながらもさらに設定温度を下げる。これからまた暑くなるからと、嬉しそうに言った。
 ちゃっかり風呂場からオイルまで持ってきていた。
 自分の部屋にもあるとはとても言えない。

「今日、おばさん達はどうせ俺んちで酔っ払って寝るだろ? 一晩中やれるじゃん」
 蓮がとんでもないことを口走った。
 一晩中だって? 今はまだ夕方にもなってない。
 そんなの、お互い体が保つわけがないだろうと思った。
 しかし蓮は続ける。

「俺、性欲強くてさ。向こうでセフレが何人かいるんだけど、全然足りねぇの。でも女って限界あるじゃん? で、いい方法を探してたんだけどさ。まさか男とやるとか、思いつきもしなかったわ。千紘のおかげだ」
 蓮はありがとうと言いながら、口付けた。
 遊びだと言われているようなものなのに、それでも自分と体を重ねることに意欲を示してくれているなんて幸甚の極みと言いたいくらい嬉しい。
 蓮のためなら、多少無理をしても応えてあげたいとさえ思う。

「蓮くんの好きにしていいよ」
「千紘。お前ってそんなに可愛かった?」
 キスを続けながら言う。
 可愛いだなんて言われれば、もっと褒められたくなってしまう。

 しかし蓮の鞄の中ではスマホがずっと鳴り止まない。
 しばらくは無視していた蓮だが、向こうも必死だと伝わってくるほど鳴り続けるコールに、ついにキスを中断し、蓮が通話ボタンを押した。

「うっせーよ!! もうかけてくんな!!」
 それだけ言うと、スマホを投げ捨てるように鞄に戻した。
「いいの? そんな一言で」
「あ? いいのいいの、セフレのくせに俺に他にもセフレがいるって分かった途端、彼女面されて困ってた。で、ストーカーになりかけてて、むしゃくしゃしながら帰ってきたんだけど、俺こっちでは猫被らないといけなくてさ。本当は帰ってきたくもなかったんだけど」
「なんで、そんな性格を隠すの? 自分の実家なのに?」
「婆ちゃんだけは悲しませたくねぇんだよ。心配症なの、千紘も知ってるだろ?」
「やっぱり、蓮くんは優しいね。僕はどっちの蓮くんもす……んんんっと……」
「す、なに?」
「えっと、その……素敵だと……思います……」
「んだよ、それ。好きだって言えよ。風呂では言えたじゃん。俺は結構好きだぜ。千紘のこと」

 蓮の好きとは種類が違うと言いかけたがやめた。
 せっかく好意を向けてくれているのだから、ありがとうと返した。
 けれど蓮はそれでは納得しないらしい。

「俺は言ったから、千紘からも言ってよ」
「何を?」
「だから、今言いかけたこと」

 真正面から視線を捉えて離さない。
 これはきっと言うまで許してもらえないやつだ。

「あの、蓮くんが……好きです」
「ん、知ってた」

 そりゃそうだ。さっきシャワーを浴びながら自慰をしているのを聞いていたのだから。どれだけ本気かは明確だ。
 嵌められた。と思ったが、一生隠していく予定だったセリフを、蓮から言わせてもらえたのはラッキーだったかもしれない。

 蓮は千紘の体に早く触れたくて仕方ないと言いたげに、タオルを剥ぎ取り全裸にした。
 
 キスをしながら手で体を愛撫していく。
 胸の先で硬くなった小さな蕾を指で弾くと、千紘は甘い吐息を吐き出した。
 それに反応するように蓮が執拗に弄ってくる。
 摘んだり撫でたり爪を立てたり、巧みに指で責めてくる。

「乳首も感じるなんて、女みたい」

 蓮は千紘が声を出すと嬉しそうだ。
 男の声で喘いで萎えてほしくない千紘は、どうにか押し殺すが、そうすると蓮は更に激しく責めてくる。
 もう片方の乳首をじゅるりと吸い上げてきた。
 乳暈に沿って舌で辿り、舌先で乳首を転がす。
 
 それだけでも果ててしまいそうなほど気持ちいいのに、下半身の昂りを会陰に当ててくるからタチが悪い。
 胸も下半身にも刺激を与えられ、千紘が平気でいられるはずもない。
 蓮の思惑通り、千紘は瞬く間に果ててしまった。

「ほら、千紘が俺にして欲しいこと、言ってみ?」
「もう、これ以上は何も……」
「そんな嘘は通じない。だって、イったのに萎えてないじゃん。これって期待してんじゃないの?」
「あんっ」
 
 蓮が昂りを根本から扱く。
「早く言って。俺にどうしてほしい?」
「んぁぁん……い、挿れて……ほし……」
「どこに? 何を?」
「僕の、ここに、蓮くんのおっきいの」
 
 千紘は脚を自ら広げ、窄まりを手で広げる。

「やっぱいいわ。千紘、最高にエロい体。もっと早く知りたかった」

 蓮は自分の男根を千紘の孔に当てたと思った次の瞬間、最奥まで一気に突き上げる。
「はぁぁぁ~~っ!!」
 もう声を我慢するのも無理だった。与えられ続ける快楽に、淫蕩している。
 大好きな蓮の余裕のない顔すらも、千紘の劣情を唆る。
 自分で気持ちよくなってくれている事実に喜悦した。

 蓮は途中で一旦止まり、今度は胡座を描いて座る自分の上に千紘を跨らせ、下から突き上げた。
 さっきよりもっと深いところまで男根が届き、全身に快楽の波が押し寄せる。
 ビクンっと大きく痙攣し、果てたと思ったが、吐精はしていなかった。

「千紘、初めてのエッチでメスイキするなんて、本当に最高だな」
「そんなこと言われても、分かんない。何されても気持ちいい」
「本当、可愛いな、お前って」
「んぁっ」
 蓮が真下から腰を打ち込む。目の前に星が散るほどの刺激だった。
 しかし気付けば千紘は自ら腰を振り、何度も吐精せずにイき続けた。

「今、突いたら天国見るから」
 蓮が悪戯に言うと、千紘をベッドに寝かせ、激しく律動し始める。
「んぁぁっ!! ひぃ、んっっ……はぁぁぁ!! 止まんない。シャセーが止まんないよう」
「ほら、思い切りイキな?」
「はぁぁ!! や、あ、だめなやつ、出る……止めて、蓮くん……あ、だめ、おしっこ出ちゃう……ダメェぇぇ」

 千紘の先端から、盛大に放出された液に、蓮はこの上ない笑みを浮かべる。

「千紘、これ潮吹きだよ」
「そんな……恥ずかしい」
「それだけ感じてくれてるってことだろ? 俺は嬉しいけどな。ほら、続きするよ」
「え、や、待って。イったばっかで、本当にやばい」
「そう、やばい感覚、味わいたいだろ? もう、俺じゃないと満足できない体にしてやるから」

 蓮は再び腰を揺らし始める。
 部屋で始めてから、まだ一度も達していないことに驚いてしまう。
 さっきお風呂で一回果てたからか。
 結局、千紘は蓮が果てるまでイきっぱなしの状態が続いた。

 そして最終的には意識を失ってしまい、そのまま記憶を失う。
 次に目が覚めた時には、外は真っ暗になっていた。

「僕、眠ってしまって……」
 隣には蓮がいた。
 千紘の体をキ綺麗に拭き、Tシャツを着せ、シーツを除けて……。
「これ、全部蓮くん一人でしてくれたの?」
「当たり前だろ。俺が無茶させたんだから。体、痛いだろ? 寝てろよ。なんか食う?」
「今はいらない」
「そう、じゃあ、もうちょい引っ付いてよ」

 蓮は腕枕をして包み込んでくれた。

「蓮くんに抱かれる人は幸せだね」
「こんなこと、誰にでもしねぇよ。ってか、千紘だけ!」
「え?」
「え? じゃねぇだろ。俺、セックスした後にこんなに満たされるの、初めてなんだ。千紘のおかげ」
「僕も、初めてが蓮くんで嬉しい」
「は? それって、今後は違う奴とするって言いたいわけ?」
「そんなこと、言ってない!! だって、僕もう十年も蓮くんだけが好きだったんだよ?」
「じゃあ、これからも俺だけ好きでいろよ」

 思いがけない言葉に目を丸くする。

「好きでいて、いいの?」
「千紘だけ、特別な」
「嬉しい。ありがとう!! 蓮くん公認なんて、思ってもみなかった」
「おい、千紘。どうも勘違いされてる気がしてならないんだけど、千紘は、俺の恋人になったって意味だからな?」
「こい……恋人!? だって、特定の人は作らないって……」
「だから、千紘だけは特別って言ったんじゃん」
「嘘……」

 千紘は感動のあまり、喋れなくなってしまった。
 少しでも声を出そうとすれば、涙が止まらなくなりそうだった。
 十年拗らせ続けた片思いが、こんな形で実を結ぶなんて誰が思うだろうか。

「俺に言うことは?」
「よろしくお願いします」
「よろしい」

 それから、蓮がまた都会に帰るまでの一週間は、殆ど体を重ねていた。
 限られた時間を惜しむように。
 蓮は殆どの日を千紘の家で過ごし、朝から晩まで出かけもせずに体を求めた。

「千紘さ、高校卒業したらこっち来いよ。んで、一緒に住もう?」
「絶対そうする。だから、待ってて」
「勿論。これからは、もっと帰ってくるから。ってか、離れるのが名残惜しいなんて初めてだわ」
「僕は毎年そうだったけどね」
「生意気」

 二人で顔を見合わせて笑い合う。

「でも、蓮くん。離れてる間はせセフレとヤッてもいいけど、本気にはならないでね?」
「は? どこは千紘以外のやつとセックスするなって言うのが普通じゃね? ってか、そう言えよ。どこに浮気してもいいなんて言う恋人がいるんだよ」

 蓮は都会だからって言っても新幹線ですぐに帰って来られるだろ、と言って、千紘の髪をぐしゃぐしゃに掻き乱した。

「じゃあな、また連絡する」
「僕からも、連絡していい?」
「連絡来なかったら怒る」

 そうして蓮は帰っていった。

 二人を繋ぐ名前が、変わった夏のお話……。


———完———
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