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〜1学期編〜

リナリアの花言葉 ーside 磨理王ー

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【リナリア】
G.W.頃、満開を迎えるリナリア。花が金魚似た形から、和名では"姫金魚草"と言われている。
この時期、公園なんかでは鮮やかなブルーの花"ネモフィラ"や、絨毯の様にピンクが蔓延る"芝桜"の方が有名かもしれない。

でも俺は色とりどりに咲くリナリアが1番好きだ。

俺がカメラに目覚めたのは父の影響で、子供の頃からデジカメで写真を撮るのが遊びだった。
父は子守りも兼ねて色んな所に連れて行ってくれ、一緒に沢山の風景を撮った。海や公園、工業地帯……。

そんな俺が、初めて"この人を撮りたい!"と衝動的に思ったあの時、あの瞬間に……。

入学式の壇上で挨拶をしている同級生。

その人は名前を「二階堂椿」と言った。

透き通るような白い肌、色素の薄い瞳は何処か一点を見つめ、小さな唇から溢れる声は心地よく耳に響いた。

この気持ちが【恋】だと気付くまでには、そう時間は掛からなかった。寮でもずっと目で追ってしまう。何か近づけるキッカケを探って……。



徠駕とは小学校の途中から仲良くなって腐れ縁みたいな関係だ。人見知りする俺にとっては徠駕の存在は内心有難い。そんな徠駕が二階堂君と仲良い九条ってやつと同室だと分かった時は本当に嬉しかった。
さらに二階堂君と九条君と仲良さげな円城寺君とも友達になれて、一気に距離が縮まった。ま、その分二階堂君と九条君が付き合ってることも直ぐに分かったんだけど。


よくさ、「友達で居られるだけで幸せ」とか言う人居るけど……それって本心で言ってる?
ちょっとでも近づきたいって思わない?
俺は、近づきたいって思うよ。でもさ、玉砕する勇気もなくて……中途半端だよね。
結局ずっと一緒に居る為に、今日も俺の気持ちがバレないように振る舞うまでだよ。


まぁ、冗談で誘った写真部に一緒に入れたのは嬉しい誤算!
で、このG.W.に俺は遂に二階堂君を撮るチャンスを手に入れた!例え友達でも、俺しか気付かない表情を、俺にしか撮れない写真を撮ってみせるよ……。





「磨理王さん!お待たせしました!」
「椿君、俺も今来た所だよ」

今日は2人で国営公園へ出掛ける。電車で移動して、さらにそこから直通のバスに乗り換える。方向音痴の俺は、1人ではなかなかこの移動手段は厳しい。なんせ今までは父親の運転する車に乗ってれば良かったのだから。

「磨理王さん!電車の乗り口、そっちじゃないですよ!!」
「えっ?そうなの?」

駅構内の地図なんて見たところでワケ分かんない。

「こっちです。行きましょう」

「椿君が一緒に来てくれて良かったよ。俺だけじゃ、多分全然違う場所に着いてた」

「あはは!何かそうなる予感がしますね。駅、混んでますから逸れないように引っ付いて移動しましょう」

そう言って腕を組んで移動した。
今まで方向音痴で得したことなんてなかったけど、今日は方向音痴で良かったって本気で思った。

二階堂椿とは背丈も似てるから視線を送ると自然に目が合う。
「迷子にならないで下さいね!」
そう言われて、笑い合った。

長い時間の移動も、意外と人懐っこい椿君のお陰で楽しく過ごせた。

「あのさ、椿君に提案したいんだけど。いいかな?」
「はい!何でしょう?」
「これを機会に"さん"付けで呼ぶの止めて欲しいなって……。そんで俺も"椿"って呼びたいんだよね」
「良いんですか⁉︎嬉しいです!」

「本当に?じゃあ今から呼び捨てね。もし"さん"付けで呼んだら……何か罰ゲームでもする?」
「えぇ!怖いですね!罰ゲーム何にしますか?ご飯奢りますか?」

「それじゃあ普通過ぎない?俺の写真のモデルになってよ」

「それって罰ゲームですか?」
意外な返事が返ってきた。

「撮られるの、イヤじゃないの?」
「磨理王さんが撮ってくれれば、嬉しいですよ。逆に僕をモデルにする方が罰ゲームじゃないですかね?」
全然映えないですよ。と笑った。

「そんな事ないよ。じゃあ、いっぱい撮らせてもらおっかな。罰ゲームはやっぱりご飯奢って。今、磨理王さんって言ったよ!」

「えっ!あっ!!もぅ始まってるんですか?ズルいです!!」

「じゃあ、先ずは練習しよっか。"磨理王"って10回言ってよ」
「磨理王。磨理王。磨理王……結構慣れてきました。磨理王。磨理王。磨理王!もう大丈夫そうです」

「じゃ、今からスタートだよ。椿!」

それからバスへの乗り換えも持ち前の方向音痴を発揮し、ずっと椿が腕を組んで誘導してくれた。


「わーー!!広いですね!!気持ちいいー!」

無事に到着出来たのは他でもない椿のお陰。

俺も良いところ見せたいんだけどな。

「えっとね、今はネモフィラが見頃なんだけど、その手前に見たい花が咲いてるはずなんだ………アッチかな?」

すると椿は俺が持ってる園内マップを見て……

「いや……?多分向こうですよ」
と全然違う方向を、指さした。

「いつも自分が推測する方向より90°ズレてるんだよね……」
「磨理王ほどの方向音痴な人には、初めて出会ったから面白いですよ!」

やっぱりカッコつけるのは難しいみたいだ。
(………後でアイス奢ってあげよ)

椿のお陰でリナリアが咲いてる場所まですんなり辿り着いた。丁度満開を迎えていた。

「俺、この花が好きなんだ。リナリアっていうんだよ。金魚みたいで可愛いでしょ。ここで、椿撮っていい?」
「はい!本当に僕でいいんですか?」
「勿論!椿が良いんだ。向こう側にしゃがんで!」

レンズ越しに映る椿に集中した。
何枚かシャッターを切ると、もっと撮りたいという欲が芽生える。

もう少し、いいよね?


「次は、立ってもらっていい?」

はい!と快い返信が返ってきた。
低い位置から見上げるように撮った。空を仰ぐ椿に、天使の梯子のように太陽の光が差し込んだ。

それから2人で公園内を堪能して周り、楽しい時を刻み続ける。

「ネモフィラもキレイでしたけど、リナリアも可愛かったですね。僕も花の名前だから、花言葉とか昔調べたりしたんですよ。確か"敬愛"とか"完璧"みたいな感じで……大それた意味を持ってしまった……って、妙なプレッシャーを感じました」

「なんで?椿にピッタリじゃん」

「そうですか?ありがとうございます。リナリアの花言葉って何ですかねぇ?」

キラキラの笑顔で椿が呟いた。




……知ってるよ。


リナリアの花言葉。



【この恋に気付いて】







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