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本編

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 光の神の神殿まで帰ってくると、「よし!」と気合を入れる。

(笑顔、笑顔……)

 朝は嫌な態度をとってしまった。謝らないといけないな。

 神殿へと行ってみたが輝惺様はいない。

 今日はどこかに出かけると言っていただろうか……。

 麿衣まえ様から受け取った荷物を渡さないといけないのに。

 預かった箱はとても軽い。赤い紐で結ばれてあるが、簡単に開けられそうだ。

 そういえば荷物を取りに行ってくれと頼まれただけで、荷物の内容までは教えてくれなかった。

 仕事上、僕に教える必要はないのかもしれない。

 それとも教えられないような物なのか?

 (むむむ……気になる……)

 蝶々結びにされただけの紐に手をかける。

 ダメだ、ダメだと頭では言っていても、体は言うことを聞かない。

 スルリと紐を解いてしまった。

(ちょ、ちょっとだけ……)

 辺りを振り返り、輝惺様がいないのを確認すると蓋を少しずらして見てしまった。

「花? 何に使うのだろう……」

 中には溢れるほどの花が入っていた。

 誰かにあげるのだろうか。

 またソッと蓋を閉める。

「如月? 帰っているのかい?」

(わっ!! 輝惺様が帰ってこられた!!)

 大急ぎで紐を結ぶ。

 慌てすぎて、いつもはすんなりと出来る蝶々結びに手こずってしまった。

「は、はい!! ただいま参ります!!」

 なんとか結び直すと、箱を持って輝惺様の所まで走って行った。

「神殿にいたんだね」

「はい、僕もさっき帰って来て、輝惺様がいるか確認しに行ってたところでした」

 麿衣様から預かった箱を渡す。

「ああ、ありがとう。大地神の神殿は楽しめたかな?」

「はい! お花のお茶をご馳走になりました」

「そうか、麿衣の入れる茶は絶品だ。私も今度行くとしよう」

 喋りながらさりげなく輝惺様が紐を触っている。バレないかとヒヤヒヤした。

 結局、何に使うのかは教えてもらえなかったが、僕が勝手に開けたのも気づかれなかった。


 朝の気まずい空気にはならなかったのでホッとした。

 笑顔でいることを心がけて過ごしたから、輝惺様も笑顔で接してくれた。

 天袮あまね様の言う通り、僕の考えすぎだと思いたい。

 そう自分に言い聞かせた。


 
 次の日の朝も、また棟を出るまで輝惺様と並んで歩く。

 輝惺様はいつも早起きだ。もしかして、僕が朝拝へ出かける時間に合わせてくれているのだろうか……。

 なんて思ってしまうほど、毎朝同じタイミングで部屋から出てくる。

「如月、今日は私は一日出掛けている。神殿をお願いできるかな?」

「はい。分かりました」

 輝惺様はそれだけ言うと、神殿へ向かってしまった。

 昨日も今日もどこに行くのだろう。

 それを巫子が気にするのはいけないことだろうか。

 僕が気にしすぎているだけかもしれない。普通にどこに行くのか、聞けば教えてくれそうな気もする。

 しかし昨日誤魔化されたのを思い出すと勇気が出なかった。

 朝拝から帰って来た時、輝惺様は既にいなかった。
 
 
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