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「ん……」
「叶翔、大丈夫か?」
「俺……。海星が助けてくれたんだな」
「あぁ、手荒な真似して悪かった。こうするしか、思い浮かばなくて」
「いや、感謝してる。ありがとう。あの……伊央は?」
「俺が来た時には、意識を失ってた。今は抑制剤が効いてるはずだ。チャイムが鳴ったら保健室に連れて行く。お前も診てもらえ」
「俺は……伊央に酷いことをしてしまった」
「ヒートに当てられると、アルファは自制が効かなくなる。仕方ないとは言わないが……あの時のお前は、明らかに叶翔じゃなかった」
「———どうにか抑えようとしたんだ。でも、体ごと別の何者かに支配されたような感覚だった……怖かった……」
叶翔は自分を抱きしめ、小刻みに震えていた。
「誰にも見られなかったのは幸いだったな」
海星もため息を吐く。
下手な言葉で慰めるのも良くない。
数分の間沈黙の時間が流れると、チャイムが鳴る。
「そろそろ行くか。一人で歩けそう?」
「あぁ、海星は伊央を頼む」
海星は叶翔を責めなかった。本人が、自分の過ちを一番後悔していると察したから。
普段、教室で見せる陽気な叶翔の顔つきではない。きっと頭の中で自分を責め続けているのだろう。
どちらかも喋り出すことなく、静かに廊下を歩いた。
保健室に入ると、先生は伊央の姿を見て慌ててベッドに横たわらせた。
「あなたたち、二人ともアルファ?」
「はい、でも伊央を襲ったのは俺です。こいつは、その現場を見つけて助けてくれました」
「とにかく体を拭くものを持ってくるから」
先生は抑制剤の注射を打ったのを確認すると、給湯室へ走る。その間、二人とも伊央から離れようとしなかった。
叶翔も歩いている間に落ち着いたらしく、疲弊した様子を見せた。
「叶翔も横になってろよ。獣化したんだから」
海星はドアを開けた時の叶翔の様子が目に焼きついて離れない。あれはまさに肉食獣そのものだ。その辺のヤンキーに絡まれるのとは訳が違う。僅かにも近付けば、噛み殺されるかもしれないという恐怖心が生まれるほどの迫力だった。
まさかこんなことになるとは、本人たちさえ思っていなかったはずだ。
叶翔が意図的にしたとも考えられない。叶翔は今回、初めてラット状態を経験したのは間違いない。得体の知れない何者かに支配されたような感覚……自分の意思が通用しない状態になるなど、海星には想像もつかない。
もしその状態を経験しているのであれば、叶翔ももっと慎重になっていたと思われる。
でなければ正気に戻った後、あんなにも後悔しないし罪悪感に囚われたりもしない。
保健の先生が戻ってくると、体を拭きながら状況説明を促す。
叶翔は図書室に入ったところから、包み隠さず話した。
大体のことは想像通りだったものの、叶翔の匂いでヒートを起こした。ジャケットの匂いでヒートが加速したというは、表情には見せないものの、やはりショックには変わりない。
自分ではないアルファの匂いに当てられヒートを起こしたというのは、独占欲の強いアルファには耐え難い屈辱だ。
しかし隣で先生に説明しながらも、話すほどに落胆していく叶翔を見ていると、とても憎めなかった。そうできれば海星も少しは気持ちが楽になれただろう。
先生は叶翔に「すぐに病院を受診しなさい」と言いながら、総合病院の先生に連絡を取る。
学校で獣化したのだけは、不幸中の幸いだ。学校指定の病院ですぐに診てもらえるのだ。
叶翔はフラフラしながら立ち上がり、「帰ります」と先生に告げた。
「そんな状態で出歩くのは危険よ。急がなくていいから」
「いえ、伊央が目覚めた時、俺がいたら怯えちゃうだろうから」
叶翔はそれだけ言うと保健室を出る。海星は慌てて叶翔を追いかける。
「先生、伊央をお願いします!! また戻ってくるんで」
それだけ叫ぶと海星を保健室を後にした。
叶翔のジャケットでヒートが悪化したという話だったが、今は海星のジャケットを置いてある。伊央はそれを握りしめてすやすやと眠っていた。先生がそんな伊央を見て「安心しきっているわね」と言ったのが頭から離れない。
叶翔の匂いには発情たのに、自分の匂いでは安心する……同じアルファなら前者になりたいと思うのはおかしいだろうか。
伊央を独り占めしたい。
叶翔には渡したくない。
海星は密かに思いながら、叶翔の背中を追った。
「叶翔、大丈夫か?」
「俺……。海星が助けてくれたんだな」
「あぁ、手荒な真似して悪かった。こうするしか、思い浮かばなくて」
「いや、感謝してる。ありがとう。あの……伊央は?」
「俺が来た時には、意識を失ってた。今は抑制剤が効いてるはずだ。チャイムが鳴ったら保健室に連れて行く。お前も診てもらえ」
「俺は……伊央に酷いことをしてしまった」
「ヒートに当てられると、アルファは自制が効かなくなる。仕方ないとは言わないが……あの時のお前は、明らかに叶翔じゃなかった」
「———どうにか抑えようとしたんだ。でも、体ごと別の何者かに支配されたような感覚だった……怖かった……」
叶翔は自分を抱きしめ、小刻みに震えていた。
「誰にも見られなかったのは幸いだったな」
海星もため息を吐く。
下手な言葉で慰めるのも良くない。
数分の間沈黙の時間が流れると、チャイムが鳴る。
「そろそろ行くか。一人で歩けそう?」
「あぁ、海星は伊央を頼む」
海星は叶翔を責めなかった。本人が、自分の過ちを一番後悔していると察したから。
普段、教室で見せる陽気な叶翔の顔つきではない。きっと頭の中で自分を責め続けているのだろう。
どちらかも喋り出すことなく、静かに廊下を歩いた。
保健室に入ると、先生は伊央の姿を見て慌ててベッドに横たわらせた。
「あなたたち、二人ともアルファ?」
「はい、でも伊央を襲ったのは俺です。こいつは、その現場を見つけて助けてくれました」
「とにかく体を拭くものを持ってくるから」
先生は抑制剤の注射を打ったのを確認すると、給湯室へ走る。その間、二人とも伊央から離れようとしなかった。
叶翔も歩いている間に落ち着いたらしく、疲弊した様子を見せた。
「叶翔も横になってろよ。獣化したんだから」
海星はドアを開けた時の叶翔の様子が目に焼きついて離れない。あれはまさに肉食獣そのものだ。その辺のヤンキーに絡まれるのとは訳が違う。僅かにも近付けば、噛み殺されるかもしれないという恐怖心が生まれるほどの迫力だった。
まさかこんなことになるとは、本人たちさえ思っていなかったはずだ。
叶翔が意図的にしたとも考えられない。叶翔は今回、初めてラット状態を経験したのは間違いない。得体の知れない何者かに支配されたような感覚……自分の意思が通用しない状態になるなど、海星には想像もつかない。
もしその状態を経験しているのであれば、叶翔ももっと慎重になっていたと思われる。
でなければ正気に戻った後、あんなにも後悔しないし罪悪感に囚われたりもしない。
保健の先生が戻ってくると、体を拭きながら状況説明を促す。
叶翔は図書室に入ったところから、包み隠さず話した。
大体のことは想像通りだったものの、叶翔の匂いでヒートを起こした。ジャケットの匂いでヒートが加速したというは、表情には見せないものの、やはりショックには変わりない。
自分ではないアルファの匂いに当てられヒートを起こしたというのは、独占欲の強いアルファには耐え難い屈辱だ。
しかし隣で先生に説明しながらも、話すほどに落胆していく叶翔を見ていると、とても憎めなかった。そうできれば海星も少しは気持ちが楽になれただろう。
先生は叶翔に「すぐに病院を受診しなさい」と言いながら、総合病院の先生に連絡を取る。
学校で獣化したのだけは、不幸中の幸いだ。学校指定の病院ですぐに診てもらえるのだ。
叶翔はフラフラしながら立ち上がり、「帰ります」と先生に告げた。
「そんな状態で出歩くのは危険よ。急がなくていいから」
「いえ、伊央が目覚めた時、俺がいたら怯えちゃうだろうから」
叶翔はそれだけ言うと保健室を出る。海星は慌てて叶翔を追いかける。
「先生、伊央をお願いします!! また戻ってくるんで」
それだけ叫ぶと海星を保健室を後にした。
叶翔のジャケットでヒートが悪化したという話だったが、今は海星のジャケットを置いてある。伊央はそれを握りしめてすやすやと眠っていた。先生がそんな伊央を見て「安心しきっているわね」と言ったのが頭から離れない。
叶翔の匂いには発情たのに、自分の匂いでは安心する……同じアルファなら前者になりたいと思うのはおかしいだろうか。
伊央を独り占めしたい。
叶翔には渡したくない。
海星は密かに思いながら、叶翔の背中を追った。
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