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3章
47 離してください
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「タイタン国国王様に申し上げます。わたくしはギガス国前妃エウレリーダと申します」
前妃様が大きな男の人に礼を取りました。
「タイタン国の小人様……三妃様にはガルド神の『殉死はならぬ』とのご信託を賜りました。また、わたくしとクロムの問題も、身体を張り解決をしていただきました。その負荷の為、体力を失い記憶が混乱しております。お早い静養をお勧め致します」
そして侍女さんに持って来た服をその人に渡しています。僕は侍女さんにドワフの礼装に着替えさせられました。身体が動かないですし、肩の傷が痛いです。
「どうか小人様をお早くお連れ帰りください」
前妃様は何を言って……。
「僕が役に立たないからですか?醜いからですか?前妃様!嫌です!王様、見捨てないで下さい!」
「ターク?何を……」
この男の人はなぜ僕の名前を呼び捨てにしているのですか。しかも動けない僕に手を伸ばそうとしています。
「無礼な。僕はドワフ国第六皇子タークです。ギガス国第一妃と知ってのその手、その狼藉ですか?」
男の人は片眉を上げて少し考えました。それから片膝をつき胸に手を当て臣下の礼を取ります。
「…………失礼した。余はタイタン国国王ガリウスと申す。我が国の三妃を迎えに参った」
三妃……そんな王家の末席を汚す妃が、ギガス国にいるのでしょうか。
「王様、王様のご兄弟ご姉妹の誰かがタイタン王に嫁すのですか?三妃といえば王家で不祥の子や訳ありが多いのですが、ギガス国にそんな子は……」
くす……と笑ってしまいました。タイタン国は大国と聞きましたから、訳ありの子でも受け入れているのでしょう。救済は世の常識とは言え、とても既得な国です。
「でも、三妃など恥ずかしくて名乗れませんね。僕なら死にたいくら……あ、何を!」
僕はタイタン国の国王様に抱き上げられました。そのまま腕に抱えられます。
「らちが開かない。ともあれ、連れ帰る」
「離してください!王様、助けて下さいっ!」
王様は床に座ったまま動きません。どうして助けてくれないのですか!
「離して!僕はギガス国の第一妃です。お、王様っ!王様ーーっ!」
僕は身体が動かずただ抱き上げられたまま黒馬さんに乗せられました。タイタン国王様の腕の中で首だけ動かします。前妃様と侍女さんがタイタン国国王様に礼をとって腰を屈めています。
「どうして、タイタン国国王様が僕を連れていくのですか?どこに連れていくのですか?」
僕はタイタン国国王様に食ってかかりました。でもタイタン国国王様は眉を顰めながら、僕を見下ろします。怖い表情でした。
「少し黙っておれ。早馬で行くので舌を噛む」
黒馬さんは地鳴りをするくらいの足音を鳴らしながら、南の森を越えました。ギガス国から西へ向かうとタイタン国があります。一日走り続けていた黒馬さんの歩みがゆっくりになり、タイタン国国王様が野宿をすると言います。
「僕はドワフに帰れないのですか」
タイタン国国王のマントの上に寝かされていた僕は黒馬さんに水をやるタイタン国国王様に力無く告げました。もう、首を傾けることも出来ないのです。
「……そなたは何者だ」
タイタン国国王様が僕に木匙で水を飲ませてくれました。意外にも僕の口に合う小さな大きさで驚きました。この人はまだ若いのに、小さなお子様でもいるのでしょうか。
「僕はドワフ国第六皇子ターク・ドワフです」
「ふむ……ギガス国の第一妃と申されたが」
もうひと匙飲ませてくれました。焚き火に映る顔は無表情で何を考えているか分かりません。
「王様が即位したため王妃が必要となり、昨日夕方第一妃としてギガス国入りをしました」
「そなた身一つのようだが。一妃として嫁すのに、それはなかろう」
「急を要するため、荷は後から来ると王様は仰りました」
「なるほど……では、そなたはタイタン国第三妃ではないと申すか」
僕は少しムッとしました。
「僕はドワフ国の第六皇子ですが、王としての学びを受けました。神官長としての学びも習得しています。そんな僕が浅ましい三妃などあり得ません」
「三妃は浅ましい?……それほど嫌か?」
タイタン国国王様は首を傾げます。何を言っているのだろう、この国王様は。
「あ、当たり前です。正王妃は二妃まで。三妃は問題のある王族子弟や、王の慰めものとなった侍女のお手付きなど下賤の者です。王族の常識でしょう?僕はいくら醜くても役に立たなくても、正統王族の末席にいる者として、三妃になんてなりたくありません」
「成る程……タークが自分を切り捨てようとする気持ちには、王家のそのような慣例があったからなのだな。余は下級貴族育ち故、知らなかった。では名称を変更せねばなるまい。で、そなたはギガス王の一妃として、初夜は成したのか?」
僕は目を伏しました。あの優しい口付けを思い出したからです。顔が赤くなります。
「王様は僕に口付けをしてくれました。……初めてでした」
「さすがに奴も理性はあったと見える。終戦締結の契約直後だからな。余も奴を斬るわけにも、ギガス国へ戦争を仕掛けるわけにはいかぬ」
「どういうことですか?僕の王様のことをご存知なの……で……」
「僕の王様……か」
タイタン国国王様の顔が近づいてきます。僕は怖くて目を閉じてしまいました。
「んっ……うっ……」
大きな舌が入り込み唾液が入って来て気持ち悪いと思い、僕は舌を思い切り噛みます。
「……っ!」
でも止めてくれません。舌を傷つけたのでしょう。血の味がします。僕は驚くほど甘い唾液を嚥下してしまいました。ふ……と手足が温かくなるような感じがします。
「奴の……口直しだ。寝るがよい。明日は城に行く」
僕は怠くて眠たくて
「どの城へ」
と聞きそびれました。
前妃様が大きな男の人に礼を取りました。
「タイタン国の小人様……三妃様にはガルド神の『殉死はならぬ』とのご信託を賜りました。また、わたくしとクロムの問題も、身体を張り解決をしていただきました。その負荷の為、体力を失い記憶が混乱しております。お早い静養をお勧め致します」
そして侍女さんに持って来た服をその人に渡しています。僕は侍女さんにドワフの礼装に着替えさせられました。身体が動かないですし、肩の傷が痛いです。
「どうか小人様をお早くお連れ帰りください」
前妃様は何を言って……。
「僕が役に立たないからですか?醜いからですか?前妃様!嫌です!王様、見捨てないで下さい!」
「ターク?何を……」
この男の人はなぜ僕の名前を呼び捨てにしているのですか。しかも動けない僕に手を伸ばそうとしています。
「無礼な。僕はドワフ国第六皇子タークです。ギガス国第一妃と知ってのその手、その狼藉ですか?」
男の人は片眉を上げて少し考えました。それから片膝をつき胸に手を当て臣下の礼を取ります。
「…………失礼した。余はタイタン国国王ガリウスと申す。我が国の三妃を迎えに参った」
三妃……そんな王家の末席を汚す妃が、ギガス国にいるのでしょうか。
「王様、王様のご兄弟ご姉妹の誰かがタイタン王に嫁すのですか?三妃といえば王家で不祥の子や訳ありが多いのですが、ギガス国にそんな子は……」
くす……と笑ってしまいました。タイタン国は大国と聞きましたから、訳ありの子でも受け入れているのでしょう。救済は世の常識とは言え、とても既得な国です。
「でも、三妃など恥ずかしくて名乗れませんね。僕なら死にたいくら……あ、何を!」
僕はタイタン国の国王様に抱き上げられました。そのまま腕に抱えられます。
「らちが開かない。ともあれ、連れ帰る」
「離してください!王様、助けて下さいっ!」
王様は床に座ったまま動きません。どうして助けてくれないのですか!
「離して!僕はギガス国の第一妃です。お、王様っ!王様ーーっ!」
僕は身体が動かずただ抱き上げられたまま黒馬さんに乗せられました。タイタン国王様の腕の中で首だけ動かします。前妃様と侍女さんがタイタン国国王様に礼をとって腰を屈めています。
「どうして、タイタン国国王様が僕を連れていくのですか?どこに連れていくのですか?」
僕はタイタン国国王様に食ってかかりました。でもタイタン国国王様は眉を顰めながら、僕を見下ろします。怖い表情でした。
「少し黙っておれ。早馬で行くので舌を噛む」
黒馬さんは地鳴りをするくらいの足音を鳴らしながら、南の森を越えました。ギガス国から西へ向かうとタイタン国があります。一日走り続けていた黒馬さんの歩みがゆっくりになり、タイタン国国王様が野宿をすると言います。
「僕はドワフに帰れないのですか」
タイタン国国王のマントの上に寝かされていた僕は黒馬さんに水をやるタイタン国国王様に力無く告げました。もう、首を傾けることも出来ないのです。
「……そなたは何者だ」
タイタン国国王様が僕に木匙で水を飲ませてくれました。意外にも僕の口に合う小さな大きさで驚きました。この人はまだ若いのに、小さなお子様でもいるのでしょうか。
「僕はドワフ国第六皇子ターク・ドワフです」
「ふむ……ギガス国の第一妃と申されたが」
もうひと匙飲ませてくれました。焚き火に映る顔は無表情で何を考えているか分かりません。
「王様が即位したため王妃が必要となり、昨日夕方第一妃としてギガス国入りをしました」
「そなた身一つのようだが。一妃として嫁すのに、それはなかろう」
「急を要するため、荷は後から来ると王様は仰りました」
「なるほど……では、そなたはタイタン国第三妃ではないと申すか」
僕は少しムッとしました。
「僕はドワフ国の第六皇子ですが、王としての学びを受けました。神官長としての学びも習得しています。そんな僕が浅ましい三妃などあり得ません」
「三妃は浅ましい?……それほど嫌か?」
タイタン国国王様は首を傾げます。何を言っているのだろう、この国王様は。
「あ、当たり前です。正王妃は二妃まで。三妃は問題のある王族子弟や、王の慰めものとなった侍女のお手付きなど下賤の者です。王族の常識でしょう?僕はいくら醜くても役に立たなくても、正統王族の末席にいる者として、三妃になんてなりたくありません」
「成る程……タークが自分を切り捨てようとする気持ちには、王家のそのような慣例があったからなのだな。余は下級貴族育ち故、知らなかった。では名称を変更せねばなるまい。で、そなたはギガス王の一妃として、初夜は成したのか?」
僕は目を伏しました。あの優しい口付けを思い出したからです。顔が赤くなります。
「王様は僕に口付けをしてくれました。……初めてでした」
「さすがに奴も理性はあったと見える。終戦締結の契約直後だからな。余も奴を斬るわけにも、ギガス国へ戦争を仕掛けるわけにはいかぬ」
「どういうことですか?僕の王様のことをご存知なの……で……」
「僕の王様……か」
タイタン国国王様の顔が近づいてきます。僕は怖くて目を閉じてしまいました。
「んっ……うっ……」
大きな舌が入り込み唾液が入って来て気持ち悪いと思い、僕は舌を思い切り噛みます。
「……っ!」
でも止めてくれません。舌を傷つけたのでしょう。血の味がします。僕は驚くほど甘い唾液を嚥下してしまいました。ふ……と手足が温かくなるような感じがします。
「奴の……口直しだ。寝るがよい。明日は城に行く」
僕は怠くて眠たくて
「どの城へ」
と聞きそびれました。
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