五国王伝〜醜男は美神王に転生し愛でられる〜〈完結〉

クリム

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7 水の子供ニュト

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「青国と緑国は端境にあってまるで二つの国が入り組むように存在する」

 明の言葉に直樹は遠く見える二つの色に頷いた。

「青王ニュト、緑王トトが統べる国だ。ニュトは多分堕胎児だろう。記憶を持たず姿もなかった」

 青は水……湖は真っ青で澄み渡り、隣の森林と接して、太陽の光を反射している。

「ニュトに姿を与え、育ててたのはトトだ」

 明は思いを馳せた。





 湖の中でさざ波が起き、青い髪が煌めいた。

「青王様、どちらです?」

「その名前は、嫌。トト様からいただいた名前で呼んで」  

 老人の域に達した女官長は、湖の端に立ち、

「ニュト様」 

と、苦笑する。

 湖の中からゆっくりと泳ぎ渡る痩身が、上がってきて、女官長は膝をついた。

「本当にお美しい」

 ニュトは長い青銀の髪を草原に垂らし、裸体のまま青宮に入っていく。

 けぶるようなまつ毛に滴る水滴が跳ね軽やかに歩き、王室に入ると緑王を探した。

「トト様は、どこ?」

 青い宝玉のような瞳が女官長を見つめ、女官長は頭を下げて柔らかな布を差し出す。それも受け取らず、部屋の中をうろうろとさ迷う。

「今日はおいでには…。緑宮でお務めかと。さあ、ニュト様も……」

 ニュトは

「いや、いや、いやっ…」

と髪を振り乱し、顔を両手で覆った。

「トト様が、ご寝所で誰かと……いや!」

「王の務めでございますよ、ニュト様。ニュト様も……」

「いや…」

 指からはらはらと流れ落ちる涙に、女官長は諦めて、布を体にかけると寝台にニュトを座らせる。これでは、白珠すらもいただけない……と軽くため息をついた時、王室の扉が開き緑王が現れた。

「これは緑王様」

 女官長が膝をつき、緑王に頭を下げる。後ろには緑国の文官長が控えている。

「トト様!」

 緑王トトは、飛ぶように抱きついてきた痩身を抱き上げ、青国の女官長に文官長を呼ぶように告げた。

「カイユ、しばらく扉の外へ」

 緑文官長が礼を取り下がると、トトはニュトの流し髪に口をつける。

「濡れているな。拭いてやろう」

「はい……トト様は……誰と……」

 トトはニュトを膝にのせ、濡れた髪を拭き、肌着をかけてやる。トトは美しく育ったニュトを見下ろす。

 戦地で爆弾を入れた子どもを助けようとして、吹き飛んだ自分がいまここにいる。厳つく怖いと言われた容貌が、冴え渡る背高の美貌に変わり、人々に崇められ、求められる日々への違和感。

 五十過ぎの戦地での屈強の軍教官であったプライドを、未練がましく忘れられずにいるのだ。

 王という役割は果たすことが出来たが、男に組み敷かれる異質な感覚がトトを苦しめ、いつしかニュトの愛らしさがいとおしさが支えになっていたのを理解した時に、それは愛へと変化した。

 トトの母の故郷フィンランドの森と湖は豊かで、その心象のままの湖の中にたゆたう青髪の赤子を掬い上げ、すでに15年以上になろうか、ニュトは美しく育ったが、心象がなく、青国は定まらない。

「緑王様、青王様」

 互いの文官を呼び寄せたトトは、ニュトを寝台に降ろし、口を開いた。

「私がニュトと肌を合わせることに、意義はないか?」

 ニュトが目を見開いた。

「記憶鳥から記憶を探りましたが、他国者が他国の女と交合することは禁忌となります。それ以外にはなにも」

「つまりは、王が王と交合することに、問題はないと」

「王同士の交合は前例がありませんが、このままでは青国が滅びます。緑王に青国を委ねます……」

 ニュトの心象は、水しかない。それ以外がなにもないのだ。青国はただ美しく貧しい国と成り果てていた。

「トト様、ニュトは……トト様と……」

 胎児のように水の中で漂っていたあの小さなニュトが大きくなり、涙を溢れさせトトを見上げて来る。

「ニュト……お前を愛おしいと、俺は思っている」

「トト様、ニュトも、ニュトも、ずっとお慕いしていました……」

 頬に手を当て、ゆっくりと口づけた。トトはきつくニュトを抱き締める。

 ずっと…ニュトを抱きたかった…。

 トトは自ら育てたニュトを抱きしめ、おずおずと開く唇にやや深く割り開いた。

「んっ……」

 舌を絡めると鼻にかかる声を漏らし、ニュトは気を失うように目を閉じてしまった。
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