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29 親書大使
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「シンラ、緑と青の森だよ」
直樹が興奮した声を上げた。二人が乗るくらい平気なほど大きくなったクロの手綱を背後から握るシンラを見上げる。
「もうじき湖が見える。泉より大きいから、驚くぞ」
「泉より大きいの?海かな?」
青緑国へ森の親言使として向かう直樹が、クロの背の上であちらこちらを見ては歓声を上げている。最近ではたまに異世界の話をするようになった直樹は、表情がすこぶる明るくなった。
「綺麗、綺麗だね、シンラ」
森よりも明るい木々と、前方に見える輝きから連なる河、川。緑の豊かな緑国は、美しい青国と和合し、今までにない大いなる豊かさを持っている。
「そうだな」
シンラは森の王として、ジジからの言葉を頭の中で反芻していた。
「よろしいですか。直樹は森の伴侶ですがら黒王なのです。シンラ、あなたは森の王でありながら、黒王の和合者。和合者は不老の永世者ではありますが、不死ではありません。直樹を守るために精進なさいませ」
直樹は黒国王である。それは黒国が認めている。だから黒国は維持されているのだ。
シンラ自身は森の王として森を五国と対等にしたかった。森は唯一、五国との取り引きがない。貧しくはないが、豊かでもない森。各国の『欠けたる者』が捨てられる森。シンラは森の国の王として、五国と対等でありたいと思うのだ。
「シンラ?」
直樹が心配そうにシンラの服を掴む。尻尾が下がっていたのを見られたのかもしれない。
「大丈夫だ。口付けをしてもいいか?」
「うん、してほしい」
シンラは手綱を片手で持ち、直樹を左手で抱き締めると、クロの背の上でそっと唇を合わせた。直樹の唇が緊張からか微かに震えていて、シンラの唇に下から吸い付いて来る。
「ん……」
ちゅ、ちゅ、とシンラの下唇に吸い付き舌を舐めて必死で吸う仕草は、まるで赤ん坊が母親の乳を求めるようで、直樹がどれだけ不安なのが分かり、背後からシンラは強く抱き締めた。
「大丈夫だ。ジジとフルトリから作法をたくさん教えてもらっただろう?それに即位式で会ったことがある見知った者だ」
「うん……」
直樹が心配しているのは、宮仕えの者たちの視線だろう。
「飛ばすぞ」
風を切り天空を走り抜ける。青緑宮の前には大きな湖があり、それは浅いところが青に、深いところは緑に輝き、見事な色彩を醸し出していた。
そのほとりの天空を突き刺すような、三角の屋根が並ぶ宮。その玉石テラスに降り立ち、並び合う青と緑の文官と武官とに、シンラは毅然と言い放つ。
「森の知恵者ジジの親言者、森の伴侶黒王直樹と共に森の王シンラが到着した。青緑王に目通りを」
ざわざわと困惑した人々が、直樹の姿を認めると慌てて直樹の前に集まり膝を付く。
「ようこそ、黒王様」
直樹が羽織っている草木染めのローブを握りしめ、中に着る黒の着物を隠した。
「何故、僕だけ……」
「宮の者が失礼をした。森の王よ」
震える声で平伏する官に二の句が告げられない直樹を差し止めたのは、背高な美丈夫な男だった。ひと房が青い長い髪で、残りを首筋で切った青緑王だった。
「こちらへ、森の王、並びに伴侶殿」
シンラと直樹はテラスから玉石造り宮に入り、王の私室へ招かれた。後ろに付く文官達をちらりと見るが、文官は直樹ばかりを見ている。
マナが草木色の森のローブを脱ぎ、木炭墨で染めた黒の着物を晒し、両手を胸元に当てた口上の礼儀の仕草をして、椅子に座る青緑王に頭を下げた。
「青緑王トト様並びにニュト様へ、森の知恵者ジジからの親言を申し上げます。青緑国には幾久しくの繁栄を……」
ジジから教えられた口上を、真っ赤な顔をして一所懸命話す直樹が話し終わると、ふーっと息を吐き胸元から手を降ろした。
「お久しぶりです。トト様。二十年振り……ですか?」
次にそう言い出し、小首を傾げる。それを見て青緑国の文官と女官が
「お可愛らしい」「愛くるしい」
だのと囁き合う。
「済まないな、直樹殿。ニュトはこういった席には出てこないのでな。素晴らしい口上だった。やはり伝書鳥よりも、口伝えはよいな。礼を言う。しばし滞在をと、宮内外の見聞を許そう。折を見てニュトに会わせよう」
シンラは直樹が満足した表情で頭を下げたのを見下ろし、直樹と部屋を出る。
「森の王はこちらへ」
シンラを王の貴賓室ではない、客室に案内をしたのを見て、直樹が泣きそうになりながらシンラのローブを掴む。
「シンラと一緒にこっちにいます」
シンラが何か話す前に、直樹がシンラの客室に入ってしまう。
「黒王様、困ります!」
文官が部屋の扉を叩くが直樹は出てこようとしない。
「宥めて部屋に戻すゆえ、文官殿は控えていろ」
シンラはそう言って部屋に入った。
直樹が興奮した声を上げた。二人が乗るくらい平気なほど大きくなったクロの手綱を背後から握るシンラを見上げる。
「もうじき湖が見える。泉より大きいから、驚くぞ」
「泉より大きいの?海かな?」
青緑国へ森の親言使として向かう直樹が、クロの背の上であちらこちらを見ては歓声を上げている。最近ではたまに異世界の話をするようになった直樹は、表情がすこぶる明るくなった。
「綺麗、綺麗だね、シンラ」
森よりも明るい木々と、前方に見える輝きから連なる河、川。緑の豊かな緑国は、美しい青国と和合し、今までにない大いなる豊かさを持っている。
「そうだな」
シンラは森の王として、ジジからの言葉を頭の中で反芻していた。
「よろしいですか。直樹は森の伴侶ですがら黒王なのです。シンラ、あなたは森の王でありながら、黒王の和合者。和合者は不老の永世者ではありますが、不死ではありません。直樹を守るために精進なさいませ」
直樹は黒国王である。それは黒国が認めている。だから黒国は維持されているのだ。
シンラ自身は森の王として森を五国と対等にしたかった。森は唯一、五国との取り引きがない。貧しくはないが、豊かでもない森。各国の『欠けたる者』が捨てられる森。シンラは森の国の王として、五国と対等でありたいと思うのだ。
「シンラ?」
直樹が心配そうにシンラの服を掴む。尻尾が下がっていたのを見られたのかもしれない。
「大丈夫だ。口付けをしてもいいか?」
「うん、してほしい」
シンラは手綱を片手で持ち、直樹を左手で抱き締めると、クロの背の上でそっと唇を合わせた。直樹の唇が緊張からか微かに震えていて、シンラの唇に下から吸い付いて来る。
「ん……」
ちゅ、ちゅ、とシンラの下唇に吸い付き舌を舐めて必死で吸う仕草は、まるで赤ん坊が母親の乳を求めるようで、直樹がどれだけ不安なのが分かり、背後からシンラは強く抱き締めた。
「大丈夫だ。ジジとフルトリから作法をたくさん教えてもらっただろう?それに即位式で会ったことがある見知った者だ」
「うん……」
直樹が心配しているのは、宮仕えの者たちの視線だろう。
「飛ばすぞ」
風を切り天空を走り抜ける。青緑宮の前には大きな湖があり、それは浅いところが青に、深いところは緑に輝き、見事な色彩を醸し出していた。
そのほとりの天空を突き刺すような、三角の屋根が並ぶ宮。その玉石テラスに降り立ち、並び合う青と緑の文官と武官とに、シンラは毅然と言い放つ。
「森の知恵者ジジの親言者、森の伴侶黒王直樹と共に森の王シンラが到着した。青緑王に目通りを」
ざわざわと困惑した人々が、直樹の姿を認めると慌てて直樹の前に集まり膝を付く。
「ようこそ、黒王様」
直樹が羽織っている草木染めのローブを握りしめ、中に着る黒の着物を隠した。
「何故、僕だけ……」
「宮の者が失礼をした。森の王よ」
震える声で平伏する官に二の句が告げられない直樹を差し止めたのは、背高な美丈夫な男だった。ひと房が青い長い髪で、残りを首筋で切った青緑王だった。
「こちらへ、森の王、並びに伴侶殿」
シンラと直樹はテラスから玉石造り宮に入り、王の私室へ招かれた。後ろに付く文官達をちらりと見るが、文官は直樹ばかりを見ている。
マナが草木色の森のローブを脱ぎ、木炭墨で染めた黒の着物を晒し、両手を胸元に当てた口上の礼儀の仕草をして、椅子に座る青緑王に頭を下げた。
「青緑王トト様並びにニュト様へ、森の知恵者ジジからの親言を申し上げます。青緑国には幾久しくの繁栄を……」
ジジから教えられた口上を、真っ赤な顔をして一所懸命話す直樹が話し終わると、ふーっと息を吐き胸元から手を降ろした。
「お久しぶりです。トト様。二十年振り……ですか?」
次にそう言い出し、小首を傾げる。それを見て青緑国の文官と女官が
「お可愛らしい」「愛くるしい」
だのと囁き合う。
「済まないな、直樹殿。ニュトはこういった席には出てこないのでな。素晴らしい口上だった。やはり伝書鳥よりも、口伝えはよいな。礼を言う。しばし滞在をと、宮内外の見聞を許そう。折を見てニュトに会わせよう」
シンラは直樹が満足した表情で頭を下げたのを見下ろし、直樹と部屋を出る。
「森の王はこちらへ」
シンラを王の貴賓室ではない、客室に案内をしたのを見て、直樹が泣きそうになりながらシンラのローブを掴む。
「シンラと一緒にこっちにいます」
シンラが何か話す前に、直樹がシンラの客室に入ってしまう。
「黒王様、困ります!」
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